山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

安全に対する配慮

2010-04-06 18:47:31 | Weblog
 先日行われた選抜体重別を見ていて「危ない」と思ったシーンがあった。ブログのコメントにも寄せられていたが、66kg級の決勝戦で海老沼選手が腰車をかけた際に頭を突っ込むような形になった。審判は協議の結果、反則とはしなかった。反則であったかどうかについては、近くで見ていた審判員やジュリー(審判員を補佐、監督する役目)が判断したので問題はないと思うが、見ている限りにおいては非常に危険な技だと感じた。技をかけている本人は投げることに必死なので怖さや危険であるという認識は無いと思うので、周りの人間がビデオで見せるなどして指導をしてあげるべきであろう。事故というのは一度でも起きてしまえば取り返しがつかない。勝負云々の話しではなく、命に関わるのである。また、世界に出て行く選手がかける技は往々にして子供達も真似する傾向にあるので余計に心配である。おそらく、ほんの少し意識を変え、気をつければ安全かつ威力のある技となるに違いない。
 先週、「全国柔道事故被害者の会」(仮称)が発足したというニュースを見た。柔道で我が子を亡くされた方、重い障害を負った子供の家族の方で立ち上げられた会である。記事によると1983年~2009年の27年間に柔道の授業や部活動で死亡した中学・高校生は108人にも上るという。おそらくこの数字は他のいずれのスポーツよりも高いに違いない。学年別では中学・高校ともに1年生が多かったという。受け身などの技能面はもちろん、体力的にも未熟な初心者が事故に遭いやすいと言えるだろう。この会の目的は、柔道を批判するものではなく、事故にあった家族への支援や再発防止を呼びかけていくものであるという。子供が事故にあって亡くなった場合の遺族の悔しさや悲しみ、やり切れなさは察するにあまりある。そういった方々が柔道を憎んだとしても責めることはできないが、前向きに活動をされていくことには頭が下がる思いである。
 柔道は心身を鍛えることのできる素晴らしいものだと思う。しかしながら、身体接触を伴う格闘技であることから危険と隣り合わせであることも事実である。このことを指導者は十二分に認識した上で指導を行わなければならない。どんなに注意をしていても防ぎようのない事故はあると思う。車の運転も同じだと思うが、慢心や油断が事故を誘発することも多い。そういった意味でも、私達指導者は、常に細心の注意を払っていく必要がある。また、自動車事故がそうであるように「どのような状況で事故は起きたのか」「何が原因であったのか」といった事例を多く共有することも必要だと思われる。「全国柔道被害者の会」とも柔道界は積極的に連携をとって活動していくべきであろう。
 他方、柔道や受け身が命を救ってくれることがあることも私達は忘れてはならない。「自動車事故で何十メートルも飛ばされたが受け身をとって助かった」という話しは時々耳にする。柔道の厳しい稽古が社会に出たときにも役立ったという人も多い。
 平成24年から中学校において武道が必修化されることで、これまで以上に柔道を経験する子供達が増えるはずである。柔道の素晴らしさを伝えていくことはもちろんだが、同時に危険な部分を併せ持っていることを認識し、安全で効果的な指導を行っていく方法を探っていかなければならない。

全国柔道事故被害者の会