恒例となりました、前回のタイトルの翻訳ソフトの訳。「You got me a bargain」は、「あなたは、私のために契約を取って来た」になりました。リ・オウの言ってることと、全くの正反対やん。
今回のタイトルはこれにしようと決めてました。念のため、人間でなくて、豚のお乳です。
ここまでくると、リ・オウの英語の台詞、めぼしいのは「Hey」くらいしかないでしょ?(笑)
***
2006年7月21日(金)の『わが手に拳銃を』 は、リ・オウ のp147から、コウモリ のp198まで読了。
前半の山場ですね。カズぼんとリ・オウ、二人の「友情」の結びつきと、別れ。(あるスジの方々からは異論があるでしょうが、とりあえずこの時点では「友情」ということで、ご了承を)
リ・オウの波乱万丈の生い立ちも分かるし。カズぼんとリ・オウの誕生日も分かるし、滅多に解らない高村作品キャラクターの誕生日が判明するんだから、これは貴重。
吉田一彰・・・昭和二十九年二月十日。本籍は東京都世田谷区成城。・・・生まれながらの「ぼんぼん」かい。(「ぼんぼん」・・・大阪弁で「金持ちの坊ちゃん」の意味)
李歐・・・一九五四年四月一日、東京都文京区本郷に生まれる。
念のため、同い年。
但し、『李歐』では、この二人の誕生日は約2~3ヶ月後にズレておりました。
そして『わが手に拳銃を』における私の心のオアシス、原口達郎組長、ご登場~♪
『李歐』を先に読んだ私としては、ある意味で物足りなかったりするんですが(苦笑)、なかなか粋なところ、いい男っぷりの部分は『わが手に拳銃を』にも充分あるので、それでいいかな。
ネタバレ。
『李歐』では、自らの身体でカズぼんを繋ぎとめているのに、『わが手に拳銃を』では、自分の女をカズぼんに与えて繋ぎとめてる。どちらがより強い結びつきなのか。
【主な登場人物】
吉田一彰 笹倉文治 リ・オウ 田丸浩一 守山耕三・・・前回から引き続き登場。
吉田美津子・・・カズぼんの父の再婚相手。とはいえ、父親とは関係は母が生きていた頃からあった。
原口達郎・・・カズぼんと刑務所で知り合った頃は、若頭。後に原口組の五代目組長に。
【今回の漢詩】
白雲一片去悠悠 (p174)
初唐の詩人・張若虚の七言古詩「春江花月夜」より。この詩のみで名を馳せている詩人ですね。
この詩の入力に、かなりてこずりました・・・。「艶艶」は、さんずいへんをつけたのが正しいのですが、どうしても変換できないので・・・ご了承を。
春江潮水連海平 春江の潮水 海に連なりて平らかなり
海上名月共潮生 海上の明月 潮と共に生ず
艶艶隨波千萬里 艶艶として波に隨ふこと千萬里
何處春江無月明 何れの處の春江か月明無からん
江流宛轉遶芳甸 江流宛転として芳甸を遶り
月照花林皆似霰 月は花林を照らして皆霰に似たり
空裏流霜不覺飛 空裏の流霜は飛ぶを覺えず
汀上白沙看不見 汀上の白沙は看れども見えず
江天一色無繊塵 江天一色にして繊塵無し
皎皎空中孤月輪 皎皎たり 空中の孤月輪
江畔何人初見月 江畔 何人か初めて月を見し
江月何年初照人 江月 何れの年か初めて人を照らせし
人生代代無窮已 人生 代代窮まり已むこと無く
江月年年祗相似 江月 年年祗だ相似たり
不知江月待何人 知らず 江月何人をか待てる
但見長江送流水 但だ見る 長江の流水を送るを
白雲一片去悠悠 白雲一片 去りて悠悠たり
楓浦上不勝愁 楓浦上 愁ひに勝へず
誰家今夜扁舟子 誰が家ぞ 今夜 扁舟の子
何處相思明月樓 何れの處にか相思ふ 明月の樓
可憐樓上月徘徊 憐れむべし 樓上 月徘徊し
應照離人粧鏡臺 應に照らすべし 離人の粧鏡臺
玉戸簾中巻不去 玉戸 簾中 巻けども去らず
擣衣砧上拂還來 擣衣 砧上 拂へども還た來たる
此時相望不相聞 此の時相望めども相聞かず
願逐月華流照君 願わくは月華を逐ひて流れて君を照らさん
鴻雁長飛光不度 鴻雁 長飛して光度らず
魚龍潜躍水成文 魚龍 潜躍して水文を成す
昨夜閑潭夢落花 昨夜 閑潭 落花を夢む
可憐春半不還家 憐れむべし 春半ばなれども家に還らず
江水流春去欲盡 江水 春を流し去りて盡きんと欲し
江潭落月復西斜 江潭の落月 復た西に斜めなり
斜月沈沈藏海霧 斜月沈沈として海霧に藏る
碣石瀟湘無限路 碣石 瀟湘 無限の路
不知乘月幾人歸 知らず 月に乘じて幾人か歸る
落月搖情滿江樹 落月 情を搖るがして江樹に滿つ
【今回登場した拳銃】
例によって、名前だけ。
コルト S&W Cz75の九ミリ・パラ ブローニング PYTHON 357 MAGNUM
【今回の名文・名台詞・名場面】
今回も名台詞のオン・パレードですね♪
★「どこから、いくら貰った?」
「金は貰ってない! 一体、そういう物の考え方しか出来ないのか、あんたは!」
「金は裏切らないからな」 (p162)
リ・オウの格言・その3。でも、裏切る時もあるよ、リ・オウ・・・?
★「また金か。手を出せ。僕の有り金やるから」 (中略)
一万五、六千円だった。リ・オウは、掌の金をしばらく見つめていた。「これは君の心だな」と呟き、刷の中に小銭を包んで小さく折り畳み、シャツのボタン付きポケットに入れた。
「いつか利子をつけて返すよ。僕らの利子は高いんだ。年利三割の複利でどうだ? 払えない場合は、命で返す」 (p162)
リ・オウの格言・その4。「心」を貰ったから、「命」で返すのね。
ところで年利三割の複利って・・・。どこぞの金融機関も、これくらいのサービスしてよ(笑)
★今また別人のような新たな顔を見せているリ・オウを前に、自分の体内時計が止まってしまうように感じた。 (中略) ほんものの時間も、多分この男が止めてしまったのだろう。まるで、仙人と芸術家と商人とギャングを全部足して割ったような男だ。うさん臭さも愛嬌も敵意も全部混じっている。食ったら、きっと八宝菜の味がするんだろう。こんなカマキリがどこにいる。 (p163)
今回読んだところで、一番笑ったのがここ! 「八宝菜」って、あんた!(笑)
ネタバレ。
『李歐』での「年月なんか数えるな。この李歐が時計だ。あんたの中に入ってる」 「ああ……心臓が妊娠したみたいだ」 は、ここを元に変化したんじゃないのかな? どうでしょう? 
★今度は手真似でソバを食う身振りをし始めた。落語に似たようなやつがある。あれだった。実に上手かった。
「余計に腹へってくるから、やめてくれ、そういうの」
「想像でも腹はふくらむんだ。ほら、腹芸っていうじゃないの」
(p171)
リ・オウの格言・・・というよりは、座布団一枚ものの軽口ですね♪
★「これは僕の国の七億五千万分の一の話だから、塵みたいなものだ。そんな風に考えることにしている。
でも僕の国はとてつもなく広いから、絶望する必要はない。掘れば、石油が出るしさ。耕せば米が実る。風が吹いたら、白雲一片去悠悠よ」 (p174)
この前向きな考え方が、リ・オウなんですよね!
★「僕はあんたをギャングだと思っている。だから、ここへ来たんだ」
「いいか、僕は自分で国をおん出た人間だ。国を出た意味というのはこうだ。国の民というのは、基本的に治める者と治められる者のどちらかでなけりゃならないのだと思う。だが、僕はどちらにもなり損なったから、ここにいるんだ。もし自分は何者かと訊かれたら、僕はまず《男》と答える。次に《リ・オウ》と答える。その次に《ギャング》と答える。《中国人》は四番めよ。この意味分かるか?」
「あんたは自由な人間だ」
「自由の証は金だ。僕は金の力で、右も左もない天上に君臨してやる。そのうち、この面が紙幣の表にのる日がくるかもな」 (p175)
リ・オウの格言・その5。
リ・オウの顔(20代後半~30代で)が印刷された紙幣・・・あるなら欲しいぞ! それも高額紙幣でないと、リ・オウにはふさわしくない。
★リ・オウは突然、またあの火を翻らせた。これまで見た中でも、もっとも熱く眩しく、食らいつく爪のような火の触手だった。
一彰は、バレルの螺旋に吸い込まれるように、自分を誘う火に見入った。拳銃と同じく、自分の魂を奪っていく火に見惚れた。
「いつか、僕と組まないか」と、リ・オウは言った。
「金儲けか」
「僕があのブツをさばいたら、代金と交換に返事をもらおう」
「いいとも」
「謝謝!(ありがとう)」
のびやかな上海訛りの囁きを発して、リ・オウは両腕を広げた。予想に反して、じわりと官能的な抱擁だった。一彰は息づまり、身震いしながら虚空を仰いだ。自分は今こそ悪と自由の腕に抱かれたのだと思った。道は決まった。謝謝。 (p176~177)
ここで二人の「友情」の結びつきが、決定的なものになったのですね。
★「リ・オウ。生きてまた会うことが先決だ。僕とあんたは、いつでも平等だ。危険も儲けも。それが、組む条件だ。……じゃあな」 (中略)
「一彰、一彰。再見……!」
リ・オウは、突然、初めて一彰の名を呼んでそう叫んだ。 (p177)
「君」、「あんた」ときて、やっと「一彰」と名を呼んだリ・オウ。
★意識はしっかりしていた。肩から脇腹にかけて火に炙られているようだったが、湧き出してくる声は消えなかった。拳銃を。拳銃を。僕に拳銃を……! (p178)
★声で喉は詰まり、咳込んで溢れた。地べたに額を押しつけて悶々と呻き続ける間、頬に当たる雨を感じたり、草の匂いを嗅いだりしながら、身体中を絞り上げられるような寂しさを覚えた。この手に拳銃を! (p178)
上記2つの引用。撃たれたけれど、ここのカズぼんは何だかすっごくカッコイイ。ハードボイルド、男の世界! って感じでね。だけど寂しさを感じるのは、リ・オウと離れ離れになったせい?
★一彰は、これで守山工場からまた一つ花びらが欠けていくのだ、というふうなことを考えた。工場と共にあったいくつもの人生のうち、そこに残ったのはこれで自分一人になる。守山も咲子もいなくなった工場は、今は自分のためにだけにかろうじて立っている。いかに忌まわしくとも、自分が生きていくための唯一の世界が、そこに立っている。
咲子には分からないことだろう。工場を守ることは、自分を守ることだった。そこで死んだ人間の名誉を守ることだった。あるいは、子供のころに宝物だったものを守るのだと言ってもよかった。 (p193~194)
守山さんが死に、娘の咲子も去った後の、カズぼんの感慨。
今回のタイトルはこれにしようと決めてました。念のため、人間でなくて、豚のお乳です。
ここまでくると、リ・オウの英語の台詞、めぼしいのは「Hey」くらいしかないでしょ?(笑)
***
2006年7月21日(金)の『わが手に拳銃を』 は、リ・オウ のp147から、コウモリ のp198まで読了。
前半の山場ですね。カズぼんとリ・オウ、二人の「友情」の結びつきと、別れ。(あるスジの方々からは異論があるでしょうが、とりあえずこの時点では「友情」ということで、ご了承を)
リ・オウの波乱万丈の生い立ちも分かるし。カズぼんとリ・オウの誕生日も分かるし、滅多に解らない高村作品キャラクターの誕生日が判明するんだから、これは貴重。
吉田一彰・・・昭和二十九年二月十日。本籍は東京都世田谷区成城。・・・生まれながらの「ぼんぼん」かい。(「ぼんぼん」・・・大阪弁で「金持ちの坊ちゃん」の意味)
李歐・・・一九五四年四月一日、東京都文京区本郷に生まれる。
念のため、同い年。
但し、『李歐』では、この二人の誕生日は約2~3ヶ月後にズレておりました。
そして『わが手に拳銃を』における私の心のオアシス、原口達郎組長、ご登場~♪
『李歐』を先に読んだ私としては、ある意味で物足りなかったりするんですが(苦笑)、なかなか粋なところ、いい男っぷりの部分は『わが手に拳銃を』にも充分あるので、それでいいかな。
ネタバレ。


【主な登場人物】
吉田一彰 笹倉文治 リ・オウ 田丸浩一 守山耕三・・・前回から引き続き登場。
吉田美津子・・・カズぼんの父の再婚相手。とはいえ、父親とは関係は母が生きていた頃からあった。
原口達郎・・・カズぼんと刑務所で知り合った頃は、若頭。後に原口組の五代目組長に。
【今回の漢詩】
白雲一片去悠悠 (p174)
初唐の詩人・張若虚の七言古詩「春江花月夜」より。この詩のみで名を馳せている詩人ですね。
この詩の入力に、かなりてこずりました・・・。「艶艶」は、さんずいへんをつけたのが正しいのですが、どうしても変換できないので・・・ご了承を。
春江潮水連海平 春江の潮水 海に連なりて平らかなり
海上名月共潮生 海上の明月 潮と共に生ず
艶艶隨波千萬里 艶艶として波に隨ふこと千萬里
何處春江無月明 何れの處の春江か月明無からん
江流宛轉遶芳甸 江流宛転として芳甸を遶り
月照花林皆似霰 月は花林を照らして皆霰に似たり
空裏流霜不覺飛 空裏の流霜は飛ぶを覺えず
汀上白沙看不見 汀上の白沙は看れども見えず
江天一色無繊塵 江天一色にして繊塵無し
皎皎空中孤月輪 皎皎たり 空中の孤月輪
江畔何人初見月 江畔 何人か初めて月を見し
江月何年初照人 江月 何れの年か初めて人を照らせし
人生代代無窮已 人生 代代窮まり已むこと無く
江月年年祗相似 江月 年年祗だ相似たり
不知江月待何人 知らず 江月何人をか待てる
但見長江送流水 但だ見る 長江の流水を送るを
白雲一片去悠悠 白雲一片 去りて悠悠たり
楓浦上不勝愁 楓浦上 愁ひに勝へず
誰家今夜扁舟子 誰が家ぞ 今夜 扁舟の子
何處相思明月樓 何れの處にか相思ふ 明月の樓
可憐樓上月徘徊 憐れむべし 樓上 月徘徊し
應照離人粧鏡臺 應に照らすべし 離人の粧鏡臺
玉戸簾中巻不去 玉戸 簾中 巻けども去らず
擣衣砧上拂還來 擣衣 砧上 拂へども還た來たる
此時相望不相聞 此の時相望めども相聞かず
願逐月華流照君 願わくは月華を逐ひて流れて君を照らさん
鴻雁長飛光不度 鴻雁 長飛して光度らず
魚龍潜躍水成文 魚龍 潜躍して水文を成す
昨夜閑潭夢落花 昨夜 閑潭 落花を夢む
可憐春半不還家 憐れむべし 春半ばなれども家に還らず
江水流春去欲盡 江水 春を流し去りて盡きんと欲し
江潭落月復西斜 江潭の落月 復た西に斜めなり
斜月沈沈藏海霧 斜月沈沈として海霧に藏る
碣石瀟湘無限路 碣石 瀟湘 無限の路
不知乘月幾人歸 知らず 月に乘じて幾人か歸る
落月搖情滿江樹 落月 情を搖るがして江樹に滿つ
【今回登場した拳銃】
例によって、名前だけ。
コルト S&W Cz75の九ミリ・パラ ブローニング PYTHON 357 MAGNUM
【今回の名文・名台詞・名場面】
今回も名台詞のオン・パレードですね♪
★「どこから、いくら貰った?」
「金は貰ってない! 一体、そういう物の考え方しか出来ないのか、あんたは!」
「金は裏切らないからな」 (p162)
リ・オウの格言・その3。でも、裏切る時もあるよ、リ・オウ・・・?
★「また金か。手を出せ。僕の有り金やるから」 (中略)
一万五、六千円だった。リ・オウは、掌の金をしばらく見つめていた。「これは君の心だな」と呟き、刷の中に小銭を包んで小さく折り畳み、シャツのボタン付きポケットに入れた。
「いつか利子をつけて返すよ。僕らの利子は高いんだ。年利三割の複利でどうだ? 払えない場合は、命で返す」 (p162)
リ・オウの格言・その4。「心」を貰ったから、「命」で返すのね。
ところで年利三割の複利って・・・。どこぞの金融機関も、これくらいのサービスしてよ(笑)
★今また別人のような新たな顔を見せているリ・オウを前に、自分の体内時計が止まってしまうように感じた。 (中略) ほんものの時間も、多分この男が止めてしまったのだろう。まるで、仙人と芸術家と商人とギャングを全部足して割ったような男だ。うさん臭さも愛嬌も敵意も全部混じっている。食ったら、きっと八宝菜の味がするんだろう。こんなカマキリがどこにいる。 (p163)
今回読んだところで、一番笑ったのがここ! 「八宝菜」って、あんた!(笑)
ネタバレ。


★今度は手真似でソバを食う身振りをし始めた。落語に似たようなやつがある。あれだった。実に上手かった。
「余計に腹へってくるから、やめてくれ、そういうの」
「想像でも腹はふくらむんだ。ほら、腹芸っていうじゃないの」
(p171)
リ・オウの格言・・・というよりは、座布団一枚ものの軽口ですね♪
★「これは僕の国の七億五千万分の一の話だから、塵みたいなものだ。そんな風に考えることにしている。
でも僕の国はとてつもなく広いから、絶望する必要はない。掘れば、石油が出るしさ。耕せば米が実る。風が吹いたら、白雲一片去悠悠よ」 (p174)
この前向きな考え方が、リ・オウなんですよね!
★「僕はあんたをギャングだと思っている。だから、ここへ来たんだ」
「いいか、僕は自分で国をおん出た人間だ。国を出た意味というのはこうだ。国の民というのは、基本的に治める者と治められる者のどちらかでなけりゃならないのだと思う。だが、僕はどちらにもなり損なったから、ここにいるんだ。もし自分は何者かと訊かれたら、僕はまず《男》と答える。次に《リ・オウ》と答える。その次に《ギャング》と答える。《中国人》は四番めよ。この意味分かるか?」
「あんたは自由な人間だ」
「自由の証は金だ。僕は金の力で、右も左もない天上に君臨してやる。そのうち、この面が紙幣の表にのる日がくるかもな」 (p175)
リ・オウの格言・その5。
リ・オウの顔(20代後半~30代で)が印刷された紙幣・・・あるなら欲しいぞ! それも高額紙幣でないと、リ・オウにはふさわしくない。
★リ・オウは突然、またあの火を翻らせた。これまで見た中でも、もっとも熱く眩しく、食らいつく爪のような火の触手だった。
一彰は、バレルの螺旋に吸い込まれるように、自分を誘う火に見入った。拳銃と同じく、自分の魂を奪っていく火に見惚れた。
「いつか、僕と組まないか」と、リ・オウは言った。
「金儲けか」
「僕があのブツをさばいたら、代金と交換に返事をもらおう」
「いいとも」
「謝謝!(ありがとう)」
のびやかな上海訛りの囁きを発して、リ・オウは両腕を広げた。予想に反して、じわりと官能的な抱擁だった。一彰は息づまり、身震いしながら虚空を仰いだ。自分は今こそ悪と自由の腕に抱かれたのだと思った。道は決まった。謝謝。 (p176~177)
ここで二人の「友情」の結びつきが、決定的なものになったのですね。
★「リ・オウ。生きてまた会うことが先決だ。僕とあんたは、いつでも平等だ。危険も儲けも。それが、組む条件だ。……じゃあな」 (中略)
「一彰、一彰。再見……!」
リ・オウは、突然、初めて一彰の名を呼んでそう叫んだ。 (p177)
「君」、「あんた」ときて、やっと「一彰」と名を呼んだリ・オウ。
★意識はしっかりしていた。肩から脇腹にかけて火に炙られているようだったが、湧き出してくる声は消えなかった。拳銃を。拳銃を。僕に拳銃を……! (p178)
★声で喉は詰まり、咳込んで溢れた。地べたに額を押しつけて悶々と呻き続ける間、頬に当たる雨を感じたり、草の匂いを嗅いだりしながら、身体中を絞り上げられるような寂しさを覚えた。この手に拳銃を! (p178)
上記2つの引用。撃たれたけれど、ここのカズぼんは何だかすっごくカッコイイ。ハードボイルド、男の世界! って感じでね。だけど寂しさを感じるのは、リ・オウと離れ離れになったせい?
★一彰は、これで守山工場からまた一つ花びらが欠けていくのだ、というふうなことを考えた。工場と共にあったいくつもの人生のうち、そこに残ったのはこれで自分一人になる。守山も咲子もいなくなった工場は、今は自分のためにだけにかろうじて立っている。いかに忌まわしくとも、自分が生きていくための唯一の世界が、そこに立っている。
咲子には分からないことだろう。工場を守ることは、自分を守ることだった。そこで死んだ人間の名誉を守ることだった。あるいは、子供のころに宝物だったものを守るのだと言ってもよかった。 (p193~194)
守山さんが死に、娘の咲子も去った後の、カズぼんの感慨。
先日はコメントありがとうございました。
いつもながら、からなさんの読みの深さに畏れ入ります。
★「・・・手も口も出すな。この場は僕に任せろ」
「リ・オウ。生きてまた会うことが先決だ。僕とあんたは、いつでも平等だ。危険も儲けも。それが、組む条件だ。……じゃあな」 (p177)
『わが手』でのカズぼんらしさを最も表しているセリフのひとつだと思います。
この前後のカズぼんのセリフと行動力に痺れてしまいます。もちろんリ・オウのセリフと行動力にもですが。先に『李歐』を読んでいた私には、カズぼんが新鮮でした。
『わが手』でのカズぼんは「君は大陸の覇者になれ、ぼくは君についていく夢を見るから」とは言わないような気がします。
>この前後のカズぼんのセリフと行動力に痺れてしまいます。
『わが手~』のカズぼんにあって、『李歐』のカズぼんにないものを象徴している部分かもしれませんね。
『わが手~』のカズぼんって、恐れを知らぬ若々しさがあるんですよ。(青いというものとは別物かもしれませんが)
『李歐』のカズぼんって、達観しているというか、精神的に早々と老けてるというか(苦笑)
『李歐』を出版する際に、「登場人物を大人にさせた」と高村さんはコメントされたそうですが、確かにそう感じます。
>『わが手』でのカズぼんは「君は大陸の覇者になれ、
>ぼくは君についていく夢を見るから」とは言わないような気がします。
ええ、言わないでしょうねえ。
いみじくも田丸さんが、
「君の人生は水銀灯の運命やな」 「立ってるだけで、女が寄ってくる。男も寄ってくる。犯罪も寄ってくる」
と断言したように、受け身ですよね。
『李歐』の中で、碧いさんが揚げられたような、『わが手~』のカズぼんらしいところを探そうとしたんですけど、なかなか見つからない・・・。
消えゆく李歐の幽霊に、「心和肝(シンヘガン)」と言ったところくらい?
でも、李歐が最初に発言してましたからねえ・・・。