山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

シンポジウム

2009-12-05 22:21:10 | Weblog
 本日、日本体育学会茨城支部および筑波大学主催によるシンポジウムが筑波大学にて行われた。テーマは「嘉納治五郎の偉業:柔道の創始・普及と教育改革」で、3人のシンポジストがそれぞれのテーマで発表し、その後ディスカッションが行われた。

山口 香 (筑波大学) 「アメリカに渡った女子柔道-福田敬子先生の足跡-」
永木耕介(兵庫教育大)「ヨーロッパにおける嘉納の柔道普及の足跡」
大谷 奨 (筑波大学) 「嘉納治五郎による教育改革」

 嘉納先生は筑波大学の前身である東京高等師範学校の初代校長先生である。来年が嘉納師範生誕150周年であることを記念して今年、来年と様々な行事が行われる。今回のシンポジウムもその一つである。

 私は、女子柔道の歴史、嘉納師範の女子柔道に求められたもの、福田敬子先生の足跡を簡単に述べた。以下、簡単に内容を示す。

 嘉納師範は早い時期から女子に道を開かれた。初めは直接指導をするのではなく、弟子に指導を任せていた。その後、自ら女性の弟子を自宅に住まわせて指導をするようになると、食事療法、鉄アレイでの段階的なトレーニング、「柔の形」と受け身の指導、大学病院での定期的な検診を行っている。そして乱取りにはいる前のハードルとして富士登山も行っている。師範は女子の指導に関しては自信がなかったこともあって、とても用心深く、科学的に進めていたことがわかる。

 師範は奥様やお嬢様にも柔道を指導している。お弟子さんの話しによると夜中でも技等を思いつくと実践してみたくなって奥様に相手を頼んだという。

 また、師範は「体力的に優れた男性による力技の柔道よりも、体力のない女性の柔軟さの中にこそ真の柔道が受け継がれる」と考えられていたという。

 一方で、女子の試合には当初は否定的であった。それは当時の女性の体力や社会的な背景が影響していたと考えられるが師範の考えを弟子達は引き継いでいくことになり、このことが女子に試合という道を開くのが遅れたことも事実であろう。

 福田先生の話しは以前にも紹介したのでここでは省く。

 最後に、「現在、女子には試合の道が開かれ男子同様に活躍している。試合という道を歩んでもなお嘉納師範が女子柔道に求められた思いに私達は答えていかなければならないと思う。」と発言した。

 嘉納師範は柔道を創始されたことはあまりにも有名だが、教育者としても功績が大きい。アジア初の国際オリンピック委員でもある。高等師範校長の時代には中国から8千人もの留学生を受け入れている。その中にはあの魯迅もいたそうである。シンポジウムではそういった柔道以外での師範の功績が語られた。国際的な戦略もそうである。どの話しも非常に興味深かった。

 私以外のお二人の発表については次回以降で。