おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ものを言う

2021年07月07日 | ショート・ショート


結構な雨が降っている。
今日は午後から前回書いたように出掛けるのとおとーさんが居るので絵日記は休み。
疲れ出ないようにほどほどに頑張ろうと思っているところ。
でも、ちょっと頑張らないと駄目な事が出来てきて連日疲れております。

今日は、ちょっと趣向を変えて・・・。
このコロナ禍の中でのショート・ショートを。
文章のワードでの校閲はしましたが自分での点検はまだなのでこれからまた変えるかもしれません。誤字脱字、文章が変なとこるがあるのはご容赦いただきたいのと、興味がない方は読み飛ばしてください。
*****************************
<ものを言う>

コロナという新型の肺炎が世界中で蔓延する。
世の中は、マスク姿の人たちが普通の光景になった。
俺たち高校生も学校に行くのマスク。
そして、昼に弁当を食べるときもマスク。
前を向いて誰ともしゃべらないで黙々と食べる。
なんとも味気ない毎日。
それでも腹は減る。
もう少しで昼だと思った時俺の腹が鳴った。

「ぐぅぅ~~」

あちこちからクスクスと小さく笑い声が聞こえる。
俺も「へへっ」と笑った。
ところが、腹の虫はまだ鳴りそうだと思い心の中で思った。

「ああ~~、腹減ったな」

いや、心の中で思ったんだ。
でも、声・・・いや正確に言うと腹が言った。

「こら!サトウ!しゃべるな!」と先生。

ええっ~!俺しゃべってないし。
俺は腹を見た。

その日を境に俺の腹はしゃべるようになった。
数日間は心の中で思う事が出てしまったりしたが、その後コントロールが出来るようになった。
口を開かなくていいので飛沫が飛ばず便利だ。
そのうちに仲間が増えてきた。
みんなコントロールが出来るようになるまで時間がかからなかった。

昼食時も向き合って食べるようなる。
なんせ口は食べるの専門だから。
おしゃべりは腹がしてくれる。

コロナになってからのの味気ない毎日が一変した。
しゃべりながら食べるのはやはり楽しい。
数か月するとクラス全員、いやこの現象が世界中に広がってきた。
ただ、大人はどうやらなかなかこれが出来ないらしい。
俺たち世代は「NEO人類」と呼ばれるようになる。
特に小さい子の方が腹は饒舌だ。

そうこうしているうちにワクチン接種が始まり、この新型も収束の兆しが見えてきた。
ただ、完全になくなったわけではなく他の感染症もあり、俺たち世代はマスクをつけ続ける。
最初は、いろいろと暑くて蒸れたりかぶれたり、また息苦しかったりしたが、いろいろな素材が開発され付け心地も段違いに良くなった。
部活のサッカーも思いきり出来るようになった。

ある日の放課後、俺はマネージャーの女の子から呼び出された。
前からかわいいなと思って気になっていたのでドキドキする。

もじもじしている女の子が顔をあげた。

「好きです」

彼女の目が言った。

なるほど目は口ほどに物を言うのか。

「俺も」

目で答えた。

なんとも世界は不思議でそして魅力に満ちている。

***********************

おあとがよろしいようで

落語で頭に木がはえて池が出来る話が好きです。
「頭山」

子ども用の教材用の動画があったので<参考>

高校生の姪が、学校で食事中は前を向いて黙って食べないと駄目だと言うのを聞いて、以前から実は「腸がしゃべる」という突拍子もない話を思いついていたので、組み合わせてみました。
授業中、私もよくお腹なっていたので。

ワクチン接種が終ってもきっとマスクを外せないだろうなと言うのといろんな感染症の認識が変わってしまって、正直インフルエンザなども怖いと思うように。
でも、このままの状態でいいのかも疑問。

7月はいろいろと落ち着かない日々になりそう。
ワクチン接種も再来週に1回目が取れたし。
接種券が届いてすぐにwebだけで予約をとっている個人病院にアクセスしたら
ラッキーなのかわからないけどすぐに取れた。
でも、その後はストップしたようでいろいろと兵庫県は混乱が起きているよう。
神戸は5万人分がキャンセルになったそうだ。
おとーさんの会社の人は、高齢の親と同居しているので西宮まで行くと言っている人もいた。

しばらくは絵を描いたり本を読んだりして落ち着こうと思う。
以前描いた絵。


パステルと色鉛筆。
さっと出せる画材がいい。
そうそう、利き腕には注射を打たない方がいいと言うのもあちこちで聞く。
ほどほどに頑張っていろいろと乗り切ろうと思う。
私が倒れたらどうしようもない。
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缶コーヒー

2020年01月20日 | ショート・ショート


暖かくてびっくりする。
ただ、手袋をしないで原付乗るとやっぱり寒かった。

図書館に行く。
本を読むのもあるけど、なんだか土日疲れたのもある。
他に用事もあり、昼ご飯を食べてから「ゆっくり」するために出かけた。

1冊読みかけたが、途中でとめる。
借りずに蔵書を眺めてみたり、パラパラとめくってみたり。
土日は最近、本当に疲れる。

原因はわかっているし、割り切らないと駄目だ。

今日は、先週予告した通り「ショート・ショート」を。

********************************************************************
【缶コーヒー】


ある日、目覚めると部屋の様子が違っていた。
昨日までぬくもりがあった部屋の中は、どこか荒んだ雰囲気が漂いリビングのテーブルの上には食べた後のカップ麺がそのまま残っていた。

私は妻を呼んだ。
でも、返事がない。
そして部屋の中を見ると妻の持ち物が全部ない。
「熟年離婚」という言葉が浮かぶ。
私もあと数年で定年になる。
世間でよく聞く話を思い出す。
しかし、昨日の夕飯は二人で食べたしメニューも覚えている。
ビーフシチューだった。
「久しぶりに作ったのよ」と妻が言ったそれはとても美味しく私はお代わりまでした。
奇妙なのはそのビーフシチューを食べた「皿」までなくなっている。
妻とお揃いのカップは私のだけ残り、そして妻の衣類や嫁入りの時に持ってきた鏡台までなくなっていた。
妻の痕跡がまったくなくなっていたのだ。
1晩でここまで持ち出せる事は不可能だ。

私はパニックになって外に出た。
ご近所の奥さんにあったので挨拶をして、妻の事を聞こうと思ったのに奥さんは私の顔を見るとそそくさと家の中に入って行ってしまった。
何か隠しているのか!私は憤りもう一度家に入った。
スマホに登録してある妻の番号にかけようと思ったが、登録がない。
それに妻の親族や友人や知り合いの番号さえなかった。

よく考えると私の「知人」と言うのは妻の関係しかない事に気がつく。
極端に人付き合いが苦手というより嫌いな私は、友人と言える人もいなくまた1人っ子だったため兄妹もいない。
また親族との付き合いもなく、両親が亡くなった今誰も頼る人がいない。
それでも「妻」という存在があったため彼女を中心に彼女の妹や彼女の親族との付き合いがあり、また近所とも彼女がいたため上手くやっていたと思う。
子どもはいないが、仲の良い夫婦だと思っていた。

途方にくれた私は、唯一交流がある父の弟の叔父に電話を入れた。
「妻を知りませんか?」と。
ところが返って来た返事は
「お前、いつの間に結婚したんだ?連絡もよこさないで。」と。

おかしい、20年前の結婚式には叔父も来たはずだ。
それからも、自分の知っている限りの知人に妻の事を聞いたが、みんな知らないというばかりかとても冷たい対応をされた。

その日は、幸い休日だったためご近所にも聞きにまわるが、みな似たような返事や対応だった。
私を子どもの頃から知っているおばあさんは私が尋ねると途端に気味悪そうに言った。

「あんた、とうとう頭がおかしくなったのかい?あんたはずっと独身のはずだよ」

そして、少し話をしてくれた。
私は、ずっと独身で両親が亡くなってからは近所づきあいもまったくなくなり、家に居るのかどうかわからないぐらいの状態だったらしい。
そして、ゴミ出しなどはいい加減で再三注意されても無視をしてご近所ともトラブルになっていたそうだ。

頭の中が混乱する。
ゴミ出しなどしたこともなく、分別もわからない。
いつも妻がやっていたからだ。

フラフラとそのまま漂い、公園のベンチに腰をかける。
喉がかわき缶コーヒーを買い、半分ほど飲む。
そういえば、こんなに人付き合いが苦手な俺はどうして妻と知り合ったのか?
確か・・・確か・・・。
思い出せない。
ずっと私はいないはずの女性を頭の中で作り出していたのか・・・。

こんな時に相談できる友人もいない。
妻が中心に私の世界はまわっていた。
改めて痛感する。

会社での付き合いはどうか。
忘年会や飲み会などはすべて断りまっすぐ家に帰っていた。
進んで仕事をやる事もなく、毎日がそれなりに過ぎればいいと思っていた。
総務の仕事で真面目にさえやれば、いいと思っていた。
そして妻という家族さえいればいいと思っていた。

私は孤独を認識する。
気が狂いそうなほど。

1人で生きていくという孤独を。

公園の中で大きく叫んだ。
すると真っ暗な闇が訪れた。



光が入ってきて目をあけた。

「どうしたの、叫んで。大丈夫?」と心配そうにのぞき込んでいる女性がいる。
妻だ!
私は涙を流して「良かった!良かった!夢だったんだ」と彼女の手を取った。
「やだ、何気味が悪いわね」と妻が笑う。

二人で朝食を取り、その日は公園に散歩に出かけ公園のベンチに腰掛けた。
ベンチには半分飲みかけの缶コーヒーが置かれてあった。
私は悲鳴をあげそうになった。
夢で私が飲んだ缶コーヒーと一緒だったからだ。
妻が「始末が悪い人がいるわね」といい中身を水道で洗い流し、ゴミ箱に捨てた。

その後二人でそこでいろいろと話をした。
妻が言う
「あなた私がいないと何もできないでしょ。それが心配なの。そして誰もお友達がいないでしょ」と。
私は頭に稲妻が走ったような気がした。

それからの私は少し変わった。
自ら積極的に会社や地域の行事に参加した。
家事も積極的に手伝い、休日などは料理教室に通い、たまに夕食などを作るようになった。
料理も一度はまると面白いものだ。
それに喜んで食べてくれる人の顔を見るのが楽しい。
定年まであと少しの期間だったけど、私の変わりように最初こそびっくりした人たちも親しく「私」と付き合ってくれるようになった。
定年後は妻の勧めで高齢者大学に通い、そこで友達が出来毎日が楽しいものとなった。
自分や妻の親族との交流もちゃんとした。

70歳を過ぎた頃妻に悪い病気が見つかりあっけなくこの世を去った。
葬儀などは親族や近所の人、また友人たちが支えてくれて悲しみの中滞りなく終わった。
もし、この人たちがいなかったらと思う。



朝、目覚めた。
リビングにカップ麺があった。
ああ、妻はいないんだと思い昨日何も作る気がなくて食べた事を思い出した。
流しに残りの汁を残しゴミを分別した。

仏壇に手を合わせてから、コーヒーを飲もうと食器棚の中の私のカップを出した。
横にはまだ妻のカップがある。
ふと除くと一枚の紙が入っていた。


取り出して読むと妻の字で
「もう大丈夫」と。

あの夢は彼女が見せたものなのか・・・
それは、私が同じ場所に行った時に聞こうと思う。

インターホンが鳴った。
そこには、一人の私を心配して来てくれた「私」の友人がいた。

「ようこそ。来てくれてありがとう」
私はドアをあけた。



**********************************************************

まあ、どっかで読んだような話で、私もどこかで書いたような話。
久しぶりに考えたから、まあこんなものかと。

本当は少し他の話を書きたかったけど、もうちょっと「こなれてから」の方がいいかと。
この話は、最近おとーさんが変わった事と、以前少し他の人の事を心配していた時期があったのを思い出して。
おとーさん自身は、親族との付き合いもそれなりにあり、妹もいるしそれに息子もいる。
だから、一人になったとしても困らないかもしれない。
しかし、地元に住んでいるにも関わらず高校時代の友人とは疎遠になり、今「友達」といえる人がいるのだろうかとかなり前から心配している。
休みは私にべったりだし。
幸いにして、再就職した会社が地元の為、最近になてちょこちょこと会社の人と遊びに行くようにはなっていたんだが・・・。
でも、会社という枠が取れたらどうなるのかと今から心配している。
私たちももう目の前にそれが来ている。
それは私にも言えることで、何か行動をしなければと思っている。

この話、何通りかのストーリーを考えていて、ここに載せたのは一番「毒」がないもの。
1つは、この「夢」は妻がある所に依頼して夫に見せたもの。
これは、まあこのストーリーの隠れた話になる。
1つは、自分自身がそのある所に依頼し、「夢」だと思っているのが現実で、他の部分はすべて「夢」。
最後は孤独のまま終わる。
1つは、パラレルワールドで重なったまた違った世界に飛ばされるとか・・・。

その「ある所」というのもいろいろと考えられる。
例えば、引きこもりを改善するために国が立ち上げた「夢」を見せるという計画。
国って言うのもありきたりだから、何かの秘密の組織とか。
少子化や未婚率などの問題を解決するために見せるプログラムとか・・・。
あはは、どんどん話が広がる。

今回は、私の年代の話で書いたけど以前から一人っ子の息子の事をずっと考えている。
彼は結婚するのかしないのか・・・。
しかし、もし仮にしなくても1人で生きていけるように育ったと思うし、今は彼に関わる人たちはたくさんいる。
今度のゴールデンウイークは、地元の友達がまた東京の方に遊びに来るらしい。

結局、これなんだよな・・・親として本当に心配するのは。
本当は、この話を「親の視点」で書きたかったんだが・・・。
もうちょっと頭の中で熟してから。

少し前にご近所の奥さんが少しの期間別居された。
結局、戻って来られたのだけどそこの家は奥さんが居てこそ、そこの旦那さんの出す騒音が我慢できていたことに気がついた。(土日、夜関わらず何か作業していて音がすごい)
奥さんが気を使って、「迷惑かけます」とか言ってこられていたので「大丈夫」と言えていた。(旦那さんは、しゃべらない)
音が限界!と思っていた時に奥さんが帰ってこられた。
もしかすると奥さんも音が限界で出たのかもしれない。

そういう事なのだ。

良く寝ているコブちゃん。
写真撮ると起きるのでこっそりこんな小さい写真を。

次は普通の絵日記を。

久しぶりに「おはなし」を考えて楽しかった。
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マンホール

2012年01月15日 | ショート・ショート
子供の頃にこんな遊びをした事はないだろうか。
たとえば商店街の歩道のタイル。
色を組み合わせて敷いてある。
その中の白いタイルを踏んだら駄目とか、自分でルールを決めてピョンピョン飛ぶ。
母親に
「早く歩きなさい」と言われて、白のタイルを踏んでしまって
「あーあ」ってなって終わり。

俺の場合は、それがマンホールだった。
下に水が流れる音とが聞くと吸い込まれそうな感覚になる。
マンホールの場合、あまり親には注意をされなかった。
雨が降ったら滑りやすいとかで、踏まない方がかえっていいと思われていたからかもしれない。

ずっと決めたルールを守ってきた時に外国の作家の短編集で、敷石を踏み外して子供が消えてしまう話を読んでから、余計にやめれなくなった。

密かな、そして大人になるととても子供じみて馬鹿らしいルール。

しかし俺は、20歳を超えた今でもこのルールを守り続けている。

大学を卒業し、ある企業に就職が出来、彼女も出来た。
ある日、彼女とのデートで腕を組んで並んで歩いている時、数メートル先、俺がこのまま歩くとマンホールを踏んでしまう事に気がつく。
心で葛藤が広がる。

どうする・・・いつものように避けて通るか・・・。
しかし、彼女と腕を組んでいる今、その腕をほどいてマンホールをよけるのはあまりにも不自然だ。

迷っているうちにどんどんマンホールが近づいてきて・・・とうとう・・・

踏んでしまった。

シュポッ!

と落ちる感じがした。
思わず目を閉じる。

「どうしたの?」
彼女の声が横でした。
目を開けると、俺は別にどこにも落ちているわけでもなくマンホールの上にのっているだけだった。

「いや・・・ごめん。目にゴミが入ったんだ」

と俺は慌てて言い訳をした。
やっぱり、とても馬鹿らしい子供じみたルールだったのだ。
大げさだか、やっとその呪縛からとけたのだ。

「さあ、この先に美味しいパスタの店があるんだ」
俺はそういうと彼女とまた歩き出した。


その日の夜。
俺は彼女との楽しかった1日を思い出しながら眠りについた。

そして、夢を見た。

俺は暗いところにいた。
かろうじてわかるのは、それはどこかにずっと続いているという事。
俺は出口を探し歩き続ける。
薄暗いがぼんやりと道は見える。

ずっとずっと歩き続けた。

よく朝起きるとひどい疲労感に襲われた。
ずっと夜中に歩き続けたような感じだった。

きっと、昨日ルールを破った罪悪感から見た夢なのだ。
しかし、あまりの疲労感にその日は、仕事も定時に終わらせて、家に帰って早めに就寝することにした。

寝たらこの疲れも取れるだろう。
楽しい事を考えて眠ろう。
俺は眠りについた。

ところが、この日の夢も暗い道を歩き続ける夢だった。
夢の中で疲れて座り込んで横になるが、夢の中でまた横になるわけなので眠れるはずもなく、そこで目が覚めた。
寝なおすとまたその続きになる。

もしかすると・・・
俺はひとつの仮説に行き着く。
マンホールを踏んだ時
「シュポッ!」と音が聞こえたような気がしたのは、この事だったのかと。

出口を見つけなければと焦る。
しかし、暗い道が続くばかり。
必死で出口を探しさ迷い歩く。

翌日の疲労感は大変なものだった。
仕事にも影響をする。

毎日、毎日、夢の中で暗い道を歩き続ける。
疲れが取れず、会社の上司から病院に行く事を進められ、休暇をとるように言われる。
ここで休んでしまえば、俺は確実に落ちこぼれる事になるが、上司の言葉に従い病院に行った。

医者は薬を出してくれたが、一向によくならずそして原因もわからない。
一応、診断書は出してくれたので、よくなるまで休む事になったのだが、あまりに長期になるときっと会社も辞めざるを得ないだろう。

なんであの時、マンホールを踏んでしまったのか。
付き合っていた彼女も自然と離れていった。
こんな事なら、腕を離してマンホールを避ければよかったのだ。

1ヶ月がたったが、あの夢のままだ。
段々、現実でも夢の中でも憔悴をしていく俺は歩く事をやめた。
うずくまったままの状態ですごす。

「もう駄目かもしれない」と思ったときだった。
肩に何かがふれた。
夢の中だけど、その感触がつたわる。
顔をあげるとぼんやりだけど若い女の人の顔が見えた。

「あなたもマンホールに落ちたのね」とその女の人が言った。

夢の中だが、俺は涙が出た。

「私もずっとさまよっているの。不思議ね、こんな中で出会えるなんて。私ももう駄目かもしれないと思っていたところなの」

俺たちはいっぱい話をした。
彼女もマンホールを踏むと駄目だというルールを作っていたのだが、ある日車をよけた拍子に踏んでしまったのだという。

不思議とその翌朝、疲れが残らなかった。
眠った感じとは少し違うが、少しすっきりした感がした。
孤独から開放されたような。
ただ、夢の中で彼女の名前や住所などを聞いた気がしたのだが、そのあたりは覚えてなかった。
夢なんだから仕方ないだろう。
それに現実ではなく、俺の孤独が作り出したアニマかもしれない。

その日の夜。
果たして彼女はいるだろうか。
眠りについた時、彼女の姿が目に付いた。
俺は心から安堵した。

二人で離れ離れにならないように、先に眠ったり、そして相手が目覚めた後は動き回らないようにしようと話し合った。

そして二人で出口を探す。
手を繋いで。
俺は夢の中の彼女に恋をした。

これを境に俺の体調はよくなり、会社への復帰も果たせた。
ただ、以前と違っていたのは、早く彼女に会いたい・・・それで就寝時間も早くなり、休みの日は、ずっと寝ているようになった。
もちろん彼女とすれ違う事もある。
そんな時は、動かずに待つ・・・それを俺たちは決めた。
ただ、悲しい事に人間というものはずっとは寝てられないもので、目が覚める。
あまり寝すぎると眠れなくなったりするので、規則正しく生活をし、夜がよく眠れるように昼間に運動も取り入れた。

夢と言うのは不思議なもので、彼女と俺との間に子供が出来た。
かわいくてかわいくて仕方がない。
マンホールの中から脱出は出来ないが、子供の服などは何故かこんなのが欲しいと望めば着せる事が出来た。
そこが夢なのかと思う。

子供が歩けるようになった頃だった。
彼女と3人で喜び、手を取り合って歩いていると、驚いた事に目の前にマンホールのような大きさの光の輪が見えた。

子供が喜んで駆け出していく。
慌てて二人でとめるが、子供はその輪の中に入っていった。

「シュポッ!」

その輪に入った途端に子供が消えた。

悲鳴と共に彼女も子供を追いかけてその輪の中に入っていった。

「シュポッ!」

彼女も消えた。

俺はパニックになった。
そして俺も子供と彼女の後を追いかけて輪に入った。

「シュポッ!」

目の前に明るい光が入ってくる。
目を開けると、ただ単に目覚めただけで朝日が目に入ってきただけだった。

その日の夜、眠ると何も夢をみなかった。
そう普通の眠りだった。
何日もそんな日が続く、あまりに彼女や子供に会いたい願望からか「夢」を見るが、あの「夢」ではなかった。

もう一度、マンホールを踏もうかと思うが、これを踏んで彼女に会えるという保障があるのか。

俺はマンホールが目の前にある度に立ち止まるようになった。

そんな生活が何年か続き、相変わらずマンホールがあれば立ち止まる日々。

今日も迷いと共に歩いていた。
すると少し先に同じようにマンホールで立ち止まっている女性がいる。

近づいてみると、なんと彼女だった。

俺の顔を見て驚いて涙を流している。

俺は彼女の手をとり言った。

「さあ、行こうか」

彼女はうなづき、二人で手を取り合った。
マンホールを二人はもう絶対に踏まないだろう。

そして、消えてしまったあの子はいつかは俺たちの元に帰ってくる。
そう遠い未来ではない事が俺にはわかる。
                             END

***************************************

<あとがき>

子供の頃って、こういったルールがありますよね。
レイ・ブラッドベリだったのだと思うんですが、子供が敷石を踏み外して消えてしまう短編を読んだ事があり、心の中でずっと残ってました。

それなら、消えたあとどんな世界に行くのか・・・って事でうまれた話です。
ハッピーエンドがよろしいようで。

この二人の子供も二人の元にかえってきます。
帰って来ると言った方がいいのか、生まれてくるというのか・・・。
時間や空間がねじれた世界。
あまり説明すると面白くないので、今日はこれまで。

ちゃんちゃん。

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むかし、むかし

2008年09月28日 | ショート・ショート
むかし、むかし。地球のあるところに30歳後半の夫婦がおりました。
夫婦は好きな事はもう随分したし、そろそろ子供がほしいねと話し合ってたところ子供が出来ました。
男の子で名前は『太郎』と名付けました。
太郎はすくすくと育ち、「小学校」「中学校」「高校」そして「大学」を出て大手企業の「サラリーマン」になりました。
会社には太郎をいじめる嫌な「上司」がいました。
「サン会社の『契約』を取ってこなければ首にするぞ」と上司は言います。
サン会社と言うのはとても大きな企業で今まで誰も契約を取れた事がありません。
受付で担当者に面会を頼みますがいつも断られました。
サン会社の受付の綺麗な女の人はいつも申し訳なさそうに
「大変申し訳ございませんが、担当者は今会議中でお会いできる事が出来ません」と言いました。
だけど、太郎は暑い日も寒い日もそして雨の日も風の日も毎日通いました。
すると段々、受付の綺麗な女性と仲良くなってきました。
太郎は結構「イケメン」だったのです。
ある日の事、すっかり仲良くなった女性が
「私から話しました。お会いしてもいいそうですよ」と言いました。
太郎は担当者に会い、なんと!契約が取れました。
太郎は大喜びで上司に報告に行きました。
上司は「ふん」と言っただけでした。
しばらくすると朝礼の時にサン会社との契約が取れたと発表がありました。
でも、驚いた事に取ってきたのはあの嫌な上司だと発表されたではないですか!
太郎は怒って上司に詰め寄りましたが
「私が取ってきたと言ったほうが後の話がしやすい」と上司はいい「嫌なら辞めていいだぞ」と太郎を脅しました。
太郎は悔しいけど「サラリーマン」なので上司には逆らえず、黙って下がりました。
でも、後から声がしました。
「君には太郎君を首にする権限はないぞ!」
なんと会社の「社長」が立っていました。
そして後には何故かあの綺麗な女性がいました。
「娘から話は聞いた、ずっと通い続けて契約を取ってきたのは太郎君ではないか!」
なんとあのサン会社の受付の綺麗な女性は「社長令嬢」だったのです。
自分の父親の会社で働くのではなく、よそで経験をつみたいと言ってサン会社で働いていたのです。
太郎と社長令嬢は黙って見つめあいました。
あの嫌な上司はその日に辞表を出し、辞めていきました。
そしてその後太郎は社長令嬢と順調に交際し結婚しました。
社長令嬢が一人娘だったため、社長を継ぐことになりいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし。


***********************************

「お父さん!面白かったよ!もっと読んでよ」と小さな男の子が言った。
「駄目だよ、お父さんは今から出ないと駄目だからね」と若い父親は本を閉じた。「さあ、もう寝なさい」
男の子はちょっと目を閉じた後、少しあけて
「昔の『地球の人』は大変だったんだね。会社や小学校ってどんなところなんだろうね」
「さあ、お父さんもわからないな。明日調べておこうね」

父親はそういって男の子の頭をなぜた。
男の子はすぐに眠りについた。

父親は子供部屋を出てドアを閉めた。

遥か昔、地球と言う星は勝手な人間達の手によって滅びを迎えた。
何年も前から対策をたてたがもう手遅れの状態で、人々は新天地を探し、この星を探し当てた。
何年も何年もの努力で人類が移住できるよう計画し、崩壊の寸前のところで全人類が移り住んだ。
人々はそれまでの教訓を生かし、質素な生活を心がけ新しいこの星を大切にした。
地球に良く似たこの星は豊な星だった。
それに宇宙に出れるほどの科学力が人類にはあるので、わずかな物質で生活が出来るようになった。
人々はあくせくと働くことなく穏やかな生活が出来るようになった。

ただ・・・ひとつをのぞいて・・・。

「さて、用意をするか」
若く屈強な父親は道具箱から剣を出した。
『勇者の剣』と呼ばれるその剣は特殊な光線が出て何者をも貫く事が出来る。
しかし、あいつらだけは・・・。

この穏やかな星にはたまに『宇宙怪獣』が襲ってくる。
それはこの星の地下から生まれたり、他の星から来たりもする。
彼らには知能はなく、ただ人間を食料とだけしか見ていないようだ。

「よし」
若い父親は宇宙怪獣と戦うべく着替えを済ませた。
今日の怪獣は昔の地球の話に出てくる『ドラゴン』と言うのに似ているらしい。
父親は家に情報部から設置されている端末で情報を得て、出動していった。

「会社の社長になっていつまでも幸せに暮らしましたって昔って良かったんだな」ってつぶやきながら。


***********************************

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プレゼント

2008年09月25日 | ショート・ショート
暗くて寒い所から旅立とうとしている「小さき者」達に「光」は聞いた。

「さて、これから旅立つお前達に何かひとつプレゼントをしよう。なにがよいか?」



「私はきれいな声がほしい」

「私は早く走れる足がほしい」

「私は何もかもが理解できる頭がほしい」

「私はきれいな絵を描く腕がほしい」



皆、思い思いの願いを言った。

最後の一番「小さき者」の番がやってきた。

「私は・・・私は・・・私が温かくなれる心がほしい」

その言葉を聞いたほかの「小さき者」達も口々に言った。
「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」

何故ならそこは暗くて寒いところだったから。

「光」は言った。

「大丈夫、お行きなさい。あそこにあなた達が望んでいる場所がある。あなた達を愛して温かくしてくれる場所が!」

そう言って「光」は「小さき者」達を押し出した。
「小さき者」達は安心して旅立った。

そしてその行き着いた場所はとても温かで幸せな場所だった。
「小さき者」達は思う。
なんて幸せなんだろう・・・と。
フワフワと漂う中思う。

「私を温かにしてくれてありがとう。そして・・・アナタが大好きです。そして私を守ってください」と。

この温かな場所がいつまでも続かない事を「小さき者」達は知っている。
でも、この温かな場所を与えてくれる存在が自分を守ってくれる事を知っている。

「アナタを愛してます。そして私を愛してください」

そうつぶやき「小さな者」達はフワフワとまどろんだ。


*****************************************

どっかで読んだような話だと思ってもご容赦下さい。

なんとなく書きたくなって。

自分の子供の愛し方がわからない方。
呪文を唱えてください。

「○○ちゃんの事がお母さんは大好きよ」

何回も何回も言ってください。

それは子供達にはもちろん親にも効く呪文です。

抱きしめてあげて下さい。
でも、それが出来ないときは上の呪文を唱えてください。

スベスベのほほを見て涙が出るときがありませんか?
すっぱい匂いのする頭をクシャクシャってするときありませんか?
べとべとの手をぷにゅぷにゅする時ありませんか?

そして愛おしくて訳もわからず泣きそうになる時ありませんか?

子供達は愛されるために生まれてきてます。
もちろん私達、親もです。

だけど、心が一杯でどうしても無理なときは・・・
呪文を唱えるのです。
「大好き」「愛している」と。

そして・・・自分の事も愛してあげましょう。
自分達も愛される事を欲して生まれてきているのですから。



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