キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

ヤマネコから聞いた話

2015-11-28 06:29:18 | 架空非行
 道ならぬ恋、ってやつだ。  奥山の、ヤマイヌの遠縁らしいんだが、もともと不運な奴でね、奇妙な病を患ってた。満月の光を浴びないと、体の毛がなくなって、爪も牙も縮んじまって、兎を追って走ることもままならない、なんともなさけない姿に変わっちまう。まあでも、気のいい奴なんで奥山の連中と楽しくやってた。  それが、あるときからふっつりと月の光を浴びるのをやめちまった。そんなんじゃあ獲物も獲れないから、すっ . . . 本文を読む

早春賦

2015-11-22 08:03:45 | コトリの宮殿
 目覚めると世界は花盛り。花に戯れ、梢に遊ぶ。わたくしはすべての花に望まれる奢りのなかで生きておりました。けれどある日、教えられたのです。 ――この世にはわたくしが見たことのない花がある――  完璧な六角形の姿をしながらひとつとして同じ形のものがないというこの花に、わたくしは逢うことがないのだ。皆が美しいと褒めそやすこの身も、この花は知らぬ。千の花と遊び、万の花と契りを交わしても、ただ、この花だけ . . . 本文を読む

小径(こみち)までもうすこし

2015-11-15 08:02:23 | コトリの宮殿
 急がば回れ、という諺は正しい。 ショートカットするつもりだったのだが、どうやら同じところをぐるぐる回っているらしい。この石仏の前を通るのは何度目だろうか。 「バランスが悪いんだよ。左側が重すぎる」  これも何度目かに行き合ううしろ姿の女が、日傘をくるくる回しながら言う。  はあ、なにしろ新米なもので。 「あんたなら心を捨てて行くことにすればすぐじゃないの。つくりはおんなじなんだから」  はあ . . . 本文を読む

図書館はどこですか

2015-11-08 07:58:26 | コトリの宮殿
 今度は甘い悲鳴のようなかぼそい少女の声だ。 ――図書館はどこですか。  見まわしても誰もいない。木立の蔭にも霧の中にも人影はない。さっきからずっと。 ――図書館はどこですか。  いろいろな声が皆、同じことを同じように尋ねる。姿はなく、森の空を声だけが飛びかっている。 ――図書館をお探しですか。  振り向くと男が立っていた。司書なのだと、なぜだかわかった。 ――いいえ。  そう答えながら、歩き疲れ . . . 本文を読む