山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

グランドスラム東京2

2009-12-14 23:16:06 | Weblog
 グランドスラム東京大会、日本は男女ともに活躍した。特に女子はある程度予測はあったが全階級制覇は素晴らしい。今の日本女子の実力を考えれば当たり前と思う部分もあるが、評価に値する。来年の世界選手権は一カ国2名の出場枠を認めるとなれば日本女子が非常に多くのメダルを獲得することはもちろん、決勝が日本人同士となる階級もいくつかでるだろう。このことが世界柔道という観点で見ればいかがなものなのかという議論はあるだろうが・・・。

 男子も7階級中4階級を制したのは立派であったと思う。66kg級の海老沼選手に代表されるように今後さらに期待できる若手もでてきた。「男子完全復活」という見出しもあったが、世界選手権、オリンピックとなるとこう簡単にはいかないのも現実として認識しておく必要はある。今大会は日本人が各階級4人出場した。つまり、一人が強豪を一人ないし、二人倒せばよい。しかし、世界選手権、オリンピックではそうはいかない。来年から出場枠が二人になるといっても四人で迎え撃つプレッシャーとは違う。

 海外の選手にとってクリスマス前のこの時期は調整が十分ともいえない。通常は新年度のシーズンに備えて鍛える時期に充てており、この大会も「勝つ」ことよりも練習の一部と割り切って闘っている選手も多い。大会を主催する側とすれば、そういった海外の選手にどのようにモチベーションを持たせるかも大会を盛り上げる要素となる。まあ、これはこの時期に開催してきた長年の課題であり、いまだ妙案はないのが現状だろう。

 日本人が活躍した背景には、朽木倒や肩車といった技が規制された新しいルールによる部分もある。組み合ったときのプレッシャーが全く違う。また、このルールが適用されて(今でも試験的な適用)間がないために、海外の選手が対応できていないこともある。ただし、朽木倒や双手刈などは時間をかけなくても習得できるが背負投、内股といった技は習得に時間がかかるために来年度のシーズンまでにどのように修正できるかも興味深い。

 新しいルールの効果は大きく柔道が様変わりした。姿勢も起きて、組み合って柔道が行われるようになった。このことは評価に値する。しかしながら、何度もいっているが、これまであった技が2度かけると反則負けとなるルールはいかがなものかという疑問も残る。相手に奥をとられて頭を下げられた時などは掬投や肩車は効果的な技である。確かに極端にこういった技が増えたことは問題だとするのであればせめて「仕掛けてもかからなかった場合には指導」とする、「リスクをおかして仕掛けて技が決まった場合には認める」といった程度でよいのではないだろうか。

 今大会は審判のレベルも低かったように思う。「かけ逃げ」なのか技の失敗であるのかも見分けがつかない、やたらと「指導」が多いなど、審判がせっかくの好試合を台無しにしているケースがあった。審判の技量もさることながら、センターテーブルの指示を怖がって怯えて審判をするあまり、試合に集中できていないのかとも見えた。

 せっかくルールを変えて柔道をよくしようとしても、一方で反則ばかりで試合が決していくのでは片手落ちである。今大会の集計はみていないが、技での一本勝の割合は減ったのではないだろうか?それに比べてペナルティーの割合は増えたのではないか?

 テレビ中継も階級に偏りがあったのがいつもながら残念。また、もっと海外の選手の闘いにも焦点をあてて欲しい。映るのが日本人ばかりではテレビを見た人は国際大会とは思わないかもしれないほどだ。また、100kg級の決勝の後、勝った高橋選手ではなく負けた鈴木選手をカメラが追っていたのも印象的だった。高橋選手のインタビューが始まってもオーロラビジョンには鈴木選手の映像が映っていた。もちろん、スターを追うのは良いが、スポーツは筋書きのないドラマであることが魅力である。演出もある程度は大事なのは理解するが、スポーツの根源的な魅力を忘れてはならない、と思う。