24人死亡の大阪ビル火災 元上司が語る放火の容疑者の素顔「妻と離婚後、長男を刺す」〈dot.〉

大阪市北区曽根崎新地1の雑居ビルにある心療内科クリニックで24人が死亡した放火殺人事件で、大阪府警は19日、クリニックの患者だった谷本盛雄容疑者(61)が事件に関与した疑いがあると公表した。逮捕前に容疑者名を公表するのは異例だ。
12/19/2021
【写真】放火容疑で氏名が公表された谷本盛雄容疑者の素顔
谷本容疑者はかつて大阪市内の板金工場で働いていたという。 「梅田で放火、その前に西淀川区の自宅で放火とニュースで聞いた時、『ひょっとしてタニさんかも』と胸騒ぎがした。まさか、こんな大それたことをするとは…」 工場の従業員とともに谷本容疑者が写った写真を手に話すのは、かつて働いていた板金工場の社長だ。
谷本容疑者は2004年から8年近く、板金工場の職人として仕事をしていたという。 「もともと、谷本容疑者の父親も板金工場をやっていた。高校を卒業し、そこで仕事をしていた。谷本容疑者の兄が父親の跡を継ぐことになり、うまくいかなくなった。腕がいいと聞いて、うちにきてもらった」(社長)
屋根などの板金が中心だった工場で、谷本容疑者は期待通りの働きをみせたという。
「谷本容疑者よりも年上の従業員もいたが、腕は達者で、工場でも一番。若い従業員にも丁寧に技術を教え、慕われるような存在だった。この写真も若い従業員に囲まれて、14、5年前に撮ったもんや」
社長はこう振り返る。そんな谷本容疑者に変化があったのが、板金工場で仕事をするようになって、5年ほどした時だった。
「普段、家族のことはほとんど話さない谷本容疑者から『妻とうまくいかない、離婚しようかと思っている』と相談された。それからしばらくして『妻と別れた。長男は自分が引き取り、次男は妻が面倒を見る』と言っていた。それから人格が変わった」
2008年7月末に一度、谷本容疑者は「他にやりたいことがある」と板金工場を退職。だが、1年後の09年8月に再度、社長に連絡し、「やり直したい」と話した。そして板金工場で仕事をまた始めたという。
だが、10年8月末から急に無断欠勤が続き、連絡がとれなくなってしまった。結局、連絡がつかないまま、2か月後に退職となった。
そして11年11月、谷本容疑者は事件を起こす。大阪市内で長男の頭部などを包丁で刺し、殺人未遂容疑で逮捕されたのだ。
「谷本容疑者はしばらく刑務所にいたようだ。谷本容疑者は腕はいいが、職人気質というのか、カッとなることがある。ワシが『こうやった方がいいんじゃないか』とアドバイスしたりすると、顔を真っ赤にして『なんや』と怒りを露わにする。そして、しばらくはまったく口をきかない。気が短い男だった。今回も何らかの事情でブチ切れてしまったのかもしれない」(社長)
大阪府警の調べで、谷本容疑者は西淀川区の自宅に放火した後、自転車でクリニックに向かったという。雑居ビルに到着すると、すぐさまエレベーターで4階のクリニックに上がり、無言で紙袋を温風機の側に置き、倒して火が付いて広がった。
「消防の放水もあって、防犯カメラが水浸しになったが、なんとか復旧することができた。その映像から谷本容疑者は温風機の側の紙袋を蹴り、火がついた後も、避難する様子はなかった。他の患者が逃げられないように谷本容疑者が火の中に入るような素振りもあった。それだけ強固な殺意があったと思われる。火が出る前に谷本容疑者がしゃがんでいる様子が防犯カメラに映っていた。別の何らかの方法で紙袋に火をつけたようだ。しかし、ライターなどは発見されていない」(捜査関係者)
病院搬送時に谷本容疑者の持ち物を確認すると催涙スプレーのようなスプレー缶2本が胸ポケットにあったという。
「抵抗された時に使用するつもりだったのか。谷本容疑者がエレベーターをおりて、火が広がるまでわずか1、2分。用意周到、計画的な犯行と言える。雑居ビルの階段に落ちていた財布からクリニックの診察券、運転免許証が確認されたこともあり、谷本容疑者と特定できた」(同前)
谷本容疑者は顔や両手足の甲、のどの奥の気道にも重度のやけどを負っていたという。現在、重度の一酸化炭素中毒による重体で話が聞ける状況ではないという。
谷本容疑者が通っていた飲食店の店主は数か月前の様子をこう話す。 「いつもはおとなしい、いい人ですよ。それが酒を飲むと変わってしまう。『うまくいかないことばっかりだ』とよく酒を飲み、文句を言っていた。心療内科に通院しているが、『クスリばっかりがたくさん出されるがあわない』と話していたこともあった。放火なんてできるような肝っ玉がすわったような人ではなかったが…」
大阪府警は亡くなった24人のうち、クリニック院長の西沢弘太郎さん(49)ら8人の身元が新たに特定されたと発表した。何が谷本容疑者を凶悪な犯行へと駆り立てたのか。真相解明が待たれる。
(AERAdot.編集部 今西憲之)