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こっちゃんポイント ★★★★★
鑑賞環境 |
こっちゃんシアター |
上映時間 |
146分 |
製作国 |
日本 |
公開情報 |
劇場公開 (ロックウェルアイズ) |
初公開年月 |
2001/10/06 |
ジャンル |
ドラマ/青春 | |
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ある地方都市に住む中学2年生の蓮見雄一(市原隼人)は、剣道部入部をきっかけに秀才・星野(忍成修吾)と仲良くなる。夏休みになり、雄一や星野は仲間達と一緒に沖縄に旅行に行くが、それを境に星野の人格は豹変。部活も辞めて雄一をイジメるようになり、雄一はひったくりや万引きをして星野にお金を上納する日々を送る。ある日、星野から同級生の津田詩織(蒼井優)の尾行を命じられた雄一は、彼女が星野から援助交際を強要されていることを知る。窒息しそうながんじがらめの日々の中で、雄一の唯一の希望は、カリスマ的アーティストのリリイ・シュシュの歌声だった。ところがそんな彼をさらに悲劇が襲う…。
※監督自らが主催するウェブサイト上で、一般参加者との対話から生まれた
インターネット小説の映画化という異色のスタイルでも話題になった作品。
(NTT-X store解説より抜粋)
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この映画をひとことで言うならば、「語るのが怖い映画」だという事のような気がしている。
この感想も3日がかり。
とにかくペンが重い。いやパソコンのキーが重いというべきか。
しかし逆に、自分の感想として何かを吐き出さなければならないような気にもさせられる。
不思議な気分。自分でも理解し難い「何か」がここにはある。
『リリイ・シュシュのすべて』は、自分にとってそんな映画となった。
ただ、この映画に対する”否定的”な気持ちは、まったく無い。
むしろ、あまりに痛々しい中学生の姿を描いたこの映画の中に 美しさすら感じたし、
ただボーッと画面を無機質に近い眼差しで見つめながらも、時折り鳥肌が立つほどの衝撃を受けた。
とにかく心が動く。
それは堪らなく嫌なものであったり、救いを求めるものであったり、
理由も分からずただ叫ぶだけのものであったりするのだが、
この映画の中の皆が口にする”エーテル”というものが、うっすらと理解出来たように思えた。
この映画の中の【エーテル】とは、リリイ・シュシュが使う精神世界に近い言葉で、
”この世をみたしている物質”を表現する言葉らしい。
ファンたちの間でも、リリイの音楽を語る上で、とりわけこの“エーテル”という言葉は重要な意味を持つ。
”リリイ”とは、この映画の中に存在する架空アーティストのこと。
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映画の中で、彼女を崇拝するファンによるインターネットの
書き込みに、こんな言葉があった。
《彼女は音楽を妊娠し、出産する。》
《エーテルという名の羊水が》
《彼女の音楽をはぐくむ。》
《ただそれだけだ。》
なんという凄い言葉だろうか。
これはもう単なる”文字”の羅列ではない。
そんな印象すら受ける。
リリイはまさにそういうファンの頂点に立つ存在なのだ。
映画を監督した岩井俊二氏は、この映画を「遺作を選べたら、これにしたい」作品だと言う。
一人の映画監督がそれほどまでに想いを込めたこの作品。
この映画をこの世に産み落とすに至ったその心情や情熱は、
凡人である自分が想像もつかぬほどのものであったのだろうと推察する。
これは凄い映画だ。
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”鬼才”とも呼ばれる岩井俊二監督の代表作としては、『Love Letter』『花とアリス』『スワロウテイル』
などが挙げられるが、
そのどれもが彼独自の映像センスと情景的美学に裏打ちされた美しさを放っているように思う。
自分が彼の作品を観ていつも印象に残るのは、作品の中に存在する柔らかい光だ。
例えばこの『リリイ・シュシュのすべて』で言うならば、あの教室を後ろから撮った授業のシーンで、
窓から明るく差し込んでくる真っ白い光のような。 そんな光のこと。
いじめ。自殺。レイプ。援助交際。
映画の中で、目を覆いたくなるような日常に直面している中学生たちを、その明るく柔らかい光が包み込む。
何気ないこんなシーンがいつも最後には印象に残るのだ。
理由は自分でも分からない。 どうしてだろう? それはどこか安らかな気持ちにも繋がって行く。
実際、岩井監督もこの映画を「心地よい映画」だと言っている。
「痛々しい映画とは思いますが、そう作ってあるし。 ただ映画って感情のバイオリズムみたいなものをマジックのように コントロールしていくものなので、必ずしも痛いもの、苦しいもの、 つらいものが、そう痛くもなく、つらくもなくある。 ただ、つらかっただけでは、自分の中では作りたいものじゃない。 そこに何か対立するイメージというか、常に意識しているんですが、 つらいけど心地いいとか、ハッピーエンドなのに切ないとか、 (観る人を)ちゃんとした着地をさせないというところで作っている。 微妙な仕上げのニュアンスを常にイメージしていて、 えもいえないところを探しているので、 痛いというより心地いい、ということでもあるのです」
(岩井俊二監督 インタビューより) |
深い・・・。
一度でこの作品をすべて感じ取るのは無理だ。
そして、何度観たところで、この作品に対して正しい答えを出すことなど自分には到底無理だとも思った。
ただ、この岩井俊二という監督の凄さを漠然と感じ取るには、あまりに十分過ぎる作品なのだろう。
これ以上の作品もないだろうという気もしている。
これを観た人の多くが、この映画を「好きになれない」と言うのかもしれない。
しかし、その逆もまたいるだろう。
インターネットではこの映画のファンによる専用サイトまでが立ち上がる一方で、
レビューの掲示板では容赦ない書き込みもまた見られた。
この映画の中の出来事を、そのまま現在の中学生に置き換えることは確かに無謀だと思うが、
かといって「まるであり得ない話」と言って、掃き捨てることなど出来ないとも思う。
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日々、報道で目にする嘆かわしい現実は、確実に”今”の少年少女たちの心の闇を浮き彫りにしてゆく。
現実もまた残酷であり、容赦ない。
そしてその先に日本の未来があるという怖さ。
まったくもってこの映画は、そういった現実の同軸上、あるいは隣合わせた存在なのだろうと思う。
誇張され、増幅された部分があるにしても。
少年、少女の心の中に潜む闇をテーマにしたこの作品は、良くも悪くも波紋を呼び続けるはず。
しかし、これを観て感じることこそが大切なのだと思った。
ベルリン国際映画祭国際アート・シアター連盟賞を受賞したというこの作品。
果たしてその賞がどれほどのものか分からないが、
他では観ることの出来ない若手俳優達の瑞々しい演技は新鮮で良かった。
特に伊藤歩の意気込み溢れる姿に拍手を贈りたい。
ところで、この映画のカリスマ的歌姫”リリイ・シュシュ
【Lily Chou-Chou】”の歌を唄っているのは、
Salyuという女性アーティスト。
この映画のオリジナルアルバムとして『呼吸』を
リリースしている。
もちろんSalyuではなく、現代の巫女リリイとして。
そのアルバムの中の収録曲「回復する傷」が
クエンティン・タランティーノ監督の映画
『KILL BILL Vol.1』に使用されるなど、ちょっとビックリ
のニュースもあり。
彼女の歌声はタランティーノの耳にも届いていた。
とにかく、この映画を観て、「もっと岩井俊二を知らなければならない。」・・・そう思った。
あまりにも痛々しい。しかしそれ故に美しい。
『リリイ・シュシュのすべて』はそう感じさせられる映画だったのだ。
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