【混迷文科省 前次官“告発”】前川氏、義憤の顔は本物か 獣医学部50年新設なし 強力な権限、「教育村」に君臨する官庁

2017-05-29 | 政治

産経ニュース 2017.5.27 09:00更新
【混迷文科省 前次官“告発”】(上)前川氏、義憤の顔は本物か 天下り問題で引責…政権へ意趣返しの見方
 25日午後4時すぎ。報道陣ですし詰めになった東京・霞が関のビル一室の空気が一瞬、固まった。
 「女性の貧困について実地の視察調査をしていた」「文部行政をやる上で役に立った」
 学校法人加計(かけ)学園(岡山市)の獣医学部設置計画をめぐる記録文書に絡み、文部科学省前事務次官の前川喜平(62)が「確実に存在する」と主張した記者会見。質疑の中で、「出会い系バー」への現職時代の出入りについて、事実関係をあっさり認めた上で想定外の理由を説明したのだ。
 教育行政の事務方トップが、売春の交渉現場とも目される怪しげな場所に、夜な夜な出没する-。常識では考えられない“裏の顔”を覆い隠そうとしてひねり出した理屈なのか。会場には失笑が漏れた。
 前川の会見内容に理解を示す文科省幹部も突き放した。「あの発言は口にすべきではなかった。国民から理解されるはずがない」
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 「あったことをなかったことにはできない」。前川は記者会見で、文科省が文書の存在を否定した調査結果への不満から、告発する決心を固めた心境をにじませた。
 正義の告発者。報道陣の前に姿をさらし、堂々と主張した前川にはそんなイメージを重ねる向きもあるが、水面下では複雑な動きがあった。
 前川が会見するそもそもの発端は、内閣府職員が文科省職員に「総理のご意向」などと発言したとされる文書を、朝日新聞が17日付朝刊で報じたことだ。翌日朝刊では詳細な日時が入った文書も掲載。民進党も同じ文書を入手し、文科省に対し文書の存否確認を要求。19日、文科省は「存在は確認できず」との調査結果を発表した。
 その頃、複数の政府関係者は半ば公然と「文書を外部に流しているのは前川だろう」と触れ回った。22日、読売新聞朝刊が「出会い系バー」について報道。関係者は「政府サイドがメディアを使って人格攻撃を仕掛けてきたと危機感を覚え、実名での告発に踏み切ったのではないか」と指摘する。
 前川は昨秋、「出会い系バー」への出入りについて官房副長官の杉田和博から注意を受けた。今年1月には文科省の組織的天下り問題を受けて引責辞任。こうした経緯から、告発は義憤ではなく政権への意趣返しなのではないか、との見方も出た。前川は「誰に恨みを持つようなものではない」と反論している。
 問題となっている記録文書が“本物”であるなら、それが外部に持ち出されたり内容が明かされたりした場合、国家公務員法の守秘義務違反となる可能性をはらむ。退職後であっても変わらない。
 そうしたリスクを冒してまで行動に出た前川の“反骨精神”は、現職時代から際立っていた。平成17年、公立小中学校の教職員給与の国負担分を2分の1から3分の1に引き下げた小泉純一郎政権の三位一体改革について、ブログで批判を展開したのが一例だ。
 それでも前川が順調に昇進し、事務次官まで上り詰めたのは、「他省庁に比べて素朴な正義感がたたえられる傾向が強いからではないか」(文科省幹部)。
 今回の前川の仕掛けに理が宿るのかどうか、まだ先は見通せない。(敬称略)
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 文科省前事務次官による捨て身の告発が波紋を広げている。その淵源(えんげん)には何があるのか。混迷が続く巨大官庁の実態を追う。
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【用語解説】加計学園問題
 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人加計学園(岡山市)が、政府の国家戦略特区を活用し愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画について、特区認定に首相の意向が影響したかが問われている問題。「総理の意向」などと記載された記録文書の存否をめぐり、文部科学省は担当者へのヒアリングなどから「該当文書は存在が確認できなかった」と結論付けたが、前川喜平前事務次官は25日の記者会見で「文書は確実に存在した」と主張した。

2017.5.28 06:29更新
【混迷文科省 前次官“告発”(中)】獣医学部50年新設なし 強力な権限、「教育村」に君臨する官庁
 「しっかりとした法令に基づき、根拠を持ってやっていると確信している。何ら問題ない」。地方創生担当相の山本幸三は26日の記者会見でこう述べ、学校法人加計(かけ)学園が国家戦略特区を活用した獣医学部新設の経緯について、所管する内閣府として再調査しない意向をきっぱりと示した。
 念頭には、文部科学省前事務次官の前川喜平(62)による前日の記者会見があった。内閣府側が「総理のご意向」などと発言したとされる記録文書を「本物だ」と主張した前川は、獣医師需給の見通しが示されなかったとして、「薄弱な根拠の中で規制緩和が行われた。公平、公正であるべき行政の在り方がゆがめられた」と批判したのだ。
 積み重ねた議論の公正さを打ち消す発言だけに、前川の元上司である文科相の松野博一は26日、「文科行政がゆがめられたとの認識はない」と一蹴した。
 「総理のご意向」で行政はゆがめられたのか。前川と関係省庁との主張は真っ向から対立する。ただ、加計学園問題は首相の安倍晋三がかつて「岩盤規制も私のドリルからは逃れられない」と、聖域なき規制改革への強い意向をにじませた国家戦略特区の枠組みが前提であることは軽視できない。
 約50年前の大学獣医学部新設を最後に、需要が充足しているとして文科省が昭和59年以降、定員を抑制する方針を堅持してきた獣医学部。その厚い岩が、安倍のドリルの掘削対象に選ばれた。
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 国家戦略特区は、安倍内閣で平成25年6月に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略」に盛り込まれた政治主導の重要政策だ。国が指定した地域で岩盤規制に風穴を開け、新たな活力を生み出す-というのが趣旨。獣医学部新設に関する検討事項は27年6月の閣議で決定された。
 これらを踏まえれば、加計学園の獣医学部新設で「総理のご意向」があったとしても不自然ではない。実際、安倍が獣医学部新設に向け制度見直しを表明する約2カ月前の28年9月、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の会合で、事務局の内閣府審議官が「総理から検討を深めるようお話をいただいている」と述べてもいる。
 むしろ、会合ではWG委員が、昭和59年以降続いている獣医学部の定員抑制方針を盾に難色を示す文科省側に対し「定員管理で縛る話ではない」などと主張する姿勢が目立った。文科省は既得権を守る“抵抗勢力”だったのか。立場によって見解は分かれる。
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 そもそも強力に物事を進めたい官庁が、首相らの意向を振りかざすことは、霞が関で珍しくない。ある省庁の中堅幹部は「そんな意向に惑わされず行政のプロとして信念をもって議論を重ね、最後は『政治判断に従う』というのが役人のあるべき姿」と指摘し、退職後に政府批判を展開した前川への違和感を隠さない。
 その違和感の正体は何なのか。官僚の間には、前川らOBを含め文科省職員43人が処分された違法な天下り斡旋(あっせん)問題と通底する、との声が広がる。
 官民癒着の批判を受け、現職による斡旋を禁じた改正国家公務員法施行(平成20年)以降も横行した文科省での天下り問題について、別の省庁幹部は「法改正後も文科省だけには、なぜか切迫した雰囲気が感じられなかった」と、漏らす。
 強力な権限を手に「教育村」に君臨してきた文科省。「自己中心的で世間知らず」。霞が関では同省の混迷の要因について、こうした見方が絶えない。(敬称略)

【混迷 文科省 前次官“告発”(下)】文教族依存のツケ 思考停止状態の省内…課題に対処する人材育たず
 「政治主導や官邸主導は、小泉(純一郎)政権のころから強まっており、徐々にそういう力関係になってきていると思う」
 学校法人加計(かけ)学園(岡山市)の獣医学部新設計画をめぐり、内閣府側が「総理のご意向」などと発言したとされる記録文書を「本物だ」と主張した25日の文科省前事務次官、前川喜平(62)の記者会見での質疑は、ここ20年近くの政官関係の変遷にまで及んだ。
 前川が踏み込んで発言した背景には、昭和59年以降、定員抑制を貫いてきた獣医学部の新設が十分な説明がないまま国家戦略特区のもとで解禁され、特区を所管する内閣府と、その後ろに構える官邸とのパワーゲームに敗北したことへの無念さがうかがえる。
 実際、記者会見の場ではこう漏らした。「赤信号のところを青にさせられ、本意ではないことを言わされている。現在の文科省は官邸、内閣官房、内閣府といった政権中枢の意向や要請に逆らえない」
 こうした前川の第三者的な物言いには、省内から「まるで評論家だ」と反発もあるが、「官」による「政」への抵抗力が弱体化している事実は疑いようがない。
 今やあらがうことができない政治主導の加速は、平成6年成立の改正政治改革関連法で衆院選に小選挙区制が導入されて以降とされる。見逃せないのは、その裏で各省庁の族議員の影響力が相対的に低下したことだ。文科省も例外ではない。
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 専門分野の政策通であり、選挙応援などと引き換えに業界団体の既得権を守る「族議員」は各省庁の代理人ともなる。文科省で言えば「文教族」だ。
 私立大の息のかかった文教族の影響力は長らく続き、「昔は関連予算を自由に触らせてもらえなかった」(OB)。文相(当時)の故与謝野馨の秘書官を務めた前川が、文相などを歴任した参院議員の中曽根弘文と親類関係にあるのは、こうした結びつきの一例だ。
 ただ、選挙区で1人しか当選できない小選挙区制の導入で、幅広い分野で対応できる人材需要が高まり、官邸機能の強化などによって「政」の中の族議員の力はそがれていった。
 「文教族は数こそいるが、影響力のある“親分”がいなくなった」
 文科省関係者は代理人である文教族の力の低下をこう嘆いたが、問題は代理人の弱体化を補完する力や人材が省内で十分育っているとは言い難いことだ。
 憲法改正の焦点の一つと目されている大学授業料の無償化についても、省内では「実質的な議論をリードできる人がいない」と危ぶむ声が上がっている。
 現場の課題をさばける人材の不足は「文教族への長年の依存のツケ」(文科省関係者)ともいえる。
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 族議員の弱体化は、公僕として国民の視点に立つ好機でもある。思考停止の状態は脱却できているのか。
 東日本大震災の津波で児童ら計84人が死亡・行方不明になった宮城県石巻市立大川小の悲劇。大川小事故検証委員会の設立を主導したのは当時、官房長だった前川だ。
 三男を亡くし、津波訴訟の原告でもある佐藤和隆(50)=石巻市=は、前川の印象について「弁は達者で難しい用語を駆使し、聞く人を納得させる力にたけていた」と振り返る。
 しかし、実際に検証委が始まると「学校の責任を問わない方向に誘導している印象を受け、不信感が募った」という。
 遺族が抱く疑念は、閉鎖的な世界に安住し、課題への対応力を鈍らせる文科省全体への警鐘と受け取るべきだ。(敬称略)
 この連載は花房壮、寺田理恵、伊藤寿行が担当しました。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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