社会を見て、聞いて、感じる。

人生そのものがフィールドワーク。

5月8日(土)

2010年05月10日 23時00分06秒 | 2010年

  4時半起床。5時半前に家を出て、羽田空港へ。京浜東北線の中で眠ってしまい、気が付いたら田町だった。慌てて電車を降り、浜松町へ引き返す(よく考えたら、そのまま品川まで行って京急に乗り換えるという方法もあった)。搭乗口で軽めの朝食をとり、07:40発のJAL1431便で徳島阿波おどり空港へ。飛行機にしては珍しく、時間通りに到着した。空港からは、タクシーで霊山寺(一番札所)へ。車内で白衣に着替え、準備万端の状態で到着する。

  霊山寺に到着後、本来はここで巡礼用品を揃えると便利なのだが、私は事前にネット通販で一通りのものを揃えていたので、すぐにお参りを始める。ちなみに、金剛杖は弘法大師の化身であって遍路には欠かせないものだと言われているが、どう考えても歩くのに邪魔なので、今回は購入を見送った。それぐらいで怒るほど、弘法大師の器が小さいとは思えない。さっそく本堂と大師堂にお参りし、納め札を納める。さすがは国内で最もメジャーな巡礼地だけあって、境内にはたくさんのお遍路さんがいた。しかし、その分納経所の窓口も多く、御朱印をもらうのに時間がかかるということはなかった。


いざ、発心。


山門(上)と本堂(下)

  霊山寺(1番)から極楽寺(2番)までは、1.4キロしかない。しかも、見渡す限りの自然に囲まれて歩くので、本当に一瞬で着いたように感じた。極楽寺は安産祈願で有名らしく、それをうかがわせる仏像も立っている。また、一番の霊山寺同様に参拝者も多く、「お遍路ブーム」を実感させられた。


山門


自然いっぱいの境内


本堂前にて


子授招福大師

  極楽寺から金泉寺(三番)までは、2.6キロ。歩き始めてすぐに、目の前の車から降りてきたおじいさんに声を掛けられる。「これは、さっそくお接待か?」と思ったら、民宿の勧誘だった。申し訳ないが、「もう予約をしてありますので」と丁重にお断りする。全く、期待外れもいいところだ。しかし、その後すぐにお接待を初体験することになった。住宅地を歩いていた時に、軒先から「お接待いたします」とおばあさんが出て来られて、お茶と手作りのお賽銭袋をくださったのだ。お礼の納め札はお大師様へ預けて欲しいとのことだったので、丁寧にお礼を言ってから再び歩き始める。初めてのお接待は、なかなかの感動ものだった。特に印象に残ったのは、そのおばあさんの姿勢が「お接待してあげる」ではなく、「お接待させて頂く」というものだったことである。そこにはやはり、「お遍路さんは弘法大師と同行二人で歩いている」という前提があるのだろう。そして、私たちお遍路さんは、その方々の想いも背負って歩いていくことになるのだ。


人生初のお接待。

  金泉寺(三番)には、歩き遍路道を通って裏から入る。大師堂では、先ほどのおばあさんの分も納め札を納め、般若心経もより丁寧に唱えた。これで、少しでもあのおばあさんにご利益があればいいのだが。その後、境内で少し休憩。この頃(10時半過ぎ)には気温もだいぶ上がってきており、結構な量の汗をかいていた。


上から順に、山門、本堂、大師堂。

  金泉寺を出て、大日寺(4番)を目指す。距離はちょうど5キロ。この辺りから、本格的な遍路道に入る。要は、「こんなとこ入ってくの?」というような、ほとんど人が通っていなそうな道を歩くことになるのだ。足元の草を踏む度に周りで色々な音がして、蛇ではないかと恐れながら次の一歩を踏み出す。しかし、これは今日全般(そしておそらくは、四国遍路全般)に言えることなのだが、道標が所々にきちんとあるので、道に迷う心配はほとんどなかった。このように、徒歩巡礼のインフラが整っているのは、四国遍路ぐらいのものだろう。 

  何度か休憩を挟みながら、1時間半ほどかけて大日寺(4番)に到着。大日寺は、山に囲まれたお寺である。この頃になると暑さもひどくなり、般若心経を唱えながらも額から汗がポタポタと落ちてくる。まだ5月とはいえ、歩き遍路にとってはなかなか厳しい気候だ。


上から、山門、本堂、大師堂。


綺麗な紫色をしている。

  大日寺から地蔵寺(5番)までは、2キロしかない。しかも、ほとんどが緩い下り坂なので、本当にあっという間だ。このお寺では、大師堂が印象に残った。写真を見て頂ければわかると思うが、一部にカラフルな装飾(?)が施されているのだ。四国遍路は全部で88箇所もあるので、中にはどんなお寺だったのか思い出せないようなところも出てくるだろうが、このようなワンポイントがあると、後々記憶に残るだろう。


上から、山門、本堂、大師堂。


カラフルな装飾たち(大師堂)

  地蔵寺から安楽寺(6番)までは、5.3キロ。今日は安楽寺の宿坊に泊まるので、ここがラストスパートなのだが、その前に一旦道を外れてローソンで昼食をとる。ここには、(おそらくお遍路さん用に)店内に食事スペースが置かれており、快適に食事をすることが出来た。その後、ラストスパートに入る。しかし、このラスト5キロが大変だった。距離というよりも、高い気温に体力を奪われていく。途中で何度も休憩をして、道行く人からの励ましの言葉も力に、1時間半かけて何とか歩き切った。


こういう看板が所々にある。

  安楽寺は、少々派手なお寺である。全体的に明るい建物が多く、見ていて楽しい。参拝後、そのまま宿坊にチェックイン。まず最初に、料金の支払いにクレジットカードが使えることに驚いた。お寺の方(後に住職であることが判明)曰く、「昔は私たちも、『お寺でクレジットカードなんて!』と思っていたけど、これも時代の流れですね」とのこと。他にも、お寺独自のHPを作成したり、宿坊のインターネット予約を始めたりと、お寺らしからぬ先進的な活動をされているそうだ。


これまた上から、山門、本堂、大師堂。


よく手入れされた庭園だ。


宿坊入口

  部屋に案内して頂いたあとは、さっそく入浴。温泉で汗を流したら、一気に体が軽くなった。その後は、せっかくなので宿坊内を探検する。安楽寺の宿坊は、四国遍路最古の宿坊で、400年も前からあるらしい。しかし、設備は特に古いということもなく、むしろ想像していたよりも近代的だった。


六畳一間の簡素な部屋


部屋からの景色


廊下


ロビーの様子


かつて、お殿様やその家来たちが泊まった部屋らしい。


中庭


探検の後は、しばらく休憩。

  18時から夕食。全員で「食前の言葉(一粒の米にも万人の苦労がかけられています。一粒の水にも天地の恵みがかけられています。ありがたくいただきます。)」を唱えてから食べ始める。食べながら、同じテーブルになった方々(2人組+1人+私)で色々とおしゃべりをする。たまたま全員が歩き遍路だったのだが、その中の1人(2人組の1人)が現在6周目という方で、興味深いお話をたくさん伺うことが出来た。


精進料理かと思いきや、左上に海老の天ぷらがある。

  その後、19時から本堂でお勤め。般若心経に始まり、様々なお経を唱えた後、お寺の歴史についてのお話があり、最後には普通の参拝客が見られない仏像や資料などを見て回る。御本尊にも直接触れることが出来、とても良い思い出になった。やはり、どうせ泊まるなら、多少不便な点はあっても宿坊のほうが良い。

  20時前に部屋に戻り、テレビを見たり、1日を振り返りつつこの日記の原稿を考えたりしながらゆっくりと過ごす。窓の外では、虫や蛙がしきりに鳴いている(日中には、鳥のさえずりがよく聞こえた)。こういった自然の音楽に触れる機会も、なかなか貴重なものだろう。就寝は、22時半(だったと思う)。