最高に好きな作品
嫌いな人ごめんなさい
我儘/佐藤雅彦
「たとえ、この世から定規を無くしたとしても
この世から長さを無くしたことには
ならないのですぞ、王妃」
賢者オンタリウスは叫んだ。
頭上にはギロチンの大きな刃が静かに光っている。
「この期に及んでも、まわりくどい人ね。
わたくしは、もうあなたの説教など飽き飽きしてるのです。
謀反の罪で打ち首の刑に処することは、王も承知の上です。
さあ、皆のもの、ロープを放つのです!」
オンタリウスは、さらに声を嗄らして叫んだ。
「王妃!たとえ、この国からわたくしという物差を無くしたとしても
この国から、み」
ガシャン。
大きな金属音とともに静寂が訪れた。
王妃マリアは賢者オンタリウスが、その「み」の
あとに何の言葉を続けたかったのか
ちょっとだけ知りたくなった。