キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

戯(そばえ)

2012-12-09 15:36:33 | 掌編
「あっ、しまった」
 蓋が緩んでいたのだろう、落とした缶からドロップが飛び出した。色とりどりの雫がにぎやかに石段を跳ねていく。ぽかんと眺めていると、足下で声がした。
「きれいねー」
「きれいだねー」
「ねー」
 こどもがふたり、さらにちびっこいのがもうひとり、ドロップのかけらを拾っていた。
「いいなー、きれいだなー」
「いいねー、きれいだねー」
「ねー」
 掌一杯の七色のドロップと、僕の顔を見較べる。
「落としちゃったからもう食べられないよ」
「うん、食べないよ。キラキラさせるの」
 よくわからなかったが、じゃああげる、と言うとこどもたちはおおはしゃぎで駆けていった。

 お参りをすませ石段を降りてくると、さらさらと雨が降りだした。明るく日は照ったまま、微かな雨粒がつぎつぎと落ちてくる。向こうを白い行列が過ぎる。なるほど狐の嫁入りか。
 一瞬雨脚が激しくなる。空一面の水滴が日に照らされて輝いて光って見える。
 空に向けた視線を戻すと、行列のようすが少し変わっていた。近頃は狐もお色直しをするらしい。花嫁のドレスの裾は七色に燦めいていた。

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