韓国雑記帳~韓国草の根塾&日韓環境情報センター&ジャパンフィルムプロジェクトブログ

韓国に暮らして30年。なぜか韓国、いまだに韓国、明日も韓国。2022年もよろしくお願いします。

ソウルの公共給食、広報ビデオ

2019-10-30 15:15:43 | 韓国の市民運動

ソウル市の公共給食(保育園、福祉施設、公共施設の給食)のPRビデオです。オーガニック学校給食は2010年ごろから小学校、中学校、高校と拡大していき、2016年ごろから保育園などのほかの施設の給食もオーガニックの食材を増やしていきます。
一番のポイントはソウル市の各区と生産地をマッチングしている点、収穫から24時間以内に保育園などの消費者へ配送する点、生産地の給食センターでは集荷だけでなく前処理も行っている点、30メニューぐらいの標準メニューがあってこれをベースにメニューを組み立て、消費予想量を算出、またこの消費予想量をもとに計画栽培を行っています。
また、バナナなど海外からの輸入物はなるべく減らし、国内で生産できる果物に変えるように保育園を説得しているそうです。具体的な内容はこれから整理して紹介します。1月29日から3泊4日で現地見学のツアーを実施する予定ですので、ぜひ多くの皆さんに見てもらいたいと思います。
ビデオのナレーションの翻訳を下に載せますので、ご覧ください。
× × × ×
私たちは自然を考えます。
私たちは人間を考えます。
私たちは農家の苦労を考えます。
私たちはともに歩む未来を考えます。
未来を創っていきます。

ソウル市都市農村共生公共給食

持続可能なフードシステムを構築

ソウル市は都市農村共生の公共給食を通じて
満足に食べられえない人たちに食料の基本権が
保証されるようにしました。

また、農村の中小家族経営農家の育成を通じて
農村経済が活性化する互いに生きる社会の基盤を準備し

公共給食に使われる食材料はオーガニック農産物に替え、
生産地でもオーガニック農産物に転換するように誘導し
持続可能なフードシステムを構築しました。

生産地の農家で収穫された農産物は生産地の地方自治体の公共給食センターと
都市の公共給食センターによって保育園のような公共給食施設に供給されます。

ソウル市の給食費の差額支援制度により
2018年現在50%のオーガニック農産物の比率を
2020年には70%まで引き上げます。

<産地直売 循環流通構造>

健康な農産物を安定的に供給するため、既存の7段階まである流通段階を
3段階に減らしました。

<24時間内の供給>
当日、収穫したものをその日のうちに配送、供給することで
産地からその季節に生産された新鮮な農産物を安定的に供給します。

産地と消費者の間の産地直接取引で流通経費を節約し、
節約した費用を生産者と消費者に還元します。

ソウル市の流通費、安全性検査費用の差額支援で、費用の節約はより大きくなります。

今朝、収穫したものです、私たちの家族が食べているものと同じものですよ。
わたしもこれを食べて暮らしています。

ソウル市は市内の各区と生産地の中小規模の家族経営農家と1対1のマッチングを
直接実施し、産地直送の循環流通構造を確立しました。

2017年、試験事業を開始、6つの区で1対1のマッチングを進め

ソウル市カンドン区  - ワンジュ郡
ソウル市クムチョン区 - ナジュ市
ソウル市ソンボク区  - タミャン郡
ソウル市カンボク区  - プヨ郡
ソウル市ノウォン区  - ホンソン郡
ソウル市トボン区   - ウォンジュ市

2018年度下半期に4つの区が追加で参加をする予定です。

ソウル市内の各区は産地と十分な協議を通して必要なだけ生産する計画栽培で

農産物の廃棄をできるだけ少なくして365日安定した価格で供給します。

産地の自治体では多くの品目を少量生産するシステムを構築、
気候変動に対応し、中小家族農業の育成に寄与できるようにします。

<良質の食べ物 安全な供給>

都市農村が共に生きる公共給食は生産、流通、消費の3段階で安全性の検査を行い
1次 産地検査、2次 自治体納品検査、3次 産地訪問モニタリング検査

安心できる信じられる食べ物を供給します。

1次の生産段階では産地の自治体がソウル市の食材品質及び調達基準の遵守、
土壌検査、水質検査はもちろん、出荷農家別、品目別の残留農薬の検査を行います。

2次流通段階では、各区の公共給食センターの産地検査成績書を確認、
使用頻度が高い食材の中で農薬の検出頻度が高い品目を中心にサンプリング検査をします。

3次の消費段階では保護者が産地を直接訪問して品質、調達基準に合っているか
モニタリングをして点検をします。

ソウル市が信念をもって実施していますから私たちは子供たちがオーガニック農産物を使った
質の高い給食を食べることができるため

子供たちを預けている母親としてはありがたいですし、安心できます。

<都市農村お互いに生きる>

ソウル市は市民を対象にして、食生活教育や都市農村交流、産地体験プログラムを
通して持続可能な食べ物についての市民の関心と認識変化を推し進めています。

2016年からソウル市と9つの産地自治体は農産物をとおして都市と農漁村の
バランスの取れた発展とともに生きることを通して

MOUを結び、都市と農村がともに生きる価値を実現させました。

農村は信頼できる農産物を生産する価値を認めてもらい
都市は新鮮で良質な食材を価値を認めて消費する都市農村がともに生きる公共給食

人々は夢みます
良質な食べ物 自足可能な農業 健康な未来  
いま、ソウル市は信頼とともに生きる未来を作っていきます。

(フェイスブックの書き込みをアップしました)

韓国のオーガニック学校給食の歴史 1

2019-10-02 23:21:11 | 韓国の市民運動

9月初めに訪問したソウル市で、1冊の本をもらいました。お役所が作ったにしては、中身が濃い、熱意がすごい。

どれだけ翻訳できるかわかりませんが、まず、第1部の「オーガニック無償給食の歩みと成果」をお届けします。

   +    +     +     +

ソウル市オーガニック無償給食成果白書~ 挑戦と省察、そして未来 2012~2017

 

01 学校給食の新しい扉を開く

 <学校給食の危機>

韓国の学校給食は、1953年、朝鮮戦争当時、外国からの援助物資による無償給食として始まった。カナダ政府が1953年3月に送ってくれた粉ミルク14万パウンドを全国の小学校の欠食児童に提供したことが、学校給食の始まりだった。その後、1981年に学校給食法が施行、部分的に政府支援の学校給食が実施されたが、2003年に特殊学校、小・中・高当学校で全面給食が実施された。

 

学校給食法が制定された1981年、全国の給食利用率は2.8%に過ぎなかった。1991年に特殊学校、1998年に小学校、1999年に高等学校、2003年に中学校の全面給食が実施され、全国の給食実施率は98.5%、給食利用率は90.0%に達するほど拡大した。このように量的な拡大がなされた決定的な契機は、1996年に導入された委託給食と教室内配膳だった。政府からの支援もなく保護者の経済的負担で、そして学校に別途に施設を作らなくても全校生徒を対象に給食を実施することが可能だった。

 

委託給食は給食施設の設置からメニュー、調理、配膳などすべての過程を民間の業者に委託して実施することである。委託給食の導入により、政府の予算投入なしで学校給食が急速に拡大したが、委託業者の行き過ぎた営利追及によって給食の質と衛生面に多くの問題が現れた。毎年、食中毒事故が発生するぐらい衛生管理がキチンと実施されず、食材料も価格の安い輸入農水産物を使用した。政府は委託による量的な拡大にだけ関心を寄せ、安全と健康という質的な管理にはとりわけて対策がなかった。その上、給食に対する政府の責任といえる無償給食についての認識は全くなかった。これらが、給食環境の改善のために保護者が立ち上がった背景である。

 

<保護者と市民が立ち上がる>

2001年から劣悪な給食環境を改善するためには、学校給食法を改定しなければならないという認識が社会的に拡散しだした。保護者団体と農民団体が中心になって「学校給食で国家や地方自治体の役割を強化し、安全な国内産食材を使用し、国内の安定した食糧需給をもたらすことができる方法で学校給食法が改訂されねばならない」(学校給食法の改定と条例制定のための市民社会団体連帯会議、2003.11.4)という主張とともに学校給食法を改定のための立法請願運動、街頭での署名運動が始まった。

 

2006年6月、保護者の粘り強い給食運動と市民の積極的な参加により、ついに学校給食法が改訂された。これにより、大部分の学校で委託給食を直営給食に変え、政府と地方自治体が給食費を支給できる法的な根拠が整った。国内産農産物を学校給食で使用した場合は、これに対する支援も可能となった。しかし、保護者と市民団体が続けて主張してきた無償給食の実施は行われなかった。

 

中央の学校給食法改定運動とは別途に、地方自治体の条例制定で学校給食にたいする支援を制度化するための学校給食支援条例制定運動が展開された。ここでも保護者の熱意と市民団体との連帯が大きな力となった。2002年5月、全羅北道で初めて26の団体が参加して学校給食条例制定連帯会議が作られ、2003年9月に全羅南道のナジュで初めて学校給食支援条例が制定された。ソウル市も2004年11月、20万人の超える署名で請願が行われた学校給食支援条例が市議会を通過した。それ以降、2010年まで全国で16の広域地方自治体を含む2300の市町村の大部分で直営給食、国産農産物の使用、無償給食の原則を取り入れた学校給食支援条例が制定された。

 

<オーガニック無償学校給食が政策となる>

2008年の米国産牛肉輸入反対のキャンドル集会は、国民に食料主権と食品安全の重要性を悟らせてくれた。学校給食運動も、一食を提供するという量的な拡大を超え、安全と品質という質的な転換の必要性を痛感した。これに対して「学校給食法改定と条例制定のための国民運動本部」は2009年の下半期ワークショップで持続可能な農業・農村と子供たちの健康を守るため、2010年の地方選挙の核心公約として「オーガニック無償給食」を提案した。全国をまわり懇談会を実施、街頭署名活動を行って、国民の総意としてハンナラ党(保守与党)を除くすべての政党と選挙公約の調印式を実施、国民への広報活動として政策討論会を開いた。これをきっかけに、2010年の地方選挙でオーガニック給食と無償給食は政治的な関心を持つようになった。

 

2010年3月、韓国の市民運動で初めて2200団体の市民団体が集まって「オーガニック無償給食草の根国民連帯」が発足、オーガニック無償給食を公約とする政策キャンペーンが展開された。国民連帯は

① オーガニック無償給食は教育だ。

② オーガニック無償給食は普遍的な福祉の実現だ。

③ オーガニック無償給食は地域経済を活性化する。

④ オーガニック無償給食はオーガニック農業を拡大させる。

⑤ オーガニック無償給食は子供たちの幸せだ。

という5つの共同行動のスローガンを示した。

学校給食を通じてオーガニックの価値、普遍的な福祉の価値、地域循環経済の価値、子供たちの幸福という価値が出会い、国民連帯はこれらの価値が韓国社会の成長と教育の議題(アジェンデ)であると提示したわけだ。

 

このような韓国社会の成長と教育の議題(アジェンデ)という提案は、マニフェストから選挙運動まで2010年の地方選挙の中心となり、選挙の結果、オーガニック無償給食を公約に掲げた候補が多数当選した。地方自治レベルでオーガニック無償給食が制度の中に組み込まれ、具体的な政策として実施される機会が訪れた。これは保護者と市民社会が力を合わせて勝ち取った成果だ。(続く)