キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

遅刻

2014-12-27 06:10:05 | 掌編
「ごめんね、待った?」 「うん、ちょっとだけね」  彼女はいつも約束の時間に五分遅刻してくる。きっちり五分。だったら五分前に家を出ればいいと思うのだが、そうもいかないらしい。遅れてくるのがわかってるんだから、ぼくも五分遅れていけばいいのだが、どうしてもそうできない。約束の時間の十分前には着いてしまう。  三時に会いたければ、ぼくは三時十分、彼女には二時五十五分と約束すればいいのだろうか。  ところ . . . 本文を読む

かたる女

2014-12-20 06:05:38 | 掌編
 いとやんごとなき王様。また、このように聞き及びましてございます。  北の山から南の島まで各地をまわって、物語を集める若者がおりました。彼は険しい道をいといませんでした。遠くへ行けば行くほど珍しい物語を聞くことができました。聞けば聞くだけ物語はどんどん湧き出てきました。この世に物語は無限にあるように思われました。死ぬまでにすべての物語を聞きたい。彼はとうとう悪魔と契約いたしました。  その日から悪 . . . 本文を読む

闇色のマント

2014-12-06 06:31:51 | コトリの宮殿
「どのような闇をご所望でしょう」  仕立屋の問いに、闇は闇だろうと思う。真っ暗でなにも見えない、それが闇だ。 穏やかな微笑とともに仕立屋はつづける。 「夜の闇、地下の闇、瞼を閉じると訪れる闇。また、同じ夜の闇でも季節や天候によって闇の色は違います。どのような闇を差しあげましょう」  約束は明日だ。降っても晴れても。夜の闇に紛れて黎明までにすべてを終わらせなくてはならない。 「春浅い新月深更、誰 . . . 本文を読む