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おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ほくろクラブ株式会社18≪修学旅行だ!その3≫

2009年03月06日 | ほくろクラブ
僕は夢を見ていた。
やまさんがお父さんと会おうとしてた時、いきなりズンズンとボスがやってきて
「あんたたち、何をしているのよ!先生にいいつけるわよ!」
わーーーっ!と思ったとき目が覚めた。
目をあけると横に寝ていたやまさんは座っていた。
もしかしすると眠れなかったのかな・・・。

「おはよう、やまさん」と僕が言うと
「うん、ウッチーおはよう。なんだか緊張して眠れなかったよ」とやまさん。

やっぱり・・・でも、僕も緊張しているのかもしれない。
だっていつもは起こされるまでおきないんだもん。
テンちゃんも起きていた。
「おはよう、いよいよだな」とテンちゃんがガッツポーズをした。
「そうだな!作戦実行だ!」と僕とやまさんもガッツポーズを返した。

・・・みずっちはと言うと・・・。
グーグーといびきをかいてまだ寝ていた・・・。

皆が起きて朝食を食べて、ホテルの周りを散策した。
僕のうちはこんな旅行なんてめったに来ない。
お父さんもお母さんも働いているから忙しいんだ。
でも、いつか家族で旅行が出来たら楽しいだろうな。
いつか・・・いつか・・・。

ホテルの人にお礼を言っていよいよチボリ公園に出発。
予定では着いたらお昼を食べて後は公園内を自由行動になる。
1時30分に多目的広場でやまさんのお父さんに会う。
ばれないようにしないと行けない。特に夢に出てきたボスには要注意だ。
何かと言うと僕らの行動に口出しをする。

僕ら4人はは黙ってバスに乗って、ついてもあまり騒がず、ご飯も黙って食べた。
赤城先生に
「お前たちがやけに静かだな。なんだ、けんかでもしたのか?」と言ってかえって怪しまれた。
大失敗!!!
「僕らはいっつも仲良しです!ちょっとよく寝れなかったので眠いんです!」といびきをかいて寝てたみずっちが言い訳をした。
僕らも「そうです!そうです!」と僕らもうなずいて作り笑いをした。
「お前ら、さては話ばっかりしてて寝なかったんだな!」と赤城先生はげんこつを作って笑った。

ほ・・・っ。
こればっかりは赤城先生に言えないや。
僕らはその後、急いでご飯を食べた。
先生の注意があり、自由行動になった。
僕らの向かうところは「多目的広場」
園内の地図を見ながら探す。
時刻はもうすぐ1時半。
他の学校の皆はアトラクションやジェットコースター、土産物屋に一直線だ。
僕らだけ違う方向に向かう。

やまさんはきょろきょろしてお父さんを探す。
一本の木の下に背の高いがっちりした男の人が手を振っていた。
「お父さん!」
やまさんが走っていった。
あれがやまさんのお父さんなんだ。
やまさんも背が高くて大きいけどやまさんのお父さんも大きい。
きっとやまさんはお父さんに似たんだな。

やまさんとやまさんのお父さんはベンチに腰掛けた。
あとの僕ら3人はそのベンチの裏側にやまさんとやまさんのお父さんを囲むようにして座った。

「元気そうだな透。それにこんなに背が伸びて・・・。もうお父さんと変わらないじゃないか。沙織とお母さんも元気か?」やまさんのお父さんが言った。
「うん、僕も沙織も元気だよ。でも、お母さんはちょっと疲れているみたい。最近は夜勤が多いしすごく痩せたような気がする」やまさんは下を向いてお父さんの顔を見ないで言った。
やまさんの言葉に僕は自分のお母さんのことを思った。
僕のお母さんもいつもため息をついて、いつも疲れている。
「そうか・・・。お母さんは頑張っているんだな」やまさんのお父さんは遠くを見た。
「・・・ねえ、お父さん。なんでうちを出て行ったの?」やまさんは顔をあげてお父さんを見た。
「・・・」
やまさんのお父さんはしばらく黙っていた。
そしてやまさんの方を向いて話はじめた。
「透はもう6年生だから、少しはわかるかもしれない。お父さんは透が1年生の時に会社を解雇された。すぐに仕事を見つけようとしたけどなかなか見つからなかったんだ。看護士だったお母さんはその時まで短い時間で働いていたんだけど、お父さんの失業のためにフルタイムで働き始めた。夜勤もその頃からするようになった。当然家のことはそれまでお母さんがしていたからめちゃくちゃになった。そのとき、お父さんは自分が働いてないのに何もしなかった。それどころか家事をしないお母さんをなじったんだ。段々、それでうまくいかなくなってね。お母さんが『何もしないなら出ていって!』と言った事にすごく腹が立って本当に出て行ってしまったんだ・・・。倉敷に知り合いがいてね、お父さんを雇ってくれると言ったのでこちらに住むようになって、お母さんとも正式に離婚したんだよ。すべてはお父さんが悪いんだ」

しばらく、二人とも黙ったままだった。
やまさんが、口を開いた。
「お父さん、オムライス作れる?」
やまさんのお父さんはちょっときょとんとしたけど
「ああ、最近うまく作れるようになったよ。一人暮らしだからね。それまで家事はお母さんに任せっぱなしだったけど、自分でなんでも作るようになったんだ。最初はすごく失敗ばかりだったけどね。オムライスも得意だよ」
「僕も得意なんだよ。お母さんと沙織に食べさせてあげるんだ」
「そうか、偉いな透は・・・。お父さんもお父さんの作ったオムライスを皆に食べさせてやりたいよ」

二人とも再び黙った。
僕はちょっと悲しくなった。僕もオムライスを練習してお母さんやお父さんに食べさせてあげたいな・・・。

「そろそろ行かないと」とやまさんのお父さんが言った。
やまさんは名残惜しそうだったけど。でもこれ以上いるときっと誰かに見つかってしまう。
やまさんのお父さんは僕たちに公園内で売っているキャラメルをひとつずつくれて、僕ら一人一人と握手した。
そして「ありがとう。いつまでも透と仲良くして下さいね」と言って立ち去っていった。
その後姿にやまさんが
「お父さん!多分、お母さんは『出て行って!』と言った事後悔していると思う!」と叫んだ。
やまさんのお父さんは後ろを向いたまま手をぐいっと顔に当てそのあとやはい後ろを向いたまま僕らに手を振った。
やまさんは泣いてなかったのに僕は少し涙が出た。

僕らは切ない気持ちになりやまさんのお父さんを見送っていた。
そのときだった。
「あっ!内田君たちこんなところで何してるの!」
!ボスとその取り巻きたちだ!や・・・やばい。
僕はあわてて涙をぬぐった。

「ウッチーがさぁ。ちょっと足いたいって言うから休んでたんだ」とテンちゃんがあわてていった。
「ふーん、内田君、なんだか泣いてるようじゃない。よっぽど痛いんだね。赤城先生呼ぼうか?」
「だ・・・大丈夫。もうかなり痛くなくなったから・・・そ・・・それに泣いてないよ」僕もあわてていった。
「そう、私たちは結構いっぱい乗って、今からお土産買いに行くんだけど、内田君たちも急がないとあまり時間ないよ。じゃあね」
とボスたち一行はみやげ物の方が関心があるみたいでそのまま立ち去っていった。

僕らは顔を見合わせた。
「よかった、作戦大成功♪」とガッツポーズをした。
みずっちが
「僕らも何かひとつでも乗ろうよ!」と言った。
「OK!ジェットコースターだ!」
僕らは駆け出した!

ジェットコースターで皆ギャーギャー言った。
特にやまさんがいつもになく騒いでいた。
僕もテンちゃんもみずっちも大声をいっぱい上げた。
やまさんが
「おとうさーーん!」って言ったような気がした。
少し泣いているようだった。
でも、ジェットコースターのスピードで涙も飛んでいってしまった。

ジェットコースターを降りるともう集合の時間になってしまった。
僕らはとっても疲れていた。
帰りのバスの中では皆ぐっすり寝てしまった。

僕は夢の中でオムライスを作る夢を見た。
でっかいでっかいオムライス。
僕とお父さんとお母さん3人で食べきれないほどの。
ふふ・・・こんなでかいフライパン僕の家にあったかな・・・。

そうして、僕たちの修学旅行は終わった。
切ない思い出とともに。

家で僕の帰りを待っていたお母さんが言った。
「楽しかった?」
「うん、楽しかった」
ポケットからやまさんのお父さんにもらったキャラメルが出てきた。
一粒食べたら、またちょっと涙が出そうになった。
やまさんは今どう思っているんだろう。

その時だった。
「勇気!なんで体操服お母さんがたたんだままなの?!」

あれれ・・・ばれちゃった。
僕は皆で翌日に着る服を着て寝たことを言った。

「プッ!フフッ!」お母さんが吹き出した・。
僕もゲラゲラ笑った・・・。


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ほくろクラブ株式会社17≪修学旅行だ!その2≫

2009年03月03日 | ほくろクラブ
とうとう修学旅行の当日がやってきた。
僕は昨日、いろんな事を考えすぎてちょっと眠れなかったよ。
もちろん30分ほどしたら夢の中だったけど。

昨日はほくろクラブのメンバーで集まってもう一度作戦会議をしたんだ。
どうやってやまさんが皆に見つからないようにお父さんに会えるのか。
そして、決めた作戦の名前は
「足が痛い大作戦」
僕らはやまさんとやまさんのお父さんが皆から目立たないように周りを取り囲んで座るということにした。
何故、楽しい乗り物に乗らないのかともし聞かれたら・・・。
僕が前に組み体操の上から落ちて捻挫してしまったのはそんなに前じゃない。
本当は完璧に治っているんだけど、多目的広場で何故、僕らがボーーッと座っているのか誰かが聞いたら
「ウッチーが足がちょっと痛いらしくって一服してるんだよ」
と言うんだ。

やまさんは僕らの前でお父さんに電話して、チボリ公園での予定を伝えた。
完璧じゃないか!と言うことで僕らは昨日、別れた。

そしていよいよ今日は修学旅行当日!
ちょっぴり早く目覚めた僕にお母さんが
「いつも起こされないで起きてくれたらいんだけど」とにやっと笑った。

もう一度かばんを点検して、学校に行った。
皆、もう結構来ていた。
学校の前には僕らの乗るバスが待っていた。
そう言えば女子はこのバスの席でももめてたなあ。
なんで、そんなつまんない事でもめるのかよくわからないよ。
誰と一緒になっても面白いのにさ。

校長先生の話があって(長いな~)バスに乗る。
僕はやまさんと並んで座った。
「やまさん、いよいよだね」僕が言うとやまさんが
「そうだよ。いよいよだよ」とやまさんが真剣な顔で言った。
「いよいよって何よ~!」と後ろ席からからボスが言った。
ボスって言うのは僕らだけで勝手につけたあだ名だ。
なんでも仕切りたがるし、それになんでも口を挟みたがる。
ボスはクラスの女子の中でもっとも怖い存在だ。
ボスにばれたら大変だ!”
「足が痛い大作戦」も出来なくなる。

「いよいよ、修学旅行だねって言う意味だよ^_^;」

僕が言い訳をするとボスは
「ふーん、そうだよね。いよいよだよね」と言って隣の席の女子と話を再開した。
ほっ・・・。
そうなんだ、修学旅行だっていよいよなんだ!
こっちだってわくわくするし、ドキドキするじゃないか!
僕とやまさんはそれ以上は、明日の「足が痛い大作戦」の話は辞めてお土産は何を買うかとか、夜は何をして遊ぼうかなんていう話ばかりした。

バスは何回かトイレ休憩をして、目的地の広島についた。
原爆ドームを見学して皆で折った折鶴をささげて皆で平和を願った。
この時僕は平和の意味は少しわからなかった。
それからお母さんの作ってくれたお弁当を食べた後、被爆体験の人の話を聞いた。
そして、平和記念資料館を見た。
一応、僕らは学校でこの原爆について勉強はしたけど、こういった話を聞いたり資料を見たりしてやっと僕は「平和」がわかったような気がする。
お母さんの作ってくれたお弁当、そして僕らがこうやってここにいる事・・・それが平和って言うことなんじゃないかな。
僕の頭ではそんなことしか言えないけど。

広島での見学が終わって次は僕らが泊まる宮島のホテルに向かった。
一旦、部屋に入ると僕らは大喜びしすぎて赤城先生に怒られた(ーー;)
僕らのクラスの男子は全員で一部屋に泊まる。
こんな楽しい事ってある?
ちょっと騒ぎたくなるのは当たり前じゃないか♪

一服した後、ホテルからすぐそばの厳島神社を見に行く。
ライトアップされて綺麗だった。
そして、お土産を買いにいく。
「もみじ饅頭が有名なのよ」とお母さんが言ってたが、本当にいっぱい売っていた。
味見をさせてもらって、僕は僕のうちとおじいちゃんちに一箱ずつ買った。
ふと隣を見るとみずっちがいた。
なんかものすごくでかい袋を抱えている。
「すごいね」と僕が言うと
「持ってきたお小遣いで全部、もみじ饅頭買っちゃた」と言った。

後ろにいたテンちゃんが
「えーーーーっ!明日もお土産買う時間あるんだよ」と驚く。
「だってさ、すっごく美味しかったんだよ!僕帰ってからもいっぱい食べるんだ」とみずっち。
お店のおばさんが
「ありがとう!僕はいい子ね!」とゲラゲラと笑ったので僕らもつられてゲラゲラ笑った。
一人、みずっちだけが不服そうだった。

おみやげ物を買った後、ホテルで食事をした。
すごく、お腹がすいてたので美味しかった。
その後、少しだけ自由時間があって僕らはトランプをしたり、話をしたりした。
そしてお風呂に入った後、寝る時間になったんだけど・・・。
僕はこっそり皆に提案をした。
「明日、着る服を着て寝たら朝着替えなくていいよ」
「おーーーーっ!それはいい!」
皆大賛成だ♪
お母さんがせっかく寝巻き用に体操服を入れてくれたが使わなかった(^^♪

赤城先生が来て電気を消した。
「話をしないで寝るんだぞ!」

僕は声を潜めて隣のやまさんに言った。
「いよいよだね」
「そうだね、いよいよだ」
今度は誰も「なんだ?いよいよって」とは聞いてこなかった。
クスクスとあちこちから笑い声が聞こえる。
あちこちでひそひそ話が聞こえる。
皆、ちょっとだけ興奮している。
その声に混じって僕らの声は聞こえなかった。

そして、そのクスクスが聞こえなくなる頃、僕はぐっすりと眠ってしまった・・・。
                                 ≪その3へ続く≫

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ほくろクラブ株式会社16≪修学旅行だ!その1≫

2007年07月10日 | ほくろクラブ
運動会が終わりいよいよ待ちに待った修学旅行が近づいてきた。
赤城先生は約束どおり修学旅行の班は自由に決めていいという事にしてくれた。
女子達は大騒動だ。
あーでもない、こうでもない・・・と休み時間も班を決めるのに費やしている。
僕らほくろクラブの4人はもちろん同じ班になった。
泊まるところの部屋割りだけど、僕らのクラスの男子は皆仲ががいいので大部屋で泊まるという事を聞いた。
楽しみだな~。
女子達は3つの部屋に別れるらしいけどその事でも大騒ぎしている。
毎日がコソコソしたり、騒いだり・・・忙しいな~。

そんなこんなで班も決まり修学旅行の説明会もあったりであっという間に日にちが過ぎて言った。
僕らだってうきうきしている。
行き先は広島・倉敷。
広島は平和記念公園に行って宿泊は宮島。
翌日は倉敷チボリ公園。

皆の依頼で僕らはいろいろと調べる事になった。
みずっちの家でインターネットを使って平和公園や宮島の事を調べている時だった。
なんだかここ最近ずっと考え込んでいるような感じだったやまさんが急に言った。

「なあ、皆・・・実は協力してほしい事があるんだ」

僕らはやまさんの為ならなんだって協力するよと言った。

すると・・・やまさんが話した内容はこうだった。

やまさんの家はやまさんとお母さんそして妹の沙織ちゃんの3人家族。
(あっ!ポンもいたか!)
でも、最初から3人家族ではなかった。
何年か前にお父さんとお母さんが『離婚』して3人家族になったんだって。
そしてそのお父さんは・・・倉敷に住んでいるらしい。
何週間か前、やまさんが家で留守番している時にやまさんのお父さんから電話があった事が始まりだった。
修学旅行で倉敷に行くと言ったらお父さんはその近くに住んでいるんだと言ったそうだ。
30分ぐらい話してお母さんには内緒にするようにと言って切ったんだって。
倉敷と言えば2日目に行くところだ。
やまさんはお父さんに会いたいと、そしてお父さんに会ってなんで出て行ったのかを聞きたいと言った。
やまさんは知っている。
お母さんが引き出しの中に4人で写っている写真を大事にしまっている事を。
そしてなんであんなに仲の良かったお父さんとお母さんが離婚してしまったのかを聞いて見たいと言った。

僕らは無言でうなずいた。
もちろん協力するに決まっている。

チャンスは倉敷のチボリ公園での自由時間。
あまり目立たないところを探してそこで会うようにしないといけない。
ネットでチボリ公園のマップを見ると奥の方に多目的広場があった。
そこがいいんじゃないかと皆の意見が一致した。

「女子に見つからないようにしないとな」とテンちゃん。
「そうだな。きっと先生に言いつけるよ」とみずっち。
「4人でクラスの皆のところからそっと外れるようにしないと駄目だね」と僕。
これは案外難しいかもしれない。
なんたって僕らのクラスの男子は皆仲良しだから・・・こんな公園に行ったら皆で行動しようとするもの。
だって本当はそれの方が楽しいからね。

僕らは今からも慎重に動くようにしないといけない。
やまさんはナンバーディスプレイで出たお父さんの携帯番号を控えているのでそれで連絡を取ってみると言った。
お母さんにばれないようにしないと。
誰にもこの事は言わないと僕らは手のほくろを出し合って(僕は慌ててマジックで書いた)誓った。

僕らの修学旅行・・・どうやら大変な旅行になりそうだ。

                                 ≪その2へ続く≫

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ほくろクラブ株式会社15≪孫の代まで・・・その3≫

2007年06月26日 | ほくろクラブ
運動会当日。

僕はお父さんに連れられ松葉杖で学校に行った。
テンちゃんややまさんみずっち・・・皆驚いて集まってきた。

「今日は見学なんだ」と僕が言うと皆シーンとしてしまった。
「大丈夫だよ。一生懸命応援するから、よかったよ応援する事にして・・・出れなくても応援だけは参加できるからね」
と僕が出来るだけ元気に言ってもしばらく皆は黙ったままだった。

「ごめん。ウッチー僕が下でしっかり支えなかったから」
みずっちが下を向いて言った。
「違うよ、僕がちゃんと上がれなかったから落っこちたんだ」
僕が言うとまた皆シーンとした。

しばらく皆で黙っていたが急に
「応援頑張ろうな!」とテンちゃんが言った。
「そうだ!そうだ!ウッチー僕らが走るのをしっかり応援してくれよな!」とやまさん。
「任せとけ!」と僕が言うとやっとみんなで笑った。

僕が出れなくなったせいで赤城先生をはじめ他の先生も大忙しだ。
僕の代わりに急遽ピラミッドの上に登る事になった生徒やプラカードを持つ生徒を指導している。
僕は申し分けなくてちょっとだけ情けなくなった。
その時音楽の先生が通りかかった。
「あらあら内田君。災難だったわね。でも運動会の前日に捻挫して出れなくなるなんで、内田君の孫にまで思い出話として語れるわよ!」
そう言ってケラケラ笑うと去って行った。
なんて事を言うんだ・・・こんなに情けないのに。

いよいよ開幕。
皆が並んで僕は見学席に1人っきりになった。
やっぱり情けない。
体操をやっているのをぼーっと見ていると保護者の見学席にいるお父さんとお母さんの姿が見えた。
自分の子供が出ないのに朝からちゃんと見に来てくれている。
僕は少しだけ涙が出そうになった。
皆が体操から戻ってきて慌てて涙を拭いた。

短距離走・リレー・玉入れ 。
他の学年の時は皆と一緒に応援し、僕ら6年生の出番の時は一人ぼっちになったけど僕1人で応援した。
「行け行け!6年1組エイエイエオー!僕らの力で青組優勝!がぁーーーんばれぇ!」
僕が1人で応援していると下級生で仲のいい子が一緒に応援してくれた。
少しだけ気持ちが晴れてきた。

午前中の部が終わった。
僕はずっと見てくれていたお父さんとお母さんと一緒にお弁当を食べた。
お弁当はお正月のおせち料理を入れる入れ物にいっぱい入っていた。
お母さんが朝早くに起きて作ってくれた僕の大好物ばっかりだった。
「皆、頑張っているな、特に天童君なんか走りは全部一位だな」とお父さんが言うと
「そうね、勇気のお友達がすごく活躍してるわ。このまま行けば青組優勝ね。」とお母さんがうれしそうに言った。
「勇気も応援頑張ってるな。お父さんはちょっと感動したぞ」そう言うとお父さんは僕の頭をちょんと小突いた。
食べ終わるとほくろクラブの皆が来てくれた。
皆と一緒に児童席に戻ろうとすると
「ほら、おぶって行ってやるよ」と言ってやまさんがしゃがんだ。
僕がためらっているとテンちゃんが僕の松葉杖を持ってくれてみずっちが僕の水筒を持ってくれた。
僕は僕よりかない大きなやまさんにぶら下がるようにしておぶってもらって児童席に帰った。
友達っていいな・・・僕はまたやまさんの背中で涙が出そうになった。

お昼からの一番の目玉は6年生が出る騎馬戦と組み体操だ。
騎馬戦で勝敗が決まる。
僕はドキドキした。
なんと言っても赤組に超手ごわい大将がいる。
練習の時はいつもこの1人のせいで青組は全滅したんだ。

いよいよ騎馬戦が始まった。
やっぱり赤組の大将は強い。
でも、青組の大将のテンちゃんもたくさん帽子を取っている。
最後は・・・一騎打ちになった。
僕は一生懸命旗を振って応援した。

「行け行け!テンちゃん!テンちゃんの力で青組優勝!がぁーーーんばれぇ!」

赤の大将の長い手が延びてテンちゃんにかかる!少しテンちゃんがぐらついたように見えた瞬間テンちゃんの手が赤組の大将の帽子にかかった!

「ピッーーーーー!青の勝ち!」

先生の声が上がった!

誇らしげに帽子を高く掲げたテンちゃんの手が見えた。
その瞬間に青組の優勝が決まった。
わーーーっと言う声とともに皆が立ち上がって喜んでいる。
僕はうれしかったが・・・あの中にいない自分が少し悲しかった。
座ったままなのに足が痛くなった。
痛かったんだ・・・足が・・・一粒だけ涙がこぼれた。

興奮した皆が帰ってきた。
口々にさっきの騎馬戦の活躍の話をしている。
女子はもう修学旅行の話をしている。気が早いったら・・・まだ運動会終わってないぞ。
僕も笑いながら聞いた。笑っていようと思った。悲しさを悟られないように。

その時テンちゃん、やまさん、みずっちのが赤城先生と何か話していた。
僕の代わりにピラミッドのてっぺんに登るテンちゃんとの打ち合わせなんだろう。

そして最後の組み体操が始まった。
自分が練習している時はわからなかったけど、皆がきっちっとそろって演技しているのはきれいだ。
最大の見せ場のピラミッド。
こっちから見てたらまたみずっちがグラついたけど運動神経ばっちりのテンちゃんがなんとか持ちこたえた。
僕もああやればよかったんだ。
今更ながらそう思う。
テンちゃんが上に立つと会場からは盛大な拍手が起こった。
僕も大きく拍手をした。

大成功だった。
演技が終わり6年1組の皆が輪になった、するとその中心から赤城先生とテンちゃん、やまさん、みずっちが僕の方に駆けて来た。
赤城先生は僕を抱きかかえると輪の中心に連れていった。

そして・・・
「青組、優勝ばんざーーい!6年1組ばんさーーい!そして僕らの応援団長、ばんざーーーい!」
そう言って僕を中心にしてバンザイをした。
僕はもう何がなんだかわからないぐらいうれしくなってバンザイをした。
足がまた痛いような気がしたがもう気にならなかった。

こんなうれしい運動会は初めてだ。
最初に音楽の先生に言われた時は腹が立ったけど、僕に孫が出来て運動会に出る時、聞かせてやろう。
僕の大切な思い出話として・・・。

「おじいちゃんはね、運動会の前日に捻挫してね・・・」なあんてね。

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ほくろクラブ株式会社14≪孫の代まで・・・その2≫

2007年06月17日 | ほくろクラブ
僕らは毎日運動会に向け、学校も家でも大忙しだった。
運動会の練習と応援の練習。
帰る前は必ず
「運動会で勝つぞ~!エイエイオー!」
と僕ら4人が中心になって勝どきをあげる。

帰ってからはどのような応援をするかの相談だ。
「行け行け!6年1組エイエイエオー!僕らの力で青組優勝!がぁーーーんばれぇ!」
旗も海賊のマークを書いた。
大きなホクロのある変なガイコツになってしまったが・・・。

朝からずっと一生懸命なので晩ごはんを食べながら居眠りをしてしまう毎日だった。
ご飯を口にいれたまま寝てしまってお母さんにすごく笑われた。
びっくりして起きてご飯を噴出してまた笑われた。

他の皆も一緒だと思う。
テンちゃんは運動神経がよくてクラスの期待の星だ。
走りも早い。だからもっと早くなるようにと練習を毎日公園でしている。
みずっちは走るのが遅いけどやっぱり皆に迷惑をかけたら駄目だからとテンちゃんと一緒に走っている。
やまさんは騎馬戦で上になるので帽子をとる練習だ。
僕は生徒の前をプラカードを持って歩く役に選ばれて、その歩く練習もしないといけない。
こんな光栄な役に選ばれたのがとてもうれしい。
体が小さい僕にとってプラカードは重いけどしっかり持って歩けるように頑張った。

そしていよいよ運動会が明日になった。
僕達6年生は最後の練習を学校でしていた。
組み体操でピラミッドを作る。
僕は小さくて軽いから一番上になる。
ただ、僕の下がみずっちなのだがどうも僕を支える力がなくて僕が登ろうとするといつもガクッとなる。
何回も僕はピラミッドから転がり落ちた。
毎日、打撲だらけになっていた。
この日また上がろうとした時にみずっちがガクッとなった。また僕は転がり落ちたのだが、その時みずっちの体に僕の足が引っかかった。

「いってっぇ~~!」

僕は大声をあげた。なんだか足の付け根が変な感じがした。
すごく痛かった。涙が出そうだったけどなんとか我慢した。

次はリレーの練習だった。
足は相変わらず痛くますますズキズキしてきた。
僕にバトンが回ってきたけど・・・もう僕は走れなかった。
痛さで涙も出てきた。こんな痛みは生まれて初めてだ。

「痛くて走れない・・・」
僕は情けなさも手伝ってボロボロ泣いた。
赤城先生が走ってきて僕をおぶって保健室までつれていってくれた。
そしてしばらくすると僕を病院まで連れていってくれた。
診察の順番を待っていると先生の知らせを受けお母さんが会社を早退し駆けつけてきた。
先生にお母さんが
「後で連絡しますので、ありがとうございました」と言うのが聞こえ先生は学校に戻って行った。

そして・・・診察を受けた。
レントゲンをとったり足を動かしたりしてまた僕は少し涙が出た。
僕は右足の付け根の捻挫だった。
「股関節捻挫です。」と先生は言った。
骨折とかではないからお母さんはほっとした様子だ。
僕は・・・僕は・・・痛さをこらえながら聞いた。

「明日、明日、運動会なんです!明日までに治るんですか?」

先生はちょっと悲しそうな顔して言った。
「残念だけど、しばらく痛みが収まるまで松葉杖をつこうね。明日は残念ながら参加は出来ないよ」

NO-----!

僕は暗闇に吸い込まれるような感じになった。
小学校最後の運動会。なんでこんな事になるのか!

痛い・・・。また涙が出てきた。痛いのか悔しいのかわからなくなって僕の涙はなかなか止まらなかった。

松葉杖を病院で借りた。
痛いほうの足をあげて松葉杖に体重をかけると痛みがましになった。
「松葉杖をついてしっかり治そうね」と先生は言った。
家に帰るとちょっとした段差が登れない。
お母さんが「ほら」と言って背中を向けてしゃがんだ。
僕は仕方がないのでお母さんにおぶさった。何年ぶりなんだろうお母さんにおんぶされるのって。
お母さんの背中は小さかった。
でも、暖かかった。僕はまた涙が出た。

「しっかり明日は応援しようね。お母さんもお父さんも行くから」とお母さんが言った。
そうか・・・まだ運動会に出れなくても応援がある。
僕はちょっとだけ希望が見えた気がした。

                             ≪その3へ続く≫

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