■ 考察 ■
【 社会的な背景 】
リチウムイオン電池には、従来からの二次電池(充電する事で繰り返し使用できる電池)と較べて、多くの優れた特長があります。その為、電子機器などの様々な製品で数多く利用されているほどです。しかし、車両用の電池としては殆ど浸透していません。
その理由は、従来型の鉛電池には、オートバイや車の発展と共に築いてきた 100年を超える歴史があり、世界中に車文化が浸透して経済を支えてきた中、原材料と量産効果による低価格を実現し、どの地域でも整備と供給のシステムが整っているからです。そのため、車両メーカーは、高価で整備・供給体制が充分ではないリチウムイオン電池を積極的に採用せず、バイブリッド車の補器用 12Vバッテリーに鉛電池を採用している程です。
【 3つのリスク 】
この様に、鉛電池を搭載する事を前提に設計された車両ばかりの為、その代替用に リチウムイオン電池を使用するのはリスクがあり、そのリスクは大きく分けて 3つあるのです。一つは、シビアな保守管理。 二つ目は、電池の信頼性。そしいて三つ目は、車両とのマッチングだ。
■ シビアな保守管理
一般的に、リチウムイオン電池は、自己放電などで電圧が一定以上に下がったり、高過ぎる充電電圧などで過充電を行なうと、充電機能が大幅に低下して、場合によっては二度と使えなくなります。
その為、車載状態のままで長期間放置する場合には、電圧低下を避ける為に電池のマイナス端子から配線(ケーブル)を外しておく必要があります。また、充電器で充電する場合も、従来の鉛電池用の充電器の使用は避けるべきです。なぜなら、鉛用電池の充電器には 、チウムイオン電池の破損を招く恐れが大きい、高過ぎる充電電圧やパルス充電、トリクル充電などの特性を備えた製品が多いからです。
従って、リチウムイオン電池の充電には、リチウムイオン電池専用に設計されている充電器が最低限必要で、可能な限り信頼性の高い品を選ぶ必要があります。
■ 製品の信頼性
車載用のリチウムイオン電池の市場は大きくなく、鉛電池の場合と較べると、製造メーカーも販売台数も多くありません。そのため、市場で揉まれた実績や信頼性を誇るメーカーも多くないのが実情です。
■ 車両とのマッチング
一番大きな問題になるのが、車両の充電システムがリチウムイオン電池を考慮した設計になっていない事です。そのため、レクチファイアやレギュレーターなど、充電系の仕様や特性が リチウムイオン電池に適合しない危険性は拭えません。鉛電池の代替品として設計されている製品ですから、リチウムイオン電池内部に組み込まれている制御回路・BMS も、鉛電池仕様車への搭載を考慮した設計になっている筈です。しかし、全ての車両とのマッチング耐久テストは行なえないので、マッチングは保証されていません。
更に、車両側の充電システムに多少のバラつきがある場合、鉛電池では問題が出なくても、リチウムイオン電池では発生する事は多くなるでしょう。
【 使用を選択する場合は 】
以上の理由により、リチウムイオン電池を代替品として使用する場合、鉛電池とは異なるリスクを充分に理解して、リチウムイオン電池専用の充電器も購入して備え、鉛電池も準備しておく必要がありそうです。
■ “リン酸鉄”に注意
なお、充電器を選ぶ際は、「リチウムイオン電池」用である事を確認したい。 というのも、良く似た名前で、「“リン酸鉄”リチウムイオン電池用」が数多く販売されているからです。この「“リン酸鉄”リチウムイオン電池」とは、 リチウム( 金属/元素記号:Li )を含んだ合金を正極(+極)に使っているリチウムイオン電池の一種ですが、その中でも、“リン酸鉄リチウム”(記号: LiFePO4 )を使用して、安定性と低コストを実現した電池で、その優れた特徴から、近年では民生用から産業用まで、様々な分野で広く利用されている「リチウムイオン電池」の一種です。
その為、「リチウムイオン電池用充電器」を検索すると、数多くの「リン酸鉄リチウムイオン電池用」あるいは「LiFePO4 リチウムイオン電池用」の充電器が数多く販売されています。しかし、車載用に販売されている「リチウムイオン電池」とは充電に必要な特性が異なるので、充電器を選ぶ際、誤って選択してしまうと、充電不良や破損を招くから注意が必要です。