鍼灸如何に学ぶべきか~科学的鍼灸論の構築のために~

鍼灸の理論と術にかかわる初歩的・基本的な問題を中心に科学的=論理的に唯物論を把持して説(解)いて行きたい、と思います。

鍼灸問答(3-3/3)〜片手挿管と鍼灸初心者の認識と実体〜

2019-04-09 06:47:45 | 鍼灸問答
(大先生は鍼灸初心者である生徒に片手挿管を学ぶ現代的意義を説く)

生徒)大先生!片手挿管って本当はどんな意味があるんでしょうか?中先生は片手挿管には現代ではあまり意味がない、出来てもいいけど出来なければ出来ないでどうにかなる。と言われるし、小先生は片手挿管は鍼灸の文化遺産だとか、現実問題として施術コストの問題として、何よりも進級テストに絶対必要だから、と言われるのですが......。

大先生)君はどう思うのかね?

生徒)僕ですか?僕は、中先生の言われることも小先生の言われることも、どちらもそれなりに正しいように思えて......ディスポ鍼の時代には出来なくても困らない、と言われればそう思えるし、出来れば役に立つし、何よりも進級テストの課題!と言われれば練習はしなくちゃあいけない、とは思うのですが......もう一つ学ぶ意欲が湧かないというか......。

大先生)なるほどね。確かに施術コストだとか進級テストだとか言われても、その必要性は分かることはあっても夢は膨らまないだろうなあ(笑)

......結論からいえば、片手挿管には、しっかりと学ぶ意義がある。鍼灸初心者にとっては鍼灸術を学ぶための認識と実体を創ってくれる、創って行く事が出来るものである。といわれてもなんのことかわからないだろうから少し解説していこう。

 まず実体面の効用から、君ももう何度か鍼を打っているだろうから分かると思うが、鍼を打つということは通常はなかなか難しい。鍼が刺さらない、曲がるという事が初心者には通常である。(近頃は、鍼にシリコンがコーティングされていたりして随分と簡単にはなっているが)、それが何度も何度も打っているうちに手先の感覚も培われ打つコツというようなものも分かっていき、数ヶ月もすれば銀の毛鍼(細く柔らかいので初心者には打つ事が難しい)であっても、それほどの苦労をせずに打てるようになって行く。しかし、たとえば、手先の器用さ、感覚の鋭さが当初からあれば......ということになる。その手先の器用さ、感覚の鋭さを培ってくれるのが片手挿管の訓練である。それも鍼と鍼管に慣れるとともにである。

初心者にとってはなかなかに出来ない片手挿管を、一分間に10回だとか15回だとかできなければ二年生に進級出来ないぞ!と脅かして実技担当の先生が諸君の尻を叩くのはそういう意味があるからだ。

であるから、片手挿管は当初は出来ない方が本当はよい。初めから簡単に片手挿管が出来てしまう器用な人にとっては片手挿管はあまり意味がない。出来ない片手挿管を頑張ってできるようにして行くから、手先の器用さ感覚の鋭さというものが培われるのだから......。

次に、片手挿管の認識面での効用について少し解説してみよう。片手挿管を最初にやった時の君の思いはどうだった?

生徒)最初の思いですか?難しい!の一言でした。あんまり出来ないんでえらいところに来てしまった、自分は鍼灸師に向かないのではないのか?とまで思いつめました。

悩んで、「鍼灸師には向いてないのかと思う」と中先生に相談したら、「片手挿管なんか出来なくても今はディスポ鍼の時代だから......」と言われるので、(大喜びで)実技担当の小先生にお聞きしたら、「片手挿管は大事だ!出来ないと進級させない!と言われて......。

大先生)大抵の、よほどに器用な生徒以外は毎年毎年ショックを受けるものなんだ。「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同」というわけだ......というか、本当は片手挿管の難しさにショックを受けてもらわないと困る(笑)

何事の学びでもそうであるけれども、人間はそのモノゴトとの最初の出会いの第一印象でそのモノゴトに対しての印象が決まっていってしまう場合がほとんどである。これは自分の食べ物の好き嫌いとか、人の好き嫌いとかを考えてみてくれればいい。詳しくは、また時間のあるときにでも話すが......。

それほどに、モノゴトとの最初の出会いというものは大事なのだから、だから最初に(初心者にとっては)難しい片手挿管を学ばせることに意味がある。一つには進級をナメるなよ!ということであり、そんなに難しい(初心者にとっては)片手挿管も、(進級できないということから)必死に努力し続ければ、二年生になった頃には、なんの難しいこともなくできるようになって行く、ということを進級術の習得・修得ということのプロセスの一齣を実際に我が身を通して知る、わかることが出来る、ということである。

生徒)大先生の言われることはわかるように思えるのですが、それは片手挿管じゃないとダメなんですか?

大先生)知識として分かってもらえれば、あとは実践して実感してもらうしかないが......片手挿管以外はダメか?って。鍼灸初心者にとってはbestではないにしてもbetterだろうね、片手挿管は。

生徒)はあ......そうですか......片手挿管やるしかないのか......。

大先生)まあ、頑張ってみたまえ。何事も最初は難しいものだ。「αρχη ημισυ παντος(アルケーへーミシュパントス)」(始まりは全ての半分)というではないか(笑)

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