高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

4月13日 不思議な文通 

2005-04-14 | 千駄ヶ谷日記
私の読書の時間は、たいてい寝る前で、新聞や雑誌といっしょにベッドのそばに置いてある本に、「よーし、今夜はこれにしよう」と手をのばすところからはじまる。
でも、睡魔が順調にやってきて、その前に眠りの階段を降りてゆくことも多い。
なかには、昼夜を問わず、その本が自分の人生と同時進行して、どうにも止まらなくなることがある。そういう時、自分が呼吸している間はその本にも呼吸していて欲しくなる。
往復の電車の中、撮影のあいだの ちょっとした待ち時間、私は寸暇を惜しんでその本を抱きしめ、ページをめくる。櫻井よしこ著「何があっても大丈夫」(新潮社)がそうだった。
こういうポジテイブな題名の有名人の本て、ちょっとだけ疑い心が起きるでしょ?(起きないか、、、)でも、この本は私の偏屈な疑念を吹き飛ばすどころか、なんとも言いがたい正統派の重厚感を感じさせた。櫻井さんの母親である以志さんの「なにがあっても大丈夫ですよ」という言葉にぴったりくっついた明るさと苦しみの両方がずしんとつたわってくる内容なのだ。
具体的に説明は出来ないけれど、 小説とか、エッセイとか、そんなカテゴリーは関係ない本当のドラマが描かれている。
たんなる癒し、たんなるポジティブさじゃない、とっても深い、因縁まで含めた人生のポジティブさを描ききった桜井さんの、家族や自分に対しての観察眼、正確な記憶力がすごい。
後半の、ぐんぐんと成長してゆく桜井さん自身の青春の日々に深く納得した。

私にとってアクセサリー、特にブローチは、単に襟元を飾るものだけじゃない。気に入ったチョコレートの箱や缶にそっとおさめておいて、何かの折に眺めたりする永遠の宝物といえる。
そういう心の部分にぴたっと寄り添う絵本がまさしく「ブローチ」(リトルモア・渡邉良重・絵 内田也哉子・文)この本は、心の箱の中に大切にしまっておこうと思う。

不思議な国のアリスのポップアップの絵本、その中でも最後のページのトランプがあふれ出てくるのが大好きだとはなしたら、友だちが「不思議な文通」という絵本を送ってくれた。
ページに封筒がくっついていて、そのなかには手書きふうの手紙がおさめられている。ピョンと飛び出したりはしないんだけど、立体的で素敵だ。
そんななか、渋谷のオーチャード・ホールで、マシュー・ボーンの「白鳥の湖」のリバイバル公演を観た。舞台を見たとたん、これはポップアップの絵本だ、と思った。その絵本からは男性のダンサーによる白鳥が飛び出してきてまさしく夢の舞台だった。

写真 (撮影・Yacco)