→(10)からのつづき
気付いてみたら、このシリーズもアタテュルクが生前に行った革命総括演説(述べ6日間、演説自体は36時間)よりもはるかに長くなっていました。まずいですね。ロシア語ネタがいくつか後につかえているというのもありますし、そろそろまとめに入りましょう。
Q.“銅像事件”によって、トルコ国民の対日感情は悪化したのか?
A.無いでしょうw。あちらのメディアでは、年がら年中国内のどこかで起きている“アタテュルク像絡みの事件の一つ”として報道されたに過ぎないし、それも〝日本人はかくもアタテュルクを尊崇しているのだ〝みたいな美談調です。悪化のしようがない。むしろ、“美談効果”で人によっては好感度が上がったかもしれないほどで。
冷静に考えれば、今回の事件は不況や地震といった不可抗力に柏崎市の不手際が重なって起きたものです。誰かが意図的に像に危害を加えたわけではない。市の側も公的に落ち度を認め、一応は再建を約しているわけですよ。
今後、問題がすぐに解決するにせよ長引くにせよ、トルコ側メディアの“日本人=アタテュルク大好き”という報道姿勢wに変わりは無いと思われます。
まあ、2007年の「ワタン」紙の報道以来、この件について触れた新聞記事やニュースはネット上には見当たらないので、あくまで今後“取り上げられることがあれば”の話ですけどね。
基本的に、普通のトルコ人が関心を持つ外国は西欧や米国が主であって、日本には我々自身が思っているほど注意は向いてません。逆もまた然り。日本のメディアだって、普段はトルコについてそんなに報道しないわけで。
というわけで、“日本国民の一人としてトルコに謝罪したい”とか“壊れた日土両国民の関係を修復したい”とか言っている人たちは、“見えない誰かに謝っている”可能性が高そうですw。そんな心配はいらないので、どうぞ御安心を。
それでもなお“相手がどう思っていようが関係ない!俺は何が何でもトルコ人に謝って、功徳を積みたいんだ!”というのであれば、もはや単純に“趣味”の問題ですね。“我々日本人は超時空太閤ヒデヨシによる侵略戦争の罪を、未来永劫償っていくべきだ”と主張する人たちと同ら変わりはありません。
外野が口を挟む余地はない。どうぞ気が済むまで懺悔し、ネット上でトルコ人に遭遇することがあれば、率先してどしどし謝罪してください。相手もとりあえず、“何だかよく分からないけど、この人はそんなにアタテュルクが好きなんだなあ”くらいには思ってくれるかもしれない。
もちろん、それと、他所の国が好意でくれたものを粗末に扱って良いか否かは別問題です。その相手がどんな国であれ、悪いに決まっているw。これは、トルコとの関係云々の話ではなく、我々自身のモラルの問題なのです。
Q.BBCの世論調査でトルコの反日度が上昇しているが?
A. この調査は、正確にはどの国が好きか嫌いかといった話ではなく、ある国が世界に及ぼす影響の良し悪しについて、色んな国の人々の反応を調べたものです。その中で、かつてはトルコ人の多くが“日本は世界に良い影響を与えている”と答えていたのが、ここ数年間は否定的な反応が増え続け、遂には“悪い”が“良い”を逆転してしまった。
これこそはまさにトルコの反日感情が高まっている証であり、原因は例の“銅像事件”にあるのだ!と発想を飛躍wさせてる人がいるようなのですが、安心してください。単なる錯覚ですw。
トルコは別に反日化してないし、“銅像事件”なんてほとんどの国民は知らないでしょう。もし仮に知ったとしても、世論を動かすほどのインパクトはないw。
調査の結果をよく読めば分かりますが、トルコ人の反応は、実は日本だけではなく他の先進国に関しても傾向は同じです。どんどん否定的になっている。特に米国やフランスなどへの評価は、日本よりもはるかにひどい。その背景には、ここ最近のトルコと欧米諸国の間の軋轢があるように思えます。
トルコはこれまでEU加盟の条件を満たすため、一生懸命に経済を発展させ、また政治の民主化に努めてきました。その成果は、最近では如実に現れています。でも、EU側、特にフランスは何だかんだと細かないちゃもんをつけるばかりで、一向に入れてくれる気配がない。旧社会主義国で、大して豊かでも民主的でもないブルガリアやルーマニアの加盟がけっこう簡単に認められたにも拘わらず、です。
そればかりか、フランスは自国がかつてオスマン帝国内の民族紛争を煽った当事者の一方であったことを棚に上げ、議会で“オスマン時代末期のアルメニア人大虐殺”への非難を決議したり、クルド人問題についてもあれこれ口を出してくる。また、デンマークに端を発した“ムハンマド風刺画問題”が欧州全体に飛び火した際も、ドイツ等のメディアは国内のムスリム系住民に配慮してその絵の転載を手控えたのに対し、フランスのそれは政教分離の護持を訴え、敢えて載せる所が多かった。何かとトルコ人の神経を逆なでするような事件ばかり、起こしているわけですよ。
一方で、米国の方はイラクを侵略した際に北部のクルド人勢力を武装させて味方につけ、事実上、独立を認めたような形になっています。お陰で彼の地に逃げ込んでいたトルコのクルド人独立派に米国製の武器弾薬が大量に流入。パワーアップした独立派ゲリラが盛んに越境攻撃を行うようになり、トルコ軍を苦戦させるという妙な事態になってしまいました。
↓クルド人地帯 出典:wiki
トルコ軍としては、イラクのクルド人地帯を完全制圧して独立派を殲滅したい所でしょうが、米国は当然ながら許してくれない。 その米国はもまた、パレスチナでのイスラエルによるムスリム住民の抑圧を支持したり、また議会はアルメニア人ロビーの圧力で“アルメニア人虐殺非難決議”を通してしまったり、とこれまたトルコ人の反感を煽るようなことばかりやっている。
良く言えば高い自尊心と強力な愛国心の持ち主、悪く言えば自分とその延長たるトルコ共和国が何よりも大好きな普通のトルコ人にとってみれば、色々と耐え難い状況なわけです。しかしながら、経済発展を持続させEUに入るためにはこれらの国との関係を悪化させるわけにはいかない。そうした欲求不満が、調査の結果に反映したのではないでしょうか?
つまり、ナショナリズムが昂揚する一方で、先進国グループに対する不信感は強まっているということです。
彼らにとっては、日本もまたそうした“先進国グループ”の一国であり、ことに政治的には米国に完全に追随しているため、何かと米国と一対で語られがちです。件の調査結果も、米国や他の欧米諸国のイメージ低下の巻き沿いを受けた、と考えるのが妥当ではないですかね。
Q.だったら、どうやれば本格的にトルコの反日感情を高めることができるのか?
A.今回の“銅像事件”を国際問題に発展させようと煽っている人たちwは、トルコにおけるアタテュルクの存在を、日本の天皇とのアナロジーで捉えている節がありますね。
確かに、現在のトルコにおいてアタテュルクは民族主義と世俗主義の象徴として神格化され、そのイコンへの崇拝は義務教育によって国民に刷り込まれています。その辺りは、近代日本において天皇が果たした役割と似ているかもしれない。
でも、その内訳は全然違います。尊皇思想や血統、儒学に国学、それに神道といった前近代のリソースを効果的に利用できた天皇制とは違って、アタテュルク崇拝はトルコの実際の伝統や宗教とほとんど結びついていません。故に、実際に大衆を動員できる力は彼らが思っているほど強くはない。
本気であちらの大衆を巻き込みたいなら、やはりアタテュルクよりもイスラーム的な規範を標的にすべきでしょう。
例えばですね、日本の複数の大新聞が漫☆画太郎タッチでアッラーや預言者ムハンマドを詳細に具象化※したイスラーム風刺の四コマ漫画“ムハンマドくん”を毎日連載するとか。
これに対して、国内外のイスラーム団体は当然抗議するでしょうが、新聞社側は“政教分離”と“報道の自由”を盾にこれを突っぱねる。他のメディアも同調し、某誌で連載中の”聖☆おにいさん”でもイエスとブッダに次ぐ第三の共同生活者としてムハンマドが登場。2chでは“祭り”が発生し、ネット上には“ムハンマドくん”の二次作品が次々と出現するw。
※イスラームにおいて偶像崇拝は禁止。特に唯一神アッラーの具現化は最大級のタブー。
それが海外メディアで派手に報道されれば….地に足のついたリアルな反日感情が、まさに“燎原の火の如く”トルコ国内(というか、イスラーム世界全域)に広がっていくでしょうね。反日デモも、面白いくらいに各地で頻発すると思われます。我々がいかにアタテュルク像を虐待しようが、これと同じ反応はまず起こせませんw。
逆に言えば、“日本人はこんなにアタテュルクの銅像を大事にしている”といった話題よりも、“日本ではイスラーム化が急速に進みつつあり、毎日数百人単位で改宗が進んでいる!”みたいなニュースの方が、トルコ国民の全体的な“親日度”を上げるのには役立つのかもしれないw。
youtubeではこんな↓動画が投稿されてました。
「クルアーン(コーラン)を朗誦する日本の子供たち」
http://www.youtube.com/watch?v=l6ooVxCzstk&feature=PlayList&p=333492C576D9BBD1&playnext=1&playnext_from=PL&index=4
途中で出てくる都市の俯瞰映像が、どう見てもクアラルンプールにしか見えないのですが、多分気のせいなんでしょうw。コメント欄には、“正しき道に目覚めた日本人”を賞賛するトルコ語の熱いコメントがいくつも付いていますw。
印象に残ったものをいくつか訳してみましょう。
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<ハルク※のコメント>
※ハルク=トルコ語で人民の意
論評ハルク1号
素晴らしい。アッラーの恩寵のあらんことを。
論評ハルク2号
ウイグル人かもしれないけど、分からん。多分、日本人だろう。
論評ハルク3号
何と可愛らしいwww 全ての日本人にアッラーの御加護のあらんことを。
論評ハルク4号
この子らはマレー人。日本人とは関係ない。日本人の目は細いけど、彼らの目は大分違う。
論評ハルク5号
みんな、このビデオは偽者だ。どうして画面に“日本”と書き、彼らを日本人に見せかけようとしているのか理解できない。確かに、日本にもムスリムはいる。でも、この子らはマレーシア人なんだ。ABIM(マレーシア・イスラーム青年運動。マレーシアで最も組織化されたイスラーム復興主義の団体らしい)のメンバーだよ。UP主は何が目的なのかわからないけど、こういう嘘をつくのはムスリムには相応しくないぞ。
論評ハルク6号
日本にしろマレーシアにしろ、朗誦者の人種がそんなに大事なことか?要するに、みんなこの子くらいの年齢で、これほど見事な朗誦ができたかって話なんだよ。アッラーよ我らに機会をお与えください。
論評ハルク7号
日本人じゃないだろ
論評ハルク8号
その通りだ。日本人じゃない。でも、案ずることはない。将来、いつかは全ての日本人がイスラームを受容する日も来るだろうから。
論評ハルク9号
顎鬚の生え方が人によって違うように、目の細い人間にも色々いるんだよ。俺たちクルグズ人(中央アジアに住むテュルク系民族。人種的には概してモンゴロイドに属する)のことを知らないトルコの兄弟たちも、俺らを見て日本人だとか中国人だとか言うんだけどさ。この子らは、インドネシアかマレーシアあたりのムスリムの兄弟たちだな。
※この人はトルコに滞在経験を持つクルグズ人らしい。
論評ハルク10号
アッサラーム・アレイクム(イスラーム圏共通の挨拶。“貴方の上に平安あれ”の意)、兄弟たちよ。あんたのいうことは正しいかもしれない。でも信じてくれ、兄弟。米国や日本では日を追うごとにムスリムの数は増えているんだ。アッラーフ・アクバル!(アッラーは偉大なり)
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そんなわけで、是が非でもトルコの“親日度”を上げたいと言う人は、“先ず隗より始めよ”ということで、イスラームに改宗されてはいかがでしょう?
でもって、欧米で第二の“ムハンマド戯画事件”みたいなのが起こった際、“政教分離に対する疑義”を唱えてその何とか国の糾弾運動を行うのです。それがトルコで報道されれば、日本はやはり我らの味方だった!ということで、あちらの大衆の好感度が上がること間違いなしです。
ただ、そんなことをしてしまったが最後、もし将来、何かの拍子でイスラーム復興論者の矛先が日本文化に向けられ、例えば“萌えは神の道に反する!日本の萌えマンガ・アニメは現世から消滅させるべきだ”みたいな無茶なこと(まあ、実際にはそんなことはいわないだろうけど)を言われたとしても、論理的に文句は言えなくなりますけどね….。
しかし、そんなんで上下する“親日度”って何か意味があるんでしょうか?自分にはよく分かりません。 親日国なんて、無いなら無いで一向に構わないと思うんですが。
→まとめ(前編)に続く