キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

2009-09-12 05:04:45 | 掌編
――でも、あたしは…
 そういうと彼女は目を伏せうつむいた。ぼくは、吾にもあらず抱き寄せかき抱いた。すうーっ、と一本の赤い線がぼくの手の甲にあらわれ、ひりひりと痛みだした。これは、彼女の傷だ。彼女にとってこの惑星の空気は重すぎるので、身動きするたび傷つかずにはいられないのだ。ぼくは、彼女が傷つくべき傷のひとつから彼女を守ったのだ。誇らしさに頭がぼうっとなった。ぼくは彼女の心臓の裏側に掌をあてた。つめたかった。こんなつめたいものを抱えて生きているのだと、いとおしかつた。つめたかった。つめたさは掌から伝わってぼくの全身にひろがった。このままだとこごえて死ぬかもしれないと思った。こごえて死んでもいいと思った。黒目がちの、大きすぎる目がぼくを見た。ころりと涙のつぶがころがり落ちた。つぎからつぎへと落ちた。そのまま、彼女は全部涙になって流れていってしまった。ぼくはひとりでそこにいた。掌は涙で濡れていた。 

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1 コメント

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こんばんは (柴田友美)
2009-09-13 22:57:48
フィネガンズウェイクに、DVDを預けてきました。今度行かれるときに受け取ってください。
私のブログからリンクを貼らせてもらいました。最近楽しみに見てます。めっちゃ素敵なブログですね。いつか本にしてください。
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