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Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

2012年

2012-01-20 16:54:20 | 日記
なかなかブログの更新、コメントのお返事が出来ないまま、長い時間が過ぎて
しまいました。藁をもすがる思いでサイトを検索するうちにこちらに辿りつき、
コメントを下さった方にも返信が出来ず大変申し訳なく思っています。
時間が空くと更に再開する勇気はなく、ここまで長い間ブログを放置する事に
なってしまいました。

2011年は仕事の面ではそれなりに余裕があったのですが、プライベートでは
色々あり忙しい1年でした。今年も同様に多忙になると思いますが、このままでは
いけないと思い久し振りにブログを見直しました。
大きな事は出来ないかもしれません、また休み休みの更新になることも予想
されますが、何方かの、いくらかのお役に立てることを祈りつつ、
細々と再開させて頂こうと思います。

とにかく、少しずつでも継続していきたいと考えています。

※両方の更新は出来ないと思いますので当面掲示板は閉鎖のままとさせて
頂きます。

『末期がんは手をつくしてはいけない』

2011-04-25 15:54:29 | 日記
本日のタイトルは、既に絶版となった、金重 哲三先生の著書の
タイトルです。m3.comという医師限定のサイトでこの本のPDFファイル
を無料で配布されており、一般の方々にも是非読んで頂きたいと
申し出たところ、快く配布を了承して下さいました。
以下にアクセスして頂き、数十秒待つと『無料ダウンロード』
のボタンが出ますのでクリックしてダウンロードをして下さい。
PDFだと読み辛いという方、amazon等で中古を買う事も出来ます。
(ダウンロード出来なかったら教えて下さい)

http://www.megaupload.com/?d=YDCVFC63

いきなりびっくりするようなタイトルですが、身体が衰弱するにつれ
抗がん剤治療や輸液などの治療の効果が減り、延命をすればするほど
がんが進行し患者様は苦しまれる事になるという医療者の経験が
分かりやすく書かれた本になります。

このような良い本を無償で提供して頂いているのに意見するのは
申し訳ありませんが、金重先生の意見は、少し偏っていると感じる
箇所もあります。

抗がん剤で得られる効果の多くが一時的で限定的であっても、
その期間に患者様が自分のやりたい事が出来たり語家族と過ごす
かけがえのない時間になる事はありますし、
個人的に病気を『受容』し、『なるべく苦しまないで逝く』
という選択をする事が、いかなる場合も最も正しいとは思いません。
毅然と病気に立ち向かい、必要以上の治療を受けない事を
決断出来れば良いとは思いますが、強い方ばかりではないし、
それが出来ないとしても医療者はそのような患者様・御家族の
葛藤を理解して頂き、
「こうあるべき」という御自分の死生観にこだわらず、
共に悩む存在であって欲しいと思います。

しかし、この本に書かれている内容を知って治療を選択する
のと、何も知らずに選択するのでは大きな違いがあります。


切羽詰ってから、この本の内容を読んでも、恐らく消化不良で
終わってしまうでしょう。出来ればなるべく早く、この本を
読んで頂き、終末期の大切なケアを医療者任せにせず、より良い時間を
作り出すパートナーとして共に話し合って頂きたいと思います。

活動報告

2011-03-01 17:24:11 | 日記
一年間、在宅で担当した終末期の患者様を振り返りたいと思います。
お受けした人数は11人。男性4人、女性7人で平均年齢は70.1歳。
原発は乳がん2人、膵臓がん2人、肺がん2人、胃がん1人、肝臓がん1人、
胆嚢がん1人、大腸がん1人、原発不明1人。
このうち在宅での看取りが3人、症状悪化による入院が8人。
入院となった原因は発熱+全身状態悪化が3人、呼吸困難が3人、
家族の介護困難が1人、薬疹が1人。
この中には、御家族のお考え次第で在宅で過ごせた方もおられます。
私が担当してから在宅で過ごせた日数は30.1日。
最長が134日、次いで73日、40日。
短い方では3日が1人、4日が2人、次いで6日という結果でした。
この他、人数には入れていませんが退院して訪問が始まる前に
亡くなった方も2人いらっしゃいました。

最長の方は脚が不自由ですが独歩、通院可、化学療法中の方でした。
その方を除くと平均では20日になります。

患者様と関わらせて頂いた感想としては、もう少し早く紹介して
欲しかった…という想いはあります。訪問看護師さんも同様の事を
おっしゃっていましたが、往診・訪問介護の必要性を御家族が
考えられた時点で、残された時間は考えられているよりもずっと
短くなっている事が多いのです。
もう少し紹介が早ければ、患者様や御家族と深く関わったり、
適切な準備、より良いサポートが出来ると思います。
まして自宅に帰りたいと退院する患者様の事を考えると
もう少し色々な判断が出来たり、話を出来る時期に退院が
出来れば…と思わずにはいられません。

但しこれは医療者側の感覚・意見であって、
患者様や御家族にとっては我々との深い関わりや
良い死の準備が本当に必要なのかどうかは
患者様ごとによく考えてみる必要があります。
次回もう少し考察してみようと想います。

性格と予後

2011-02-22 11:45:44 | 日記
患者さんの性格ががんの予後にどう影響するのか、という事は多くの方に
とって興味深いテーマではないかと思います。このテーマに関する論文も
いくつかありますが、最も信頼出来るものは1999年にLancetに出た論文では
ないかと思います。

Watson M, et al. Influence of psychological response on survival in breast cancer:
a population-based cohort study. Lancet 1999;354:1331-36.

こちらでは、がんに積極的に立ち向かう「ファイティングスピリット」が
乳がんの生存率と関連しなかった、という結果でした。
もちろん、これだけでがんの予後に性格が影響しないとは言えませんが
研究のデザインや対象が578人と比較的多数の前向き研究である点から
他の同様のテーマを扱った論文よりも説得力があります。

さらに興味深いのは、同じ論文の中で、女性の抑うつと孤独感・絶望感が
再発率や生存率に影響した、という結果になっています。具体的には、
「抑うつ」を示した女性では、5年後の致命率(つまり亡くなった患者さんの割合)
が50%で、抑うつのない女性の23%よりも倍以上高く、また、孤独・絶望感の多い
女性の再発率は42%で、それ以外の女性の28%よりも有意に高かった、ということです。

このことから、どうやら患者さんの性格よりも精神状態の方が、病気の状態に大きな
影響がありそうです。経験上、症状に対する影響は更に顕著で、不眠・不安・抑うつは
互いに症状に影響し合い、予後だけでなく痛みや倦怠感、食欲や呼吸困難感などの
全ての症状も悪くします。

性格を変化するのは難しいにしても、孤独や抑うつは色々なアプローチで軽減
し得るのではないでしょうか。

スピリチュアリティについて

2011-02-17 11:11:32 | 日記
緩和ケアの領域において、スピリチュアルペインとかケアの重要性が問われて
いますが、「言葉の意味が分かりにくい」という声をよく聞きます。

スピリチュアルペインとは、これまでの価値観や自分の存在の意味を
失い、I am not OKになってしまった状態だと思います。

自己啓発に関する本を数多く著したデール・カーネギーは、
自分自身の存在価値を見出せること、自分が重要だと気付くことが
最も幸せなことだと言ったそうです。
良い意味の自己愛という事ですね。
スピリチュアルペインとは、これと逆の状態を言っているのでは
ないかと思うのです。

服部洋一先生は、スピリチュアリティを考える時に、
「目に見えない箱」を思い浮かべると良いと言いました。
この箱には患者さんの大切なものが入っています。
家族、友達、仕事、趣味、信念、誇り、哲学、宗教…。
スピリチュアルケアは、この箱と中身を大切に扱うこと。
時には中身を見せてもらい一緒に楽しむこと。

緩和ケア病棟に入院した患者様が、「元気になったらまた治療が受けたい」
と話しているのを聞いて、
この患者さんは「否認」しているので「受容」出来るように援助するべき、
等と考える人は、時に“受け入れないあなたは not OK”というメッセージになって
いないか注意するべきではないでしょうか。

時間・関係・自律(村田理論)などの言葉がしっくり来る方はそれでも
良いと思いますが、
スピリチュアルケアとは目の前の患者さんを大切に想うこと。
家族のように接すること。これ以上でも以下でもないと私は思います。