あなたは左の掌を見ている。
ゆっくり、一本づつ指を曲げ、指先同士を触れさせる。まず親指と人差指。次に中指を加える。
すると、薬指もその仲間に加わろうとするのだ。小指は知らんぷりしているというのに。
ひとつまみの形は、小指ぬき、薬指ぬきでできている。けれど薬指は無関心でいることができない。いつも隣の動きに気を配っている。疲れる生き方だ。
雨上がりにいきなり増殖したきのこをつみ取るように、薬 . . . 本文を読む
浮いていた。
四角い、なにか建物みたいなものが中空に浮かんでいた。
「……そうか。これは夢だな」
「ええ、夢です」
声のした方を見ると、てらてらした作業着姿の男が立っていた。
「夢なんですが、どこかで水漏れしたらしくって警戒水位より下がってしまって。浮御堂もあのとおりです。」
と、例の四角いものに目をやりながら言う。そして、ご迷惑をおかけして申しわけありません、と深々と頭を下げる。つられて . . . 本文を読む