ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

ケース③:Internal Revenue Service (その1)

2007年02月10日 | 公共組織の戦略的経営

 

 米国財務省の外局として、所得税や法人税の徴収、申告書のチェック・管理等を行うInternal Revenue Service(IRS:内国歳入庁)。日本の国税庁に当たるこの組織のホームページを覗いていてみると、

“The IRS is a bureau of the Department of the Treasury and one of the world's most efficient tax administrators."

(IRSは財務省の部局であり、世界で最も効率的な徴税執行機関の一つです。)

と誇らしげな自己紹介文が目に飛び込んできます。思わず“ホンとかよ!”と突っ込みを入れたくなりますが、そのすぐ下には、

“The IRS spent just 44 cents for each $100 it collected in 2005.”

(2005年度、IRSは100ドルの税金を集めるのに、たった44セントしか使ってません。)

とあり、さらに以下のような組織のミッションが掲げられています。

“Provide America's taxpayers top quality service by helping them understand and meet their tax responsibilities and by applying the tax law with integrity and fairness to all. ”

 “IRSは、アメリカの納税者が納税義務を理解した上で果たせるようサポートし、税に関する法律を公平かつ誠実な形で適用することを通して、トップクオリティーのサービスを提供します。”

 このように現在は、顧客(納税者)第一主義、徹底した効率の追求を実践しているIRSですが、つい10年程前は非効率と低品質のサービスの代名詞のような“お役所”でした。

 そもそもIRSは南北戦争の渦中、1862年に戦費徴収のために所得税が創設されたのに伴い設立されました。合衆国の独立が1783年ですから、それ以来100年近くの間、連邦政府は国民から直接税金を取っていなかった(州政府や市政府の税金はありましたが、)ことになる訳です。しかも、所得税は南北戦争後にいったん廃止され、復活をした後も1894年に最高裁判所から、「連邦政府による所得税の賦課・徴収は違憲」である旨の判決が出されてしまいます。

 所得税がアメリカでようやく“市民権”を獲得できたのは1913年。その時も、わざわざ憲法に「連邦議会に所得税の創設を認める権限を与える」旨の修正条項を加える必要があったくらいですから、アメリカ人がことさら“小さな政府志向”である背景の一端が見えるような気がします。

 ちなみにその間、連邦政府は“無一文”だった訳ではなく、その収入はExternal Revenue(外部からの歳入)である関税から賄われていました。そういう意味では、正に所得税の創設を持ってはじめて、Internal Revenue(国内からの歳入)ができた訳であり、それを管理する官庁として、Internal Revenue Serviceの名が付けられたとのこと・・・

 話がややそれましたが、こうして経緯を経て設立されたIRSは、1952年にトルーマン大統領(当時)の元で、初めての大規模組織再編を経験します。そして、驚くべきことに、その後約40年間、IRSは一度も組織の改革をすることなく20世紀の終わりを迎えるに至り、“非効率と低サービスの病理に蝕まれたお役所”として脚光を浴びてしまうことになります。

  こうした中、 「公共組織の戦略的経営」の授業を担当するElaine Kamarck教授が関わったクリントン政権のNational Performance ReviewがIRSに目をつけたのが1996年。議会に設けられたプロジェクトチームによる厳しいReviewによって浮かび上がった数々の問題点を解決するために作られたInternal Revenue Service Restructuring and Reform Act(内国歳入庁 再建・改革法)という法律と、それを実行するために任命された民間企業出身のリーダーCahrles Rossotttiによって、IRSは文字通り生まれ変わったのです。

 それにしても、“非効率の権化”だったIRSが、どのようにしてたった数年で“世界で最も効率的な徴税機関”に変身できたのか?次回以降その経緯を、

 「組織の再構築」、

 「ITシステムの再構築」、

 「顧客とのインターフェースの再構築」、

の3つの観点から見ていくとともに、どうしてこれまで改革が実行されてこなかったのか、今回の改革がなぜうまくいったのか、解きほぐしていきたいと思います。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。