兵庫県尼崎市が昨年7月、勤務時間中の禁煙をうたった「市職員たばこ取組宣言」を市長名で出したところ、勤務時間中に喫煙する職員が約300人に半減したことが分かった。ただし、宣言直後はゼロだっただけに、「のど元過ぎれば」との見方もあり、禁煙徹底の難しさが浮き彫りになった。専門家は「喫煙で離席するのは職務放棄にほかならない。今後は敷地内禁煙や宣言を就業規則に格上げするなど、段階的に進めていくべきだ」と指摘する。(加納裕子)

喫煙所に張られた宣言文

 尼崎市役所で勤務時間中に喫煙する職員の数を調べたのは、市民団体「兵庫県タバコフリー協会」。まず平成27年7月、尼崎市役所地下駐車場にある職員用喫煙所をメンバーが観察し、午前9時〜午後5時半の勤務時間内に訪れた人数を数えたところ、一日に延べ644人多くの職員が昼休みをとる正午から午後1時の97人を除くと、547人がたばこを吸っていたことが判明した。

 28年7月に宣言が出されたため、今年5月に再調査。この結果、正午〜午後1時を除く喫煙者は延べ291人、53%とほぼ半減していた。同団体は宣言前の27年、1回の喫煙にかかる平均離席時間を10分として、年間約7708万円の給料がこの休憩時間のために支払われたと推計。税金の無駄遣いも半減したことになり、薗潤会長は「市職員たばこ取組宣言には、著明な効果があった」と話す。

 宣言は稲村和美市長名で出され、(1)指定場所以外での喫煙や歩きたばこをしません(2)勤務時間中は禁煙します(3)たばこを吸う場合は、他人にたばこの煙を吸わせないように配慮します−の3項目。宣言文はホームページで公開されたほか、印刷されて職員専用喫煙所にも張られた。同市人事課によると、宣言を出した直後には勤務時間中に喫煙所を訪れる職員は1人もいなくなったという。

税金の無駄遣い…喫煙所廃止の提言も

 だが、それから約1年が経過して、半数の職員が再び勤務時間中に吸っていたことが明らかに。そしてそれが黙認されている。なぜなのか−。

 尼崎市人事課は「たばこのために離席するのは職務専念義務違反という指摘もあるが、国はそうした見解ではなく、強くは言えない」と説明する。

 そもそも宣言の目的は、職員を職務に専念させるためではないという。28年5月、稲村市長が、受動喫煙の防止や禁煙支援、喫煙マナーの向上などに取り組む方針を「尼崎たばこ対策宣言」として発表。「市職員たばこ取組宣言」はその2カ月後、こうした課題にまず市職員が自主的に取り組むとの趣旨だったため、市長が作成したといっても拘束力はないとしている。

 一方で、薗会長は、職員が勤務時間内に喫煙することの問題点について、「喫煙している時間は仕事への対応が不可能だ。他の職員に負担がかかったり、残業が増えたりしている可能性もあり、税金が無駄遣いされている」と指摘。今回の調査結果を6月、稲村市長と市職員労働組合に書面で送り、職員用喫煙所を廃止するよう提言した。

 ただ、市保健所によると、別庁舎でゴミ収集を担う環境部事業課では、ヘビースモーカーの部長が勤務時間中の禁煙を率先した結果、喫煙所があっても勤務中に喫煙する職員はいなくなったという。保健所の担当者は「喫煙所をなくしても、遠くで吸うようになって離席時間が長くなるなら意味がない。地道な啓発を続け、吸わない雰囲気を盛り上げていきたい」としている。

加速する自治体庁舎の建物内禁煙…でも勤務時間内禁煙は約1割

 自治体庁舎での喫煙をめぐっては、厚生労働省が平成22年、多数の人が利用する公共的な空間については原則として禁煙とするべきで、少なくとも官公庁や医療機関は全面禁煙が望ましい−とする方向性を示したことをきっかけに、建物内禁煙の流れが加速した。

 産業医科大の大和浩教授(喫煙対策)が全国の都道府県庁や県庁所在市、政令市と東京23区計121自治体を対象に行った調査によると、今年3月時点で約63%にあたる76自治体が、庁舎を敷地内禁煙か建物内禁煙に。一方で、勤務時間内禁煙としているのは14自治体にとどまっている。

 勤務中禁煙には、どんな効果があるのだろうか。大和教授によると、27年1月に敷地内禁煙と勤務中禁煙を打ち出した「リコー」(東京都中央区)では、社員の喫煙率が約5%下がった。大和教授は「喫煙をあきらめるきっかけになり、社員の健康維持や活力の向上にもつながる」とアピールする。

 尼崎市の「宣言」の効果について、大和教授は「何もやらないよりはやった方がよい。一挙には進まないので、段階的に徹底していけば」と話す。一方で、昼休みであっても喫煙した後で執務室に戻ることで、肺に残った有害物質や不快な臭いが部屋中に放出され、第三者が吸い込む「三次喫煙」が懸念されるとして、「勤務する日は、昼休みにも吸わないことが望ましい」としている。

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個人的には、タバコ休憩など認めるべきではないとおもいます。しかし、現実的には、ニコチン依存症の従業員のイライラは募るばかりですから、無下に禁止するのもできません。

一部の民間企業が実施しているように、入社の時点で非喫煙者しか雇わず、非喫煙を続けることを就業条件にするというやり方もあるでしょうが、それが役所でできるのかどうか。

ともあれ、タバコ休憩を取る喫煙者とそれを取らない非喫煙者の間の労働格差がなくなるような工夫は必要でしょう。さもないと、タバコを吸わない労働者はバカを見ますから。