こっちゃんポイント ★★★★★
鑑賞環境 試写会 上映時間 112分 製作国 アメリカ 公開情報 劇場公開 (ムービーアイ) 初公開年月 2006/02/11 ジャンル ドラマ/犯罪 映倫 PG-12
ロサンゼルス。ハイウェイで一件の自動車事故が起きた。日常的に起きる事故。しかしその“衝突”の向こうには、誰もが抱える“感情”の爆発が待っていた。ペルシャ人の雑貨店主人は護身用の銃を購入し、アフリカ系黒人の若い2人は白人夫婦の車を強奪。人種差別主義者の白人警官は、裕福な黒人夫婦の車を止めていた。階層も人種も違う彼らがぶつかり合ったとき、悲しみと憎しみが生まれる。その先に、あたたかい涙はあるのだろうか。
(goo映画より抜粋)
色んな映画を観ていると、時としてこんな映画に出くわすことがあります。
まるで自分の心を映しだす『鏡』のような...
『クラッシュ』はまさにそんな映画。
タイトルから「派手な交通事故シーン連発でショックの連続映画か?」
と期待している人にとっては、まったくもって肩透かし。
もちろん事故の場面はありますが、
この映画が本当に意味する”クラッシュ”とは、
車と車の事故だけのコトではありませんでした。
この映画のストーリーについては、多くを語る必要はないでしょう。
観た人が、観たままに感じる映画だと感じました。
人と人との「心」のぶつかり合い・・・それがこの映画のタイトルの真意ではないか、と。
事故そのものよりも、
その後巡ってくる感情と感情とのぶつかり合に焦点を向けて作られています。
この映画にはこれといった主人公がいない。
逆に言うならば、誰もが主人公でもあります。
そして、その誰もが決して”幸せ”とは遠いところに身を置いている・・・。苦悩に頭を抱え、怒りに顔を歪め、失意や悲しみに涙するような
何かにすがったり、また孤独であったりするひとたちばかり。
実は、この作品の事前情報を得ず試写会上でチラシに初めて目を通したこっちゃんは、
この映画の監督の名前を見てちょっと戸惑ってしまいました。
ポール・ハギス...
あの「2005年日本公開における最高傑作!」との呼び声も高い
『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家。
これは、そんな人の監督デビュー作だったのです。
そこで観る前からチョット不安に。
というのは、こっちゃんはあの『ミリオンダラーベイビー』の
”赦し”の形を素直に受け入れることが出来なかったからです。
どうしてもダメなんです。あの展開が。あの結末が。
作品自体の作りを否定するのではなくて、
個人的にはどうも「理解しがたい」「認めたくない」世界観ということですね。
ただ、このことはもっと自分の年齢や経験を重ねて行けば変わってくるのかもしれないな
と、今では思うようにしています。
そこで、ここからが問題。
そんな作品の脚本・製作に携わった人の監督作品に
果たして入り込むことが出来るのか?
試写会が始まる前に こっちゃんは
早くも不安でいっぱいいっぱいになってしまいました。
どうしよう?もう席に着いちゃってるし・・・
ところがね・・・
これが・・・
なかなかどーして・・・
良いんですッ、もう!たまらなく良いッ!
もうね、中盤からラストまで鳥肌が立ちっぱなしでした!
まるで寄せては返す波のような映画。
向こうから、静かに静かに押し寄せて来た波が、
自分の足元で大きく崩れる音とともに次々と泡になっていく。
感情を一気にピークへ持って行き、そしてまたすぅーっと引いて行く。
そんな映画です。
う、上手い!素晴らしいです!
なんだろう、この胸に詰まるような感覚は?
決して”きれい事”ではない人間の一面を浮き彫りにしながらも、
心に深く熱いものを刻み込まれたようで、
とっても不思議な気持ちに辿り着いてしまいます。
ドン・チードルが良いですね。
冒頭、事故に巻き込まれた車の中で、彼が語るセリフ。
街に出れば誰かと体がぶつかったりする
でも心がぶつかったりはしない
みんな心を隠しているからみんな本当は触れ合いたいのさ
ぶつかって何かを実感したいんだ・・・
これこそが、この映画が言わんとしているところなのでしょうね。
観た後で読むと、
この言葉の意味が鋭い刃物のように自分の心に突き刺さってきます。
「事故」というものが引き金となり、ぶつかり合う心。触れ合う人生。
観る人によっては、様々な登場人物のうちの「誰か」に自分の姿を重ねてしまい、
ドキッとさせら瞬間があるかもしれません。
悪く見える人が手に余るほどの悩みを抱えていたり、
善人になりたい人が思わぬ落とし穴にハマってしまったり。
そんなドラマを観ているうちに、自然といくつかの人間関係が繋がりを見せ始めます。
単なる娯楽という枠には決して入らない作品です。
ぜひスクリーンに向かって観ることをお薦めします。
もしかしたら、そこに自分自身の姿が映るかもしれません。
これは「大人の映画」です。
どの俳優の演技も、自分の役どころを超えない。
そんなとこもまた、この映画の魅力。
センスの良い音楽の長回し、次へ次へと急かさない展開もいいですね。
今日も何処かで、心と心がクラッシュする音が聞こえてくる・・・
エンドクレジットが流れてもすぐに席を立つ気にはなれませんでした。