キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

わたしのお人形

2020-11-29 06:45:33 | 掌編
 まことに愛らしい少女であった。
 白い肌にはしみひとつなく、ふっくらとした頬は薄紅に輝き、紫色の目は宝石のよう。豪奢なドレスからはえくぼのある可憐な手がのぞいている。
「つまんなぁい」
 もう口癖になってしまった言葉を、少女はまた呟く。
 昔、誰かが少女を抱きしめた。誰かが言った。
「貴女のお友達ですよ。仲良く遊びなさい」
 ずいぶん昔のことだ。
 少女にはたくさんの「おともだち」があった。お姫様や、王子様や、兵隊さんや、それからそれから。うんとたくさんの「おともだち」があった。ような気がする。でも、今は。
「つまんなぁい」
 だってみんな、すぐ壊れてしまうんですもの。もうだぁれもいない。
 つんつん、と誰かがスカートの裾を引く。「わがきみ。わがきみ」まわらぬ舌で呼ぶ。
 ああ、まだあった。一等みすぼらしい子。手足の長さもバラバラで、綻びた縫い目からは詰め物の藁が飛び出している。
 残ったのがこんなのだなんて。
「ついてないわ」
 そのまま蹴とばすと、ポーンと飛んで仰向けになった。その「おともだち」の腹を愛らしい足が踏む。
 きゅううん。と、かすかにないた。
「ふぅん」
 紫色の目が輝く。どけた足をもう一度「おともだち」の腹に載せ、踏む。かすかに、きゅう、と音がした。さらに強く踏む。なかない。さらに強く踏む。なかない。さらにさらに強く……
「どうしてなかないのよッ」
 紫の目が怒りに燃える。少女は「おともだち」の腕を引きちぎる。「おともだち」はなかない。脚を引きちぎる。「おともだち」はなかない。首を
……「おともだち」はまた壊れてしまった。
「つまんなぁい」


――まあ、なんて愛らしいのでしょう。衣裳もとても素敵ですわ。
――ええ、すべてオリジナルのまま、傷ひとつありません。これはもう立派な骨董品です。


 飾り戸棚に収められた高価なお人形は、もう抱きしめてくれることのない世界をガラスの目を見開いて眺めている。

【萩春二さんの漫画にインスパイアされたものです】

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