キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

夢の樹

2020-07-05 06:59:46 | コトリの宮殿
「10、9、8、7……」
コトン、コトン、と音がする。
それが降りてゆく自分の足音だと気づいたころ、ひらけた場所に出る。
原っぱの真ん中に大きな切り株がひとつ。見覚えがある、ような気がする。きっとこれはとても不思議なもので、たとえば、覗き込むと鏡のようにわたしの未来を映す、のかもしれない。期待しながら切り株の縁に手をついて覗いてみれば、けれどそこにあるのはあたりまえの年輪。よく知った乾いた手触り。
ひさしぶりだね、と切り株の傍らに立つ男の子が言う。彼はいつもそう言うのだ。
…いつも? ここではすべてに見覚えがあって、でも。
「三つ数えると目が覚めます。1、2、3。はい。」
目を開けると、カウンセリングルームのベッドの上。ヒプノセラピストの、どんなものが思い浮かびましたかという質問を適当にごまかし、まあリラックスできたんで眠れるようにはなりそうですと答える。
夢の底にあったのが一本の樹だなんて、あまりにありふれていてなんだか気恥ずかしい。ひとには言えない。とりあえず、まもなく眠れるようになるだろう。切り株の脇にひこばえが芽吹いているのは確認したから。

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