おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

お掃除ばあさん

2008年01月15日 | ショート・ショート
その不思議なおばあさんに会ったのは丁度一ヶ月前の事だった。
仲間とよく行く居酒屋。その日は仲間がひどく上司に怒られた時だった。
仲間数人となぐさめる。
「あれは酷いよな。自分のミスを君に押し付けて」
「そうだ。取引先に自分のミスではなく部下の失敗だと言い訳をして」
「おまけにそうだ。僕が提案したことをさも自分が考えたようにいったんだ!」
落ち込んでいた仲間もだんだん酔いが回ってきてその上司の悪口を言い出す。
「メタボでバーコード頭でおまけに臭い!」
「明日からバーメタって影で呼んでやろうぜ!」
さっきまで落ち込んでいたのがうそのように楽しくなってくる。
そのうち店の閉店時間になった。
代金を払おうと立ち上がった時にそのおばあさんが入ってきた。
髪をひとつにまとめ、長いスカートを引きずるようにはいている。
そしてサンタクロースのような大きな袋を持っていた。
袋は半分ほど入っているような感じだった。

「こんばんは。おやまあ!今日はとってもたくさんだね」おばあさんは店主に挨拶をする。
僕は勘定をしながら横目で見ていた。

すると・・・。

おばあさんは僕らが座っていた席で何かごそごそと拾い始めた。
「ここは特にひどいね。いっぱい落ちているよ。」
そおばあさんはブツブツつぶやきながら何かを手に持って袋に入れ始めた。いや、何かというより何もないように見えたのだが・・・。
驚いたことに何もないように見えたのに袋が膨らんできた。
空気を含んだとかそんな感じではなくあきらかに何かが袋の中に入った。

僕は店員の人に「あれは何か?」と聞こうとしたときにもう店の外に出ていた仲間から「次にいくから早く来いよ」呼ばれ慌てて外に出た。
酔っていたし、次の店にすぐに行ったので奇妙なおばあさんの事はすぐに頭から出ていってしまた。

そして、今日まで忘れていたのだが・・・。
またあの店に今日来ることになり、ふいに一ヶ月前の奇妙な出来事が思い出された。
今日は自棄酒を飲んでいるのでもなく、残業で遅くなり遅い夕食を一人でとりに来ていた。
僕は思い切って店主に一ヶ月前に見たことを聞いてみた。

「あーー、あのおばあさんね。この業界では特に珍しいことではないんだ。『お掃除ばあさん』って呼んでるよ。もう少ししたら来るから待っていたらいいよ」
と店主は言った。

それから数十分し閉店時間が近くなったときに店の扉がガラガラと開いた。

「こんばんは。今日は寒いね」

あのおばあさんが入ってきてまたいろんな席から「何か」を拾い集めて袋に入れ始めた。

「何を拾っているんですか?」僕は尋ねた。

「あー、これかね。」

おばあさんは何もないところを拾ったしぐさをしてそのしわくちゃの手を僕に差し出した。
その手の平には何もない。
「何もないようですが」と言うとそのおばあさんは

「口をあけてごらん」

えっ?っと言って思わず口をあけてしまった僕の口の中にその空っぽの手のひらぐいっと押し付けた。

うっ!何かが口の中に入った・・・ような気がした。
そのとたん、なんとも言えない嫌な気分になった。口の中には何も入ってないはずだし、もちろん何の味もしない。
でもとにくかくすごく嫌な気分なのだ。

「それは毒だよ。人間の落としたね。『ねたみ』や『苦悩』『悲しみ』『欲望』みんなここで落としていく。そんなものがいっぱい落ちたままだったら、みんなお店は潰れちまうだろう。だから私が拾いに来るのさ。お前さんがいま飲み込んだのはそんなに酷い毒じゃなからすぐに消えるさ」

おばさんはヒヒヒ・・・と薄く笑うとまた何か・・・いや毒を拾い始めた。

僕はまだ嫌な気分のままあっけに取られて見ていた。
そのうちおばあさんは袋をいっぱいにし
「じゃ、今日はここまでだね」と店主に言った。
店主は
「じゃ、これね」と言っておばあさんにいくらかのお金を渡した。

おばあさんが去った後、店主にもう一度声をかけた。
「どういうことなんだい?何を隠し持っていたのかわからないけどすごく嫌な気分だよ」と言うと

「ここが開店したときにすぐにあのおばあさんが来たんだ。『毒』を掃除しますってね。最初は相手にしなかったんだけど、しばらくすると客が入ってもすぐに出て行くようになってしまって店がうまくいかなくなったから半ばやけであのおばあさんに頼んでみたんだ。するとその翌日から客の入りが良くなってたくさんの注文ももらうようになった。それからずっとお願いしてるんだよ。このあたりの長く続いている店はみんなお願いしてるのをしったのはその後のことだよ」

「ふーん」私は半信半疑でつぶやいた。やっとなんだか嫌な気分が薄らいできた。

「一度私が入院したんだ。その時私の妻がかわりに店をあけたんだが、あのおばあさんが来たのに事情をしらなくて追い返したんだよ。するとすぐに客の入りが悪くなった」
と店主は言った。

私は勘定を済ませ店主に礼をいい店を後にした。
奥さんが店を開けたときは料理などの質が落ちて客の入りが落ちただけかもしれない。
みんなもしかするとあのおばあさんに騙されているのかもしれない。

でも・・・。

さっきの嫌な気分を思い出した。あの嫌な気分は上司に怒られた時の気分になんだか似ている。
いつも仲間と飲んで騒いで話しているといつも気分がすっきりする。
体の中から何かが出たように。
毒なのか・・・。そうするとあのおばあさんは回収した毒をどうするんだろう。

フ・・・ばかな・・・きっと店主は験担ぎのためにあのおばあさんの出入りを許しているのだ。
ちょっと飲みなおしたい気がしてふと目に入った店の扉を開けた。

開けたとたんなんだか嫌な感じがして目の前にいろんな大きさの黒い玉がいっぱい転がっているように見えた。
もう一度目を凝らしてみるとそんな黒い玉は転がってなかった。
ただ、私はその店の扉を閉めてしまった。

黒い玉は人の落とした毒なんだ・・・きっと。
そう思いながら今度は家路を急いだ。


画像



昨日、書いてて思いついた話。
回収した毒はどうなるのか?

フフ・・・きっとおばあさんが何か得体のしれない魔物を飼っていてそれに食べさせるために回収しているのかも。
そんな考えが浮かんだ。
魔物って何かな・・・人の形をしているのかも。
怖いね・・・ホラーだね。いやファンタジーなのか。
おばあさんはその魔物を使って世界征服を考えているんだ。
そして、その魔物と戦うべくして、このさえないサラリーマンが立ち上がるんだ。

・・・

どんどん変な方向に空想が広がっていっていくので今日のところはここまでで。

                     本誌ぺんきっきより

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幸せの基準

2008年01月15日 | ショート・ショート
二人の才能ある若者がいた。二人は画家を目指していた。
絵の才能は一人の方がほんの少し突出していたように思えた。この若者をTとしよう。そしてもう1人の若者はI。
二人は何事に置いてもその才能を比べられ競い合った。ただ、Tの方がほんの少しいつもすぐれていたためIの評価はいつも低かった。
やがてIの父親が倒れIは家業を継がなければならなかった。その頃結婚もし家庭を持ったので安定した生活が必要になり、画家への道をあきらめた。
Tと言えば、順調にその才能を伸ばし世間で注目をあびる画家になった。そして彼も結婚をし家庭を持った。
ただ、Tのいつも上を目指し波打つ感情に妻はついていけなくなりやがて二人は別れてしまった。
一方、Iはあまり変化はないが穏やかな生活を手に入れていた。子供も二人生まれ家庭も円満。
二人の友情は続いていてTは作品に行き詰るとIの家庭をよく訪ねた。
二人で酒を酌み交わし、Tの画家としての苦悩の話をIはいつも聞いていた。画家を目指したことのあるIはTのいつもよい理解者だった。

月日は流れTもIも年をとった。Tは有名な画家としての地位を手に入れていたがその生活は孤独なものだった。Iは会社を定年になり子供も独立し妻と二人でゆっくりと過ごしていた。
ある日、Tに一枚の封筒が届いた。Iが個展を開くと言う。
ただその住所はIの自宅だった。
Tが訪ねていくとIが照れながら言った。
「実は画家となるのはあきらめたんだけどね。どうしても絵は捨てられなかったんだよ。だからずっと描きためていたものを君にだけ見てもらいたくてね」と。
TはIの絵を見た。確かにIの若かった時の絵はTの絵に比べて劣っているように見えた。ただ、年を重ねるにつれ何かの要素が加わって穏やかで暖かく心打つものに変わっていた。
「君は何故これらを発表しなかったんだい?」Tは驚いて言った。
「家庭や子供達の事で精一杯だったからね。それに君に見せるのがとても恥ずかしかったんだ」Iは照れながら笑った。
是非、どこかで発表するべきだ。とTはIに言い残しIの家を後にした。
玄関で妻と寄りそうIを見て、孤独な家への帰路につくTはふと思った。

どちらが幸せなんだろう・・・と。

そして頭を振った。若い頃二人が目指していたのは自分のような画家だった。だからそれを手に入れた自分は幸せなんだと。

Tを見送ったあとIは考えた。
Tのような画家になりたかった。彼の背中にはいつも自信と苦悩があった。いつも彼の自慢のような苦悩する話を聞くのは辛かった。
でも・・・あのように孤独な背中を見せるTに比べて・・・。

妻が家の中から呼んだ。彼は暖かい家の中に入った。明日は子供達と孫が来る。おじいちゃんの絵を見せてやろう。有名なTにもほめられたぞと。



さてさて・・・どちらが幸せなのか・・・それはあなたの考え方しだい。
どちらも手に入れるのが幸せなんだろうけど。

*********************************
帰ってきたんだけど、どうして夜はこんなに何もしたくなくなるんだろうね~。
でも書き足りなかったことがあるので頑張って補足。
二人は状況が違っても同じ道を歩むだろうと思いながら書いた。
自分も多分そうだと思うから。私は多分Iなのだと思う。働くしかなかったし、自分の才能にも限界がある事を知っていた。
だけど、専門学校を出てから働き始めた会社での数年間は後悔をしていない。くさいい言い方だけど青春の思い出だ。
よかったのか悪かったのかわからないけどそこで大魔王に出会った。
一生懸命働き、一生懸命遊んだ数年間・・・大切な思い出。
今はこうやって頭の隅に思いついたことをここで書き、たまーーに絵を描く。
それで結構満足しているし幸せである。
王子もいる・・・これが一番大事。

ただ、これからの人生を考えるともう少し頑張ってもいいんじゃないと思う事もある。子育てが結構一段落したからかもしれないけど。
だからこのI氏のように今からの人生を自分のために使っていこうかと思っている。
I氏も多分、後悔はいてない。会社の中で苦労もしただろうが、いろんな思い出も一杯あるだろうし、友人も出来ただろう。
それが会社である。

一方、T氏もI氏の事をうらやましくも思う反面、決してI氏のような人生では物足りなかったと思う。
自分の才能をもてあまし会社勤めをしても結局辞めて同じ道をたどったのではないだろうか。
その場所で上に登りつめる事がT氏にとっての幸せなんだろうから。
孤独も彼の作品の一部なのかもしれない。

あの時こうしていれば・・・と良く思うかもしれないけど結局それを決めていっているのは自分自身。
だから、「あの時こうしていた」になっていても結局同じ結果に自分で歩いていっていまっているのではないだろうか・・・。
だから、「あの時」ではなく「今から」をどうするかが重要なのである。

・・・眠いし・・・。
まだ二人が帰ってきてないから眠れないし用事も残っている。
頑張ろう・・・。
とりあえずまたま今日はここまでと言う事で。
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密室

2008年01月15日 | ショート・ショート
ある富豪の家で殺人事件が起こった。
被害者はその家のあるじ。
しかもその殺人現場はの部屋は完全な密室。
富豪が所有する大きなダイヤモンドが盗まれていた。
たくさんの名探偵がその謎に挑戦した。
でも、誰も謎も解けず犯人もわからずじまい。
私はその富豪の友人で彼と同じぐらいの金持ちである。
そして彼と同じぐらいのダイヤモンドを持っている。
次は私の番ではないかと毎晩眠れない夜を過ごしていた。
部屋に誰もいないのを確認し、戸締りを厳重にしてダイヤが入った金庫と一緒に眠る。
そうしないと気持ちが落ち着かない。
どこかに預ければいいのだがそうすると持っている事の価値がない。

今晩も厳重に部屋の鍵をかけ、外からも入れないよう戸締りをした。
そして私が眠りにつこうしたその時・・・頭の中に声がした。

【あった!これで故郷に帰れる】

私は驚き慌てて起き上がると、何もない空間から3本の指が伸び金庫をこじ開け私のダイヤモンドをとろうとしている!

慌てて取り返そうとした時また頭の中から声がした。

【私は○×※星人、この空間で宇宙船の燃料が切れてしまった。君達がダイヤモンドと呼んでいるこの鉱物が宇宙船の燃料なのだ。もらっていく】

「そんな事をさせるか!」私は叫んだ。

【彼のようになりたいのか?】

頭の中で大きな声がした。
私は慌てて手を引っ込めた。

【賢明だ】

そうまた頭の中で声が響き、それと同時に3本の指と私のダイヤが空中に消えた。

私1人しかいない締め切った部屋で私のダイヤが盗まれた。
これを誰に言えると言うのだろう。
そして友人を殺害した犯人も私はわかったのだが、これも誰にも言えない。
言って誰が信じてくれるのだろうか。

そして・・・事件は未解決のまま闇の中へ。


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密室をあつかった本を読んだ。
何点かは非常に面白い展開だった。密室と言う言葉を遊んでいるものもあったので、ついつい私もこんな話を思いついてしまった。
そもそも実際に密室で起こる殺人事件なんてあるんだろうか。
宇宙人やドラエモンがいたら可能かもしれないけど。

王子が冬休みのしおりにこんなラクガキをしていた。
元はねずみの絵だったのか?
宇宙人こんな感じかもしれない(笑)
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                      本誌ぺんきっきより

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洗い流して・・・

2008年01月15日 | ショート・ショート
皆、地球の事を考えた。
このままでは地球はほろびてしまうと。
最初に唱えたのはどこかの一主婦だったのだろうか。

「昔から学ぼう!」と。

どんどん運動が広まった。
コンビニ弁当が売れなくなり、車が減った。一時期、自転車がもてはやされたが作る工程がまた地球の温暖化を進めてしまうと「誰か」が言って皆歩くようになり、メタボリックなどと言う言葉は【流行り】だったように聞かなくなった。
人々は「今日食べるのに必要なもの」しか買わない。
この運動が広がる一方で倒産する会社も増えた。職を失う人達も増え、大問題になったがある程度の時が流れると新たな今までの大量生産とは違う産業が生まれ落ち着いて行った。

世界は次第に緑に溢れてきたように思えた。
ただ、異常気象などは相変わらず頻繁に起きた。
もう手遅れだったのか?

ある日本のどこかで少女が祖父と一緒にしめ縄を作っていた。
もうすぐ来るお正月のために。
「昔からこうやって作っていたの?」少女が祖父に問いかける。
「いいや、おじいちゃんの子供の頃はお店で買ってたんだよ」と祖父が答える。
「ふーん。もったいないね。簡単に作れるのにね」と少女。
「そうだね、もったいないね」と祖父。

ふと祖父が空を見上げると雨が降りそうな天気になっていた。慌てて少女を家の中に入れ、自分も入る。
雨が何もかもを流してしまう勢いで降る。
こうやって高い山の上に家を構えていないと、すべてが水の中に沈んでしまう。
そうかと思えば、冬は豪雪が降るときもあり家はかなり頑丈に作られていた。
ただ、その家だって地面が動いてしまえばどうなる事かわからない。
せっかく作った田や畑も駄目になるときもある。

家に入ったとたん少女が言った。
「もうすぐだよ。きれいになるのは」

祖父が振り返ると少女は何も言わなかったかのように、本を読み始めた。

なるほどきれいになるのか・・・。すべてを洗い流して。

祖父はそう呟くといろりに火をくべた。
パチパチと太古から変わらない炎が燃え始めた。
すべての始まりはこの炎から・・・。


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昨日、帰ってきたのが9時前で大魔王が見てた番組で「コンビニ弁当」が温暖化に繋がると言うのを聞いて作った話。
それと、スーパーにしめ縄を買いに行った時にふと昔の事を思いだしたので。
しめ縄、めっちゃ高い。私の子供の頃、祖父と祖母が作っていた。
もちろん私も手伝う。
もちろん、「タダ」である。私が子供の頃と言うと当たり前だが数百年昔ではない。たかが2・30年前の事だ。
もしかするとまだ、農家の人は手作りで作っているのかもしれないし。
もちろん農家なので材料があるので出来ることだけど、しめ縄にお金をかける事がなんとなく馬鹿らしい。
このスーパーの高い値段は「売れない分」を入れての値段なんだろう。
季節商品。おまけに一年に一度しか使わない。
売れ残ったものはどうなるんだろうか。

世の中は便利になった。その裏側は・・・。
今一度生活を見直して見る必要があるのではないだろうか。

                            本誌ぺんきっきより

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吐き出す

2008年01月15日 | ショート・ショート
僕の友達が住んでいる東町に行くのにはすごく迷う。
友達の家に行こうとするのにふと気がつくと何故か地区の外に出ている。
目印を覚えておくのにいつの間にか東町に入る入り口の付近に戻ってしまう。
だから約束の時間にいつも遅れるんだ。
でも、帰るときはなんだかわからないうちに東町の入り口のラーメン屋の前にたどり着く。

この事を友達に言うと
「そうかな~。僕はすごくわかりやすいところだと思うんだけど」
と言った。
でも、友達のうちを出てうちに向かうと
「スポッ!」と言う感じで地区の外に出てしまう。
そう言えばお母さんも言っていた。
「あそこを通って車で市役所に行こうとするといつも迷うのよね。だから本当は近道なんだけど通らないことにしているのよ」って。
不思議なところだな~。

・・・そしてそれから何年もたち、僕は大人になった。
大学生になり、就職をし・・・そして結婚をした。
新居はかつての僕の友人が住んでいたあの東地区で見つけた。
ある不動産屋に行った時に僕らの出した条件に驚くようにぴったりの物件があの地区にあったのだ。
実家にも近く即決めた。
住む事になってあれだけわかりにくかった道がよくわかる事に気がつく。
やはり子供だったから、道が覚えれなくて迷っていたのか。
僕の奥さんになった人も
「道もわかりやすくて住みやすいところよね」と喜んでいる。
ご近所の人も皆いい人ばかりだ。

ただ、少し気になった事もあった。
僕の前に物件を見に来た人は不動産屋さんの話によるとなかなか家にたどり着く事が出来ず、「こんなわかりにく所は嫌だ」と言って結局見ないまま帰ったらしい。
僕らが見に来た時はそんな事はなかったのに。

新居に住んでから数ヶ月、かつてこの東町に住んでいたあの僕の友人が訪ねて来てくれた。
彼は高校生の頃、お父さんの転勤で引っ越して今はここに住んでいない。
来ると言っていた時間をかなりまわってから彼がたどり着いた。

「いやー!参ったよ!ちゃんと道を覚えていると思ってたんだけどなんだか迷っちゃって!」
着いた早々彼がそう言った。
見覚えのある風景で目印もちゃんと確かめているのにふと気がつくと地区の入り口に戻ってしまうらしい。
かつての子供の頃の僕のように。

それでも楽しい会話で時間はすぎ、僕は彼を駅まで見送りに行った。
そして彼を送った帰り道、地区の入り口にあるラーメン屋の前で立ち止まった。
そうだ。いつも子供の頃彼の家に行こうとするとこのラーメン屋の前に戻ってしまっていたっけ。
ラーメン屋の向こう側にある電柱からが東町になる。

電柱を一歩またぐ。
僕はその時、どこからか声が聞こえたような気がした。

「お帰りなさい」と。

空耳に決まっているが僕の頭にふとある考えがよぎる。
町が住むものだけを受け入れているのか・・・。
そして外からの進入を拒んでいるのか・・・。

僕は首を横に振った。
まさかな・・・。

ふと下を見るとマンホールがウィンクをしたような気がした。


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この前、いつもの道を通って図書館に行こうとするとかなり迷い、そのときに思い着いた話。
本当は別冊に書こうと思ったんだけど「ほくろクラブ」が途中なのでとりあえずこっちに。

行く道は本当にぐるぐる回って迷ったんだけど、帰り道真っ暗になってどこを走っているのかがわからなくなったのに、吐き出されたような感じでスポッと私の住んでいる地区に戻ってしまった。
境目はいつもラーメン屋だ。

町も意思を持っている。
なんとなくそんな感じがした。とても静かな通りなのだ。あまり私の住んでいるところのように立ち話をしている人もみかけない。
わたしのように騒々しい酔っ払いはスポッと吐き出されてしまうのかもしれない。

ここを通ると昔読みかけてそのままになった、江戸川乱歩を思いだす。
小学生の頃、図書館で読みかけて怖くなって読むのをやめてしまったのだ。
日が落ちかけている道を歩いている小学生が消えてしまう・・・そんな行があったような。
なんていう題名だったのがわからないけど、暗くなる前に帰らないととしばらくは夕暮れの町を歩いているたびに思いだし、帰り道を急いだような気がする。

少年探偵団だったのかもしれない。
探してちゃんと最後まで読んで見たいと思っている。

                               本誌ぺんきっきより

なんとなく本誌にかいてしまって2重になるけど一応こちらにも。
ほくろクラブはちょっと休んだままだけどきっと近いうちに続きを・・・

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