キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

この店に来ると雨が降る

2014-06-28 05:07:52 | 掌編
 しゃがみこんで、というよりほとんど寝ころがってほおづえをつく。そうして露地を見おろす。  窓からの風景は、明度も彩度もみるみる落ちていく。ビーズをばらまくような音。ビーズの粒はどんどん大きくなっていって、もう自分がなにを言っているのかも聞こえない。ここでの記憶は雨ばかりだ。  この店は焼け残った戦前の建物を使っているらしい。二階のギャラリー――二階とは名ばかりの、立ち上がったら頭をぶつけてしまう . . . 本文を読む

形代の恋  源氏物語の場合

2014-06-21 06:45:35 | 創作でないもの
部屋を整理していたら、昔同人誌に書いたものが出てきた。出てきてしまったのでここにアップしておくことにした。文字遣いなど一部訂正しているが基本的にそのまま。  昔、とっても潔癖だったわたしには、光源氏の恋愛に対する態度がふまじめにみえてしかたがなかった。複数の恋愛を同時進行させることなどではない。「形代の恋」というやつだ。  本当に好きな女性は手の届かないところにいるので身代わりで我慢する、とい . . . 本文を読む

宇宙の喫茶店

2014-06-14 06:11:28 | 掌編
図書館が開くまで、駅前の喫茶店でモーニング。客のほとんどはお年寄りで、みんな常連さんらしく、座っただけでコーヒーやジュースが出てくる。だいたい座る場所も決まっているようだ。こんな時間に喫茶店にはいったことがなかったから知らなかった。  ドア近くに座っていた男が携帯電話でしゃべりながら出ていく。営業マンだろうか、忙しそうだ。  夏休みで遊びにきていたいとこが興奮したようすでささやく。 「すごいね . . . 本文を読む