クラスで唯一のオーストラリア人、中国名は「マーイーファン」。
奥さんは年上の中国人らしい。
授業初日、前の席でやたら喋るおっちゃんがいた。
英語訛りの中国語で、よどみなく喋る、喋る、喋る。
外見?「中年オーストラリア人」と聞いて、ぱっと思い浮かんだ姿、それがマーイーファン。
最初はいささか煩わしかったが、今もなお煩わしい。
とにかく話が長くて、先生からも「マーイーファン、もういいわ。」と言われる。
口調がまた小憎たらしい。
はっきり言って話している内容はよくわからないが、まず憎たらしい。
クラスメイトが自国の紹介をするPPTでは、最後に必ずマーイーファンがその子に質問をする。
質問の内容は主に歴史。「それは何年の出来事?」とも聞いてくる。
あたしには「ナカソネ」のことを聞いてくる。
自分のPPTでは30分の持ち時間のところを授業時間50分フルに使っていた。
そんな愛すべきマーイーファン。
底知れぬ魅力を感じたのか、当初あたしに懐いていたベトナム少年たちが、いつの間にかマーイーファンに乗り換えていってしまった。
休み時間ベトナム少年たちに囲まれ、まんざらでもない様子のマーイーファン。
傍らから見ると、小遣いをくれる親戚のおじさんみたい。
授業中、“面白眼鏡が壊れて面白くない眼鏡に買い換えた山崎邦正”といやらしい笑い声を発しながらおしゃべりに夢中になり、いい歳して先生に注意される、少年の心を持ったマーイーファン。
嫌いではないが、授業中の発言がくどくて、時々「黙れマーイーファン」と思うことがある。
そのことをゆっちゃんに思い切って話したら、ことのほか盛り上がった。
「黙れマーいーファン……戦隊物のサブタイトルみたいで、リズムがいいね。」
「“ありがとうマーイーファン”は?」
「死んじゃうじゃん」
「………すごくひどいフレーズ思い付いちゃった。」
「なに?」
「帰れマーイーファン」
大爆笑だった。あたしたちはこんなにもマーイーファンを愛している。
ある日ゆっちゃんと二人で外文楼のエレベーターで1階に下りた時、開いた扉の向こうに立っていたのがマーイーファンだった。
マーイーファンと挨拶を交わして別れた後、ゆっちゃんが言った。
「開いてマーイーファン」
大笑い。
「黙れマーイーファン」と思っているのは他にもいるはず。
見つけた。休み時間を過ぎても先生にくどくど話しかけるマーイーファンを冷ややかな目で見る“学級委員”。
あたしは堪らなくなって言った。「先生、授業始めましょう!」
確認してみると、“学級委員”もやはり同じ思いだった。
もうひとつ、彼女と同じ思いがあった。
「聞きたいことがあるなら、家帰って奥さんに聞けばいいのに」
私たちは青い瞳をしたマーイーファンを愛している。
中国中の留学生が集まって明日から何かやるらしい。
奥さんは年上の中国人らしい。
授業初日、前の席でやたら喋るおっちゃんがいた。
英語訛りの中国語で、よどみなく喋る、喋る、喋る。
外見?「中年オーストラリア人」と聞いて、ぱっと思い浮かんだ姿、それがマーイーファン。
最初はいささか煩わしかったが、今もなお煩わしい。
とにかく話が長くて、先生からも「マーイーファン、もういいわ。」と言われる。
口調がまた小憎たらしい。
はっきり言って話している内容はよくわからないが、まず憎たらしい。
クラスメイトが自国の紹介をするPPTでは、最後に必ずマーイーファンがその子に質問をする。
質問の内容は主に歴史。「それは何年の出来事?」とも聞いてくる。
あたしには「ナカソネ」のことを聞いてくる。
自分のPPTでは30分の持ち時間のところを授業時間50分フルに使っていた。
そんな愛すべきマーイーファン。
底知れぬ魅力を感じたのか、当初あたしに懐いていたベトナム少年たちが、いつの間にかマーイーファンに乗り換えていってしまった。
休み時間ベトナム少年たちに囲まれ、まんざらでもない様子のマーイーファン。
傍らから見ると、小遣いをくれる親戚のおじさんみたい。
授業中、“面白眼鏡が壊れて面白くない眼鏡に買い換えた山崎邦正”といやらしい笑い声を発しながらおしゃべりに夢中になり、いい歳して先生に注意される、少年の心を持ったマーイーファン。
嫌いではないが、授業中の発言がくどくて、時々「黙れマーイーファン」と思うことがある。
そのことをゆっちゃんに思い切って話したら、ことのほか盛り上がった。
「黙れマーいーファン……戦隊物のサブタイトルみたいで、リズムがいいね。」
「“ありがとうマーイーファン”は?」
「死んじゃうじゃん」
「………すごくひどいフレーズ思い付いちゃった。」
「なに?」
「帰れマーイーファン」
大爆笑だった。あたしたちはこんなにもマーイーファンを愛している。
ある日ゆっちゃんと二人で外文楼のエレベーターで1階に下りた時、開いた扉の向こうに立っていたのがマーイーファンだった。
マーイーファンと挨拶を交わして別れた後、ゆっちゃんが言った。
「開いてマーイーファン」
大笑い。
「黙れマーイーファン」と思っているのは他にもいるはず。
見つけた。休み時間を過ぎても先生にくどくど話しかけるマーイーファンを冷ややかな目で見る“学級委員”。
あたしは堪らなくなって言った。「先生、授業始めましょう!」
確認してみると、“学級委員”もやはり同じ思いだった。
もうひとつ、彼女と同じ思いがあった。
「聞きたいことがあるなら、家帰って奥さんに聞けばいいのに」
私たちは青い瞳をしたマーイーファンを愛している。
中国中の留学生が集まって明日から何かやるらしい。