白い一本の線のような道を残して、あたりの地面には乾いたところはない。ここは太古に海だったところだ。そしていつの日か海へと還るところだ。黒く淀んだ泥地のそこここには遠い昔に滅んだ恐竜のような機械が赤い錆をうかせ、おきざりにされている。みつめていると、ゆっくりゆっくりと沈んでいくのが見えるようだ。
この白い道の果てには一つの町がある。読みおえられてもうすぐ閉じられる町。ぼくはそこからやってきた。
. . . 本文を読む
無人の改札口を出ると椅子の畑が広がる。なだらかな丘の斜面には、大きさも形も色もとりどりな椅子が無数にはえている。この丘には、すべての人のために、すべての人のための椅子がある。だれかが生まれると小さな椅子がはえてきて、成長し、大きくなり、やがてその人の死とともに枯れて消える。
もっとも、自分の椅子に座ることのある人は稀だ。自分の椅子に座りたい、などと考えるひまな人しかここにはやってこないからだ。 . . . 本文を読む
――でも、あたしは…
そういうと彼女は目を伏せうつむいた。ぼくは、吾にもあらず抱き寄せかき抱いた。すうーっ、と一本の赤い線がぼくの手の甲にあらわれ、ひりひりと痛みだした。これは、彼女の傷だ。彼女にとってこの惑星の空気は重すぎるので、身動きするたび傷つかずにはいられないのだ。ぼくは、彼女が傷つくべき傷のひとつから彼女を守ったのだ。誇らしさに頭がぼうっとなった。ぼくは彼女の心臓の裏側に掌をあてた。つ . . . 本文を読む
暗闇に気配だけがさらさらと風に乗ってくる。風の吹いてくるこの方向に水平線があるはずだ。目を凝らす。
太陽が輝く片目を開いた。エンジェルダスト―大気の塵に日の光がキラキラ反射する。日が昇るにつれ、目を射す光がおだやかになり、周囲の明るさが増してくる。と、見渡すかぎりの砂丘の中になにかが見えた。砂煙にかすかに浮かぶ光る影。トウモロコシだ。砂丘のまんなかにただ一本のトウモロコシ。茎もなく、実を半分包 . . . 本文を読む