散日拾遺

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ジーナ・ルック=パオケ再論

2014-07-16 07:06:48 | 日記
2014年7月16日(水)
 ジーナ・ルック=パオケはケルン生まれ。母は理容師、父は歯科医。ギムナジウムに通ったが、中等部卒業の直前に退学した。
 "効率追求、適応への強迫、不誠実、そんなことばっかり。同じ内容でも、もっと新鮮な空気の中で学べるはずじゃないかしら。それに人間の本性とか、恋愛とか、何より大事なことがカリキュラムには全然出てこないんだもの。"
 彼女は歯科助手の職に就き、専門学校に通い、モード・サロンで働き、ファッションモデルや写真のモデル、広告アシスタント、調停代理人、裁判レポーター、フォトジャーナリストなどを経験した。こうして学びを広げ、後には心理学を勉強した。
 ジーナ・ルック=パオケは子供や若者向けの作品を170点出版している。詩をはじめ、ドラマ・演劇脚本などである。作品は多くの言語に翻訳され、何度か大きな賞を受けた。2000年をもって児童文学の創作を終結し、以後はミュンヘンで心理臨床の実践に没頭する傍ら、成人読者を対象としたテキストを執筆している。
 "人々や動物とのたくさんの出会いがありました。アラビアなど海外にも旅行しました。私の関心事は何か、と訊かれるのですが、それは何よりも他者(Anders-Seins)を受け容れること、異邦の人々(Fremd-Seins)を受け容れることです。だから私の物語は、社会の辺縁にある人々の生活を好んでとりあげるのですね。"
"あなたは幸せですね?"
"子どもたちによく言われます。"

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 たぶん、こんなところだ。
 「異邦の人々」と訳した Fremd-Seins には注意が要る。単に「外国人」を意味することもあるが、fremd は「よそよそしい」とか「疎遠な」とかいう含蓄をもち、国籍などの外的条件にかかわらず心理的に私にとって縁遠い存在を、全て包含し得る。
 そのような相手を受け容れることが、ジーナ・ルック=パオケの文学のテーマだった。
 関先生が教材にとりあげた意味が、今にして感じられる。