山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

武道必修化

2009-09-29 16:48:59 | Weblog
 平成20年、新しい中学校学習指導要領が告示され、「1学年、2学年においてはすべての生徒に武道を履修させること」になった。必修化のねらいは武道の持つ教育的価値、生きる力を育むといった期待であろう。全面実施は24年度からであるが、準備は様々な形で進んでいる。

 武道の必修化は柔道にとって追い風とばかりは言えない。授業で実施されるとなれば、保健体育科教員が指導にあたることとなり、柔道の専門家でない可能性も高い。さらに、施設の面でも充実している学校はどのぐらいあるだろうか。こういった状況の中で授業が展開されることによって準備を怠れば、かえって柔道のイメージを悪い方向に持っていきかねない。

 これまでも一般の人の柔道のイメージが授業でのそれが多く、「受け身だけで終わった」「痛い」「くさい、面白くない」といったネガティブなものだ。

 私自身、現在、新しい教科書の「柔道」パートを受け持って執筆している。参考のためにこれまでの教科書や参考書のようなものを一通り見てみた。どれも大きな差はなく、一通りを如才なくカバーしている。専門家の私たちが見れば問題ないが、柔道が専門でない先生がみてわかるかどうかという点では疑問もある。また、指導のしかたも昔からそれほど変化もしていないのかもしれない。

 例えば、支え釣り込み足や膝車などがはじめに出てくるが、初心者にとって危険は少ないが体さばきなどは難しい。大腰も初心者には定番だが、初心者の女の子には意外と肩への負担が大きい。子供達の体力も昔と今ではずいぶん違う。体格は良くなったが体力は落ちているのが現状だ。

 投げたり、投げられたりという柔道の醍醐味を味わいたいという生徒も多い反面、はじめから拒否してしまう生徒も少なくない。

 全柔連でも必修化に向けて取り組みを始めているが、それだけでは足りないかもしれない。おそらく外部指導者の要請などもでてくるだろう。柔道を知っているということと、短い期間で柔道の楽しさや醍醐味、達成感を味合わせるというのは違う技術だともいえる。

 先日もある地区に頼まれて指導者講習会を行ったが、私たちが考えているものと一般の人が教えてほしいとのぞんでいることに違いがあることもわかった。こういった溝のような部分はおそらく実践でしか埋まっていかない。

 強化も重要だが、普及も重要だ。必修化をチャンスと捉え、柔道界が積極的にイニシアチブをとって指導力を発揮していくべきだと思う。そしてこれを機会に初心者指導のバイブルのような物を作成してもよいだろう。