歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(15)

2010-01-20 23:02:18 | トルコ関係
→(14)からの続き

本人が意図した通りの成果を上げたか否かは別にして、日本での“成功”を背景に母国での知名度を上げつつあったセルカン氏のもとに、破綻は突然のように訪れました。

2009年の秋頃から2chを中心にネット上で盛り上がったセルカン氏の経歴・詐称追及運動が日本の大手メディアを動かし、11月の中旬までには朝日、日経を始めとする主要紙がセルカン氏の“偽宇宙飛行士”疑惑を報道。

そして、11月20日にはついにトルコの方でも、全国紙“スタル新聞”がこの動きを報じるに至ったのです。

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「NASAの狡智」   スタル紙     2009年11月20日
原題:NASA kurnazı
http://www.stargazete.com/guncel/nasa-kurnazi-haber-226650.htm

※ あちらでは、例えば、バザールでまがい物を売りつけて法外な金額をぼったくるとか、目先の利益のためならいかなる違法行為もインチキも辞さないような悪知恵のことをよく“Şark kurnazı”(東方の狡智)と言うが、それをもじったものだと思われる。日本語だと“NASA騙り”とか“NASA詐欺”とでも意訳した方が自然かも。

NASA職員にしてトルコ人初の宇宙飛行士を自称。その肩書きの信憑性を高めるため運輸省の名で公文書までも偽造していたセルカン=アヌルルが、日本に混乱をもたらしている。 この偽宇宙飛行士の所業については、NASAの保安部門も調査を開始した。

トルコで初の民間宇宙飛行士を自称するセルカン=アヌルルが、日本の世間を騒がせている。東京大学で教職に就くアヌルルは、日本の新聞各紙の取材に対し、一時期、自らが米国航空宇宙局(NASA)で58人のチームを統括する職にあったこと、現在ではトルコで初めての正式な民間宇宙飛行士候補であること、などを語っていた。

しかしながら、記事の内容が事実に反するとの投書が極めて大量に寄せられたことで、新聞各紙はNASAに対しアヌルルが実際に訓練を受けたか否かを照会。NASAから否定的な回答が得られると、これを在東京トルコ大使館に報告した。それについて調査を行った大使館は、セルカン=アヌルルがトルコ運輸省の名で自らを“トルコ初の民間宇宙飛行士”とする偽造文書を作成していたことを確認。日本の新聞各紙が謝罪記事を掲載する一方で、NASAの保安部門は本件の調査を開始したのだった。

日本宇宙開発機構(←日本宇宙航空開発機構=JAXAのことらしい)もまた、アヌルルのものではないと確認できた論文4本を年報のリストから削除したのである。


合成写真までも使っていた


投書があった後、その件について調査することを決めた新聞各紙が最初にコンタクトを取ったのは、TÜBİTAK (トルコ科学技術研究協会)だった。

TÜBİTAKから“そんな人物は知らないし、当協会とは何の関係も無い”との返答を得た各紙は、今度はNASAに照会。そのNASAの当局も、セルカン=アヌルルの名で訓練を受けた人物の記録は存在しないとして、“このような人物はまったく知らないし、当方で職務についていた事実も無い”と回答したのだった。NASA当局はさらに、その知らせによってNASA内の治安部門がアヌルルに関する捜査を開始したことを告げ、同時にアヌルルが自らのHPに載せていた宇宙飛行士姿の写真もまた、合成によるものだと説明したのである。

新聞各紙から状況の報告を受けた東京大学も、セルカン=アヌルルに対しそれら全てのことに対する釈明を要求。アヌルルは自らが“トルコ初の民間宇宙飛行士候補”であることについて、これを証明する文書を持参できるとして、その一週間後、大学に運輸省民間航空局局長アリ=アルドゥルの署名入り文書を提出したのだった。


アルドゥルの署名すら偽造


この件について調査した在東京トルコ大使館は、上述の文書が偽造であることを確認。運輸省に事情を報告した。日本の新聞各紙は謝罪記事を掲載し、そこではアヌルルが自著であると称していた学術論文の多くが実は他の研究者のものであったり、また出版されたと語っていた論文のいくつかは出版などされていないことが明らかにされたのだ。


本紙に対しても自ら“日本のNASAたるJAXAの職員だ”と語っていた。


セルカン=アヌルルは日本人のみならず、トルコ人をもまた騙していた。アヌルルは、多くの出版メディアに対してそうしたように、2006年には本紙スタル新聞の取材にも応じているが、そこでも話を自ら作り上げたシナリオに置き換えていたのだ。アヌルルは、本紙に対し自らをNASAの日本版たるJAXAで働く唯一の外国人だと語り、日本のTV局NHKに耐震住宅や宇宙エレベーターについての知識を提供。それを基に製作された子供番組が日本のTVの高視聴率記録を塗り変えた、などと説明していたのである

※この記事のことだろう。


350万円の助成金を得ていた模様


 日本の新聞各紙は、教育省(←文部科学省のことか?)が科学研究助成の名目でアヌルルに対し2006~2007年の間に350万円を支払っていたこと、この時期に出版された4冊の学会誌で発表された論文が、いずれも盗作ではないかと疑われていることを指摘。他方、日本に暮らす他のトルコ人研究者や留学生たちが困難な立場に置かれていること、また、日本人が今や自国人の挙げた研究成果に対してまでも懐疑的に接していることなどを報じている。

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記事の内容は、朝日と日経の記事をそのまま足したような感じですね。ただ、全体的に見ると、主要紙でこの件を記事にしたのは“スタル新聞”のみで、これまでセルカン氏を持ち上げてきたヒュリエット紙やザマン紙などは、今に至るまで黙殺状態だったりします。

そのスタル紙の記事は、一応色んな掲示板に貼り付けられてはいるものの、“スタル新聞”のそれも含めてコメントはほとんどついていませんね

結局のところ、トルコ社会でのセルカン氏の知名度はその程度のものだったということでしょう。

とはいえ、例外的にコメントが沢山ついている掲示板もないわけではありません。 その中でも最も活発だったwww.mcpsp.comの掲示板は携帯型ゲーム機PSPのファンサイトで、書き込んでいる住民の年齢層は推定で10台後半~20台とかなり若いことから、“アニメ・漫画・トルコ”などを見てアニメ経由でセルカン氏を知った人々が多いのではないかと思われます。

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「トルコの知識人を自称していたセルカン=アヌルルは“ホラ吹き”だった」
原題:Kendini Türk Bilim Adamı Olarak Tanıtan Serkan Anılır 'Sahtekar' Çıktı!
http://www.mcpsp.com/teknoloji-bulteni/19857-kendini-turk-bilim-adami-olarak-tanitan-serkan-anilir-sahtekar-cikti.html

俺もセルカン=アヌルルのとあるセミナーに参加したことがあるんだ。その内容を、友達にまで説明したもんだよ….。セルカンという人物はドイツでは省エネの分野で第一人者だったとか、光エネルギーを実際に電気エネルギーに変えた最初の科学者たとか、日本で凄く大きな仕事をした、みたいなことをな。でも、実際は単なるホラ吹きだったようで….(怒)。俺は本当に怒っている。いったいこいつはどれだけ多くの人間を騙したり、あっち(日本)にいるトルコ人の首を絞めたりしてるんだ…..。

論評ハルク1号
病気だな、多分…..。


論評ハルク2号
この国が(ハサン=メザルジュのように)“俺はイエスだ!メシア(救世主)なんだ!”とか自称する人間を輩出していることを思えばだな、そういう奴らが出てきても何らおかしくはない。俺はその論文とかいうのに興味があるな。一体どんなことが書いてあるのか….。

※ ハサン=メザルジュ(Hasan Mezarcı 1954~):トルコの急進的なイスラーム主義者にして政治家。かつて福祉党(当時)から出馬して、国会議員を務めたこともあり。近年はドイツに移住して自らイーサー(イスラームにおける預言者の一人。キリスト教のイエスに相当)を名乗るなど、その奇矯な言動が何かと話題になっている。


論評ハルク3号
こいつのサイトがこれ (←セルカン氏のサイトらしきリンクが貼ってあったが、開けなかった) だ…。

こいつが書いた本もあってな…俺の友達もその本読んでたんだけど、このニュースを知って、すごいショックを受けてたよ。そいつとはMSNのアドレスやfacebookで繋がってるんで、教えてやったんだけどな。

一体いくつの学校で講演をやったんだ?少なくとも5~6万の人々がこいつのことを信じてるなんて、本当に冗談みたいだ…。俺たちの学校の校長ですら、すげえ誉めてたんだけどな。でも見たことか、こいつはキチガイだったわけで….。


論評ハルク4号
大好きなアニメにしても、その文化や歴史にしても、俺は日本人をリスペクトしている。その彼らが、こんなホラ吹きのお陰で今後はトルコ人のことを色眼鏡で見るようになるとしたら、本当に悲しいことだな。本気で心配してるよ。こんなレベルの低い人間のお陰で、凄く恥ずかしい気分だ。


論評ハルク5号
こういう志の低い奴らのおかげで、世界でのトルコの評判はひどく悪くなってるってわけだ。


論評ハルク6号
一体どういう人間性なんだよ。こいつ自身は金儲けができていいんだろうけど、こんな詐欺師のお陰で7000万(トルコの全人口)の信用に傷がつくっていうのは….。
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 もう一つはポータルサイト“donanimhaber”の掲示板。これも、書込んでいる人の年齢層はかなり低そうですね。

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「NASAの狡智」
原題:NASA kurnazı
 http://forum.donanimhaber.com/m_35901183/tm.htm


論評ハルク1号

ジャッカルじゃねえかw

 ※“嘘つき”とか“ずるっこい奴”を意味する隠語


論評ハルク2号
トルコの叡智だ。


論評ハルク3号
日本へ行こうと思ってたんだけどな。もうこのロクデナシのせいで、日本人たちにどう顔向けしていいか分からんよ


論評ハルク4号
くだらないインチキに費やす時間を実際の勉強に割いていれば、色んなことが実現できてたかもしれないのにな。嘘つくにも限度を知らなかったんだろw。


論評ハルク5号
 www


 論評ハルク6号





今(フォトショップの使い方を)勉強してるんだけど、耳の部分の加工が面倒だったんでこうなった。もっと進化させて、完璧な“セダト・アービー”にしたいもんだ、インシャッラー。

※“セダトの兄貴”の意。詳しい元ネタはよく分からないが、最近、トルコのネット上では有名人の写真にこの“セダトの兄貴”の顔をコラージュするのが流行っているらしい。

その一例↓
http://www.asil-turk.org/komik-fotograflar/15542-sedat-abinin-yasam-oykusu-270-resim.html
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最後に、ニュースサイト“haber.mynet.com”から。先に挙げた2つに比べると、ここの書込み年齢層は比較的高そうな感じがします。

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「NASAの狡智」
原題:NASA kurnazı
http://haber.mynet.com/detay/yasam/nasa-kurnazi/480972

論評ハルク1号
おお、なんと抜け目のない。まさにトルコの叡智だ。賞賛に値するな。


論評ハルク2号
後々、“トルコ人はこうだ、トルコ人はああだ”とか言われたときに、“いやいや違うよ、兄ちゃん!ちょっといいかい?と言い返したい奴にはちょうど良いネタができたってわけだ。そういう奴らに、アーフィエト・オルスン!

※食事の際によく使われる決まり文句。“召し上がれ”の意。


論評ハルク3号
お前らな…..この手のインチキに何で支援コメントなんて書いてんだよ?こいつの嘘っぱちと詐欺で俺たちも、日本人たちも、お偉いさんたちも騙されたのに、どうして“よくやった!”なんて言えるんだ?

1、2年前、CNNのタハ=アクヨルの番組にこの男が出てきて、延々と喋りまくってたのを覚えてるよ。その時は俺も“おお、すげえ!”って思ったもんだ….何て賢い人間がいるんだろう。大したもんだ!てな。

※トルコの著名なジャーナリスト。

でも、それから2年くらい音沙汰がないと思ったら、まさか妙な風に人を騙して、日本人たちから寄付金を巻き上げていたとは。ヤクザ(原文ママ)でもやらないぞ、そんなことは。まったく…..。

お前らな、こういうのを叡智だとか知性だとかいったら駄目だ。完全な泥棒だろうが…..。

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こうやって見たところ、セルカン氏の悪行を賢さの現われだとして賞賛するような不謹慎な書込みもあるにはあるものの、大半の、特に若い層の反応はかなり常識的ですね。 奇しくもセルカン氏がトルコの将来のため、啓蒙すべしと主張していた世代です。

その彼らも、恐らく今回の事件を通じて“安易にエコやら科学やらを騙る詐欺師には気をつけるべし”と情報リテラシー能力を向上させることでしょう。また、際限なく嘘に嘘を重ねることで破滅したセルカン氏を反面教師とすることで、“複数の嘘をつく場合はその整合性に気をつけるが吉”といった処世術も身に付くかもしれない。

その意味では、セルカン氏も結果としては彼らの教育に立派に貢献できているわけです。

まさに、男子の本懐ではありませんか。


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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2010-01-21 16:16:45
概ねまともなようで安心しましたw
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Unknown (裸族のひと)
2010-01-21 23:42:08
長編翻訳&記事アップお疲れさまでした~
しかし(8)から延々と続くアルカン氏とのやりとりを読んで最初はムカついていたのだが、さすがにあまりのアレさ加減に途中で挫折しそうになったわ。

こんな感じ

(8)を読んで・・・
ポポポポポ( ゜д゜)゜д゜)゜д゜)゜д゜)゜д゜)ポカーン…

(9)を読んで・・・
(-。-)y-゜゜゜フゥ~

(10)を読んで・・・
(一。一;)y=゜゜゜ハァ~

(11)を読んで・・・
( ゜д゜)、ペッ 

(12)を読んで・・・
( # ゜Д゜)ムカムカ

(13)を読んで・・・
(#゜Д゜) ゴルァー! !

(14)を読んで・・・
(;´A`) ダミダコリャ

(15)を読んで・・・
フゥ…ε=( ̄。 ̄;A

と、こんな感じでしたww ホラ吹きというより、もう既知外(既知の外に逝っちゃてるひと)の領域だね。最後に大半のハルク達の反応が以外とマトモだったようで、ちょっと安心カナw

でも、ア塗るる氏はこれでは終わらないような気がするんだが。こういう奴って絶対同じ事をくりかえしそうだからねぇ。そう、こんな風に・・・




      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
    /            \
   /               ヽ
    l:::::::::             |
    |::::::::::   (●)    (●) |
   |:::::::::::::::::   \___/    |  まだだ、まだ終わらんよ
    ヽ:::::::::::::::::::.  \/     ノ




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Unknown (Unknown)
2010-01-22 02:35:09
しかしトルコにも「私はイエスだ」と名乗る人がいるんだ・・・
「唯一神」ならぬ「預言者」なのかもしれないけど。
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Unknown ( )
2010-01-23 15:28:54
日本人は舶来コンプレックスありすぎ
これが中国人・韓国人だったらガードが堅いのに、相手がアジアンじゃないと途端にガードが下がる
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Unknown (Unknown)
2010-01-23 22:16:38
しかしまぁ自国の人間が他国でこういう事やらかしてきたってのはまっとうな人たちには悲劇だな
海外進出してる日本人の中にもこういう馬鹿をやらかす人がいやしないかと心配だ
心配してもどうしようもないことだけどさ
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Unknown (Unknown)
2010-01-25 19:24:32
正直最初から興味ないわけで、トルコ人への偏見なんか毛頭生まれないんだが…

って言うか、この人のことこのブログで初めて知ったわ。
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Unknown (中国人准教授が論文盗用=計4本、全文借用も)
2010-01-26 07:27:22
>>> 中国人・韓国人だったらガードが堅いのに、相手がアジアンじゃないと途端にガードが下がる

中国人・韓国人 が相手でも日本人は大甘だと思うよ。


中国人准教授が論文盗用=計4本、全文借用も−北海道大

 北海道大学は24日、同大大学院メディア・コミュニケーション研究院のxxxxx准教授(46)=中国籍=が論文を盗用していたと発表した。同大は来月20日、教育研究評議会を開き、xxx准教授の処分を決める。

 同大によると、xxx准教授は2005年12月に大学院の論文集で発表した旧満州国の教育に関する論文(17ページ)で、中国人研究者の論文をそのまま盗用。全体の半分以上が盗用部分で占められていた。

 今年7月に匿名の指摘メールが寄せられたことから、大学側が調査を開始。xxx准教授はこのほかにも中国の教育に関する論文など3本で盗用していたと結論付けた。 
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セルカンの出自について (真実の目)
2010-01-26 20:00:34
セルカンがセバタイだという説が2ちゃんねるに出てますが調べられますか?
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セルカン擁護派 (Unknown)
2010-01-27 01:46:21
http://dranilir.research-integrity.net/2009/10/glorious-career-now-under-serious.html

のコメントを読むと、「我々にはセルカンのようなヒーローが必要なんだ!余計なことしないでくれ!!」というトルコの人らしき書き込みがあったりw まあ御本人て可能性もありますがw
返信する
セルカン擁護派 (Unknown)
2010-01-27 01:46:29
http://dranilir.research-integrity.net/2009/10/glorious-career-now-under-serious.html

のコメントを読むと、「我々にはセルカンのようなヒーローが必要なんだ!余計なことしないでくれ!!」というトルコの人らしき書き込みがあったりw まあ御本人て可能性もありますがw
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