キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

輝ける太陽の子

2009-12-26 06:01:53 | 500文字の心臓
和名 輝ける太陽の子(カガヤケルタイヨウノコ) 種属 ホモサピエンスの幼態 生態 山に棲息するものは虫取り網と虫籠、海に棲息するものは水中めがねを持つ。    小麦色の肌をし戸外を走りまわる。麦わら帽に白シャツ、半ズボンの古体をとどめたものが    典型として人気があるが稀少種である。    生後6〜10数歳。冬季には夏季に吸収した日光をエネルギーに換え、「風の子」となる。 (「 . . . 本文を読む

冬至

2009-12-19 06:24:20 | 掌編
 ぼくの部屋。凍えた夜。  石畳の床に小鳥が落ちていた。冷たい小さな塊。掌にのせると石よりは軽い。指先にかすかに感じる、どこか遠い遠い底のほうで打つ鼓動。両手でそっと包んでみる。ぼくの手では小鳥を押し潰してしまうにちがいないけれど。  それでも掌はあたたかかったらしい。手の中に命が近づいてくるのがわかった。思わず力がはいる。小鳥のからだはやわらかくなっていた。ぼくの手では小鳥を押し潰してしまう。両 . . . 本文を読む

ポジティブシンキング

2009-12-12 06:22:17 | 掌編
 扉に手を掛ける。ノブはない。鍵もかかってはいない。力を込める。力一杯押す。それだけの手ごたえがあって、扉は、古い木がきしむ音をたててゆっくりと開く。僕がちょうど通れるだけの隙間が開く。向こう側に拡がっている闇に背後から光が射す。一本の道のように、迎えの絨毯のように。閾を踏み越える。時間が淀んでいる。そのことでそこが小さな部屋だと知る。壁にそっと触れてみる。黒い磨かれていない石の表面はぬれていた。 . . . 本文を読む

秘密を知ったからには

2009-12-05 06:12:05 | 掌編
もう戻れない。 夕暮れの道を どこまでも夕暮れの道を ずんずん歩いていく。 どこまでも夕暮れの森を どこまでも夕暮れの浜辺を どこまでも夕暮れの砂漠を どこまでも夕暮れの廃墟を どこまでも夕暮れのジャングルを どこまでも夕暮れのビル街を どこまでも夕暮れの月面を どこまでも夕暮れの吊橋を ぼくはぼくを置去りにしてずんずん歩いてゆく。 置去りにされたぼくは いまごろいつもの店で甘い酒に酔っているの . . . 本文を読む