kirekoの末路

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第十四回『猛将決死の敗走を諦めず、名謀忠義を以て官軍を動かす』

2007年07月03日 09時30分18秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第十四回『猛将決死の敗走を諦めず、名謀忠義を以て官軍を動かす』



―あらすじ―

昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。

頂天教の教主アカシラの主力部隊が潜む妖元山に迫った
キレイ率いる5000の官軍は、ニ部隊による交互奇襲、強襲を狙った
力押しの山攻めを敢行した。
しかし、雷鳴轟く悪天や強い風雨により緩やかな山道は
絶壁を登るような悪路になっており、進軍は思うようにいかず
キレイ軍兵士の士気は下がる一方であったが、キレイは
兵を見て、一言を放ち鼓舞すると、兵士達は意気盛んに再び進軍した。

意気盛んなキレイ軍であったが、頂天教軍の総大将アカシラの雷を操る術で
兵士達は混乱し、そこにアカシラが伏してあった黒い甲冑の兵士達が襲い掛かり
次々と現れる伏兵を前に将兵は恐怖を抱き、陣形を乱し、
キレイの率いる歩兵隊は壊滅状態に陥った。
キレイは最後まで奮戦したが、副将はやられ、
剣を弾かれ甲冑を壊され、流石に死を覚悟した時
別の山道から援軍にきた猛将オウセイ率いる騎馬隊に救出された。

山道を敗走するオウセイの騎馬隊であったが、背後からは
逆落としをかける形で迫る頂天教軍があった。

―――――――――――――――――――――



妖元山 麓

豪雨降る中、山中は雷鳴に包まれ、豪雨と雷鳴の音は山を震わせ
馬蹄と武具の音を消し、キレイ官軍の後詰め部隊、
キレイの弟、キイが率いる弓兵1000は
山中で起こっているキレイ敗北の惨状を未だ知ることが出来なかった。


「すでに出撃してから一刻(2時間)余、オウセイがついているとはいえ兄上は大丈夫であろうか・・・」

「キイ様、キレイ様は兵を風の如く動かすお方。山中での悪路に進軍が遅れているか、敵に遭遇して足止めを食らっているか・・・どちらにせよ情報を伝えるべき伝令が一人も帰らないのは、危機に陥ってることの証拠に間違いありませぬ。後詰めとして進軍すべきです、ご決断を!」

「いや、兄上は傲慢だが、自尊心の高いお方。それによって自分の策にも自信がある。連絡も無く進軍すれば己の策を否定するも同じ事ととられかねんぞ。それに探りをいれるための兵を先ほど放った。その報告をうけてからでも遅くあるまい」

「恐れながらキイ様!キレイ様が手遅れになってからでは遅いのですぞ!」

「わかっておる。兄上が死ねば、私も死なねばなるまい。何が起ころうと全責任は私が負う。進軍は待ってくれ、頼む」


キイは後詰め部隊の将兵達を抑えるのに必死であった。
副将の一人の進言とはいえ、その言葉の節々は
弓兵隊兵士達全員の心といっても過言ではなかったからだ。

実はキイ自身も進軍を望んでいた。
おそらく陥ってるであろう兄の危機に駆けつけられないことは
弟として、将として無念という一言であった。

そこまでして何故進軍しないのか。
なぜなら参謀のタクエンに止められていたからだ。
自分より才あるタクエンの言を信じて
自分の心を裏切り続ける、キイの心は複雑であった。


「・・・(タクエンよ、私はそれほど心の強い将ではない。兄上の危機に我慢できずに進軍を漏らすかも知れぬ・・・早く戻ってきてくれ!)」


雨の降る妖元山の麓で、一将は悩み苦しんでいた。



妖元山 中央山道

オウセイ率いる騎馬隊がキレイを救出したのも束の間
緩やかな坂はすでに豪雨によって悪路となり、騎馬隊の命とも言える
足の速さは殺され、敗走は思うように行かなず、
なおかつ後方からアカシラの軍が逆落としの形で差し迫っていた!


「後方の騎馬はすでに敵兵の追撃を受け始めたぞオウセイ!」

「我が騎馬隊に若のために逃げるものはおりませぬ!安心めされい!」

「ああ・・・俺はなんてまずい戦をしてしまったんだ・・・」

「若ッ!そういうのは無事下山した後に臣の前で申しなされ!」

「そ、そうだな。命危うきとは言え天下の恐将が敗戦を語れば鬼が笑うわ!今ここで俺が死ぬわけにはいかない!俺は生きる!オウセイ!俺を守れ!」

「その傲慢、その意気、それでこそ若!このオウセイ、命尽きようとも必ず若の退却を成功させてみせまする!」


しかしオウセイの言葉とは裏腹にアカシラの兵達は
勢いそのままに後方の騎馬隊を蹂躙し始めた。
キレイを救うために無理に突撃したため、すでに兵力の差は歴然であり
悪路により陣形の整わない騎馬隊が奮戦しようと、なんなくやられるのは
当然の理であった。

すでにオウセイの率いる騎馬隊は200騎を数える程度になっていた。

しかし、天はキレイを嫌ったように再び苦難を浴びせた。
山道の下に生える林道から敵の兵がわらわらと出始めたのだ。


「お、オウセイ!あれを見よ!」

「ここも伏兵か!!」

「オウセイ、もう良い!ここで決戦して見事に討ち死にしようぞ!」

「若!捨て鉢になってはなりませぬ!騎馬隊100騎!キレイ様を守るために時間を稼ぎ!防げ!防ぐのだ!」


「「「はっ!キレイ様、オウセイ様ご無事で!」」」


オウセイ直属の精兵100の騎馬隊は、
オウセイの命令を忠実に実行するように伏兵部隊に突っ込んでいった。
奮戦する騎馬隊は文字通り時間を稼ぐために、見るに耐えない
阿鼻叫喚の地獄に突っ込んでいった。


「おおお!忠義の兵達を無駄死にさせるなど!!オウセイ、なぜだ…なぜ!」


「天下を号するべき大将が我々の騎馬隊で救えるのなら、我らは死して地獄にて安寧の天下を覗きましょうや!若が天下取れるまで我らは諦めませぬ!たとえそこに必死の理が待っていようと!!!!」


キレイは阿鼻叫喚の地獄を見て嘆き、無念の表情を浮かべていたが、
オウセイは平常を装い、坂道を下るのをやめ獣道と化している林道に
思い切って飛び込むと、騎兵隊がやられる声を聞きながら、
馬蹄を泥道にたたきつけ、間道を進んだ。


「・・・(天め、若にどのような苦難を与えても無駄だ!若に苦難あれば臣下が甘んじて受けよう!我が忠節の臣下が一人でも居る限り、若は召させぬ!殺させぬ!たとえそのために部下が死のうが、私の心は修羅となり涙一滴、眉一つ動かさず!悲しむことは無いだろう!天よ!笑わば笑え!哀れむなら哀れめ!我が愚鈍な忠節の心、その目に焼きつけよ!)」


オウセイは、心にて天に物申すと
疲れ果てている馬を蹴り立て林道を駆け抜けた。



ジャデリン軍の滞在する封城 宮中

一方そのころ、参謀のタクエンは援軍を求めるために
ジャデリン官軍が占拠していた居城、封城の宮中にて
郡将の中、軍議中であったジャデリンの前で平伏していた。


「火急の用にて軍議中のご無礼申し訳有りませぬ。キレイ軍が群臣タクエンと申すものにございます」

「してタクエン殿、何用じゃ」

「はっ!我が軍が妖元山へと向かいましたが、悪天候により危機に瀕しておりまして…ジャデリン将軍に我が軍を助成していただきたく参りました!つきましては兵3000をお借りしたい!」

「兵3000じゃと!我が軍の半数以上ではないか!それに官軍が進軍するときは両軍とも必ず報告を行う約束ではないか。キレイ将軍の行ったことは抜け駆けも同じこと!規律あっての軍を任される将が規律を破るなど言語道断ぞ!」

「我が無礼極まるところを知らず!しかし、我が大将を救わんがため、無理を承知でお頼み申す!助成してくだされ、お願いでございます!」

「だまらっしゃい!!聞いておればぬけぬけと無礼な!お主らは官軍の将なるぞ!自らの功名に走り、妖元山への進軍を我々に報告もせず、足並みも揃えず、抜け駆けした官軍の将が危機に陥ったからといって、それを救うために我々の兵をよこせとは、礼儀知らずも甚だしい!虫が良すぎる話ではないか!」

「三軍は得やすく、良将は得難いもの!たしかに我が大将キレイに義はございませぬ。しかし、官軍の良将を失うことは帝への損害に繋がります!何卒・・・・何卒!」

「黙れ!規律を乱し、抜け駆けをするような無礼な将は、帝の将ではない!危機に陥ったところでそれは自業自得!さあさあ我々は軍議で忙しいのだ、帰れ帰れ!」


ジャデリンは憤慨し、席を立つと、何処かへ行こうとした
その瞬間であった。


「・・・御免!」

「うっ!?なにを」

タクエンは自らの腰に差した短刀を抜いたのだ!
宮中や軍議にて武器を抜くことは主君であっても最大の無礼であり
たとえそれがどのような理由であっても死罪に値する罪であった。


「言が通らねばこの短刀で我が喉を突き、命と引き換えに援軍をお願い致す!」


「ど、どんなに命を張ろうと無駄だ!我らは動かぬ!だれかあの無礼な使者をとめよ!衛兵!!!」


「我が命のなんと軽いこと・・・くっ!」

タクエンはギラリと光る短刀を首に近づけると、
ジャデリンと郡将の前でこう言った。


「私が大将とあがめ!忠節を誓う将軍がむざむざと敵の手に惨殺される姿を見るのなら!私はこの場で自害し!冥府地獄で大将と臣下の忠節を真っ当します!ジャデリン将軍には申し訳ないことだが、無礼は地獄で詫びようーッ!!」


郡将の前でタクエンは己の喉元に短刀を刺し自害しようとした!
ジャデリンは焦って衛兵を呼んだが、間に合わず
あわや宮中が血に染まる、その時、郡将の中から一人の大男が飛び込んだ!


「愚か者がーッ!」


バキッ!と音がすると、短刀はタクエンの手を離れ
郡将の頭を飛び越え、宮中の壁へと刺さった!
短刀を蹴ったのはミレムの臣、豪傑スワトであった。


「何故です!何故止めます!」

「愚か者!君臣の間に恩を感じ忠節を重んじるのであれば、なぜ説得の途中で自害などする!たとえ相手に心通じなくとも、真の臣下であれば最後まで説いて振り向かせてみよ!それがしも臣下の身ではあるが、命を売り物のように粗末にし、自害で人の心を動かすような愚を忠節とは思わん!」


「・・・」


「御大将ジャデリン将軍にも一言申したい!それがしのような弱将にも忠節というものがある!忠節は君臣を繋ぐ絆!帝と我々もそれにより動いております!将が誰であれ、帝に忠節を誓う兵の一人には変わり有りませぬ!危機に瀕した味方官軍あらば、理由はどうであれ救うが世の情け!なぜ無碍にも使者の忠節を拾わず、援軍を送らないのか!!」


「む・・むむ・・」

スワトの言にジャデリン含む郡将達は言葉を失い黙ってしまった。


「スワトの言!最もかと思います!」

そして郡将の中から一声がすると
智将ミケイとミレムと、その臣ポウロが
将軍ジャデリンの前に出てこう言った。

「ジャデリン将軍、抜け駆けをされたお気持ちは察しますが、天下の猛将がなんと器量の小さいことでしょう。兵3000などといわず、援軍が必要なら全軍で助成すべきです」

「なんじゃと!?全軍で救えと申すか!」

「ジャデリン将軍は不本意でしょうから私が参りましょう。なあに私の用兵術とミレム達三勇士の力があれば簡単に勝ち取れましょう」


「ぬううううううう!!!!!!!!!」


ジャデリンは顔を真っ赤にして憤慨した。
鬼のような形相を前にして、郡将達はあたふたとしていたが
ミケイや三勇士は冷めたようにジッと目をジャデリンにやると
ジャデリンはますます怒り、ついには自分の座っていた椅子を
力いっぱい空中に放り投げ、椅子は壁に物凄い勢いで激突した。
壁にぶつけられた椅子は見るも無残な木片をあたりに撒き散らして
その近くに居た群将は腰を抜かした。


「わかった!!4000でも5000でもいくらでも兵を出そう!だがミケイ!軍を指揮する大将はわしがとる!これはお前たちの言葉に憤慨して指揮をとるのではない!帝に忠節を誓う兵を救わんがため、命を呈して心を動かそうとしたその使者タクエンのためだ!」

「はっ!これで誰も将軍が憤慨して兵を出すとは思いますまい!では今すぐにでも兵を動かしますので、これにて」


「・・・ぬぬぬぬ!おのれ一言多い男じゃ!!!!!!」


「じゃ、ジャデリン様・・我々は・・・」


「何をしておるか!!!戦じゃ!さっさと戦の準備せい!!!!!!!」

ジャデリンの怒りっぽさを良く突いたミケイの進言に
使者タクエンは一礼し、ミケイ達と共に兵の準備に向かった。
残された郡将は、未だ憤慨するジャデリンを見て
そそくさと宮中を逃げるように抜け出した。
使者タクエンの忠節が官軍の将兵5000を動かした、
まさにその瞬間であった。