キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

髪を乾かさずに眠ったら溺れ死ぬ夢を見ました

2014-05-24 06:38:23 | コトリの宮殿
――切ってしまおうと思ったのよ、何度も。  わたくしの髪は太くて多くて、くせもあってすぐにひろがってしまう。強情で手におえないの。でも…  薔薇窓を模した喫茶店のウインドウを背に彼女が語る。その声を聞いているうちに今朝の夢を思い出した。  窓から射すいっぱいの光にびしょぬれになりながら彼女を見あげる。優美な尾が床を打ち、彼女の背丈がすっと伸びる。気高く美しく、無慈悲なほほえみに溢れて彼女は見下ろす . . . 本文を読む

天則

2014-05-10 06:15:13 | その他
丘の上に望遠鏡を据える    ――月は毎年地球から三・五センチメートル離れていきます。―― 繊月は獰猛な獣の眼のようだ    ――月の明るく見える面は太陽の光を反射しています。      月の暗く、見える面は地球の光を反射しています。―― レンズを通って月の姿は大きくなる 星々は明るさを増す 天空を眺める望遠鏡のレンズ 鉱物を観察する顕微鏡のレンズ    ――硝子は結晶構造を持ちません。 . . . 本文を読む

未生以前

2014-05-03 06:18:25 | 掌編
 まっしろな乳からチーズができるように、そしてチーズの塊に自ずから蛆虫が湧き出るように天使たちは出現した。天界は天使で満ちた。世界には羽ばたきの音が溢れた。  いや、神はまだ生まれてはおらず、世界はまだない。ここはからっぽだ。世界はまだ夢をみていないのだ。  これから生まれる天、地、海、空気、深淵と地獄、すべてが神である。神は自分が神であると夢みたゆえに神となる。蛆虫の前に蝿がいたわけではない。 . . . 本文を読む