高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

11月10日、11日 晩秋の浴衣 

2004-11-13 | Weblog
テレビで、毎年恒例の「そうだ、京都、行こう」という、 JRのコマーシャルの特集をやっていて、歴代CMの 京都の紅葉を観た日、私は下田ロケに出発した。
あの紅葉は猛烈に旅心を誘われる。もしかしたら、下田で、そんな気分を味わえるかもしれない。役得だなーと思うあの一瞬があるかも。

撮影現場は、以前、JR東海の「のんびり小町」の撮影でうかがったことがある由緒ある旅館だった。そのときも、今回も、私は旅館の浴衣と茶羽織を撮影用に作った。旅館でのワンシーンがシチュエーションになっているCMのために、いままでどれだけたくさんの浴衣と茶羽織をつくったことだろう。
既存のものは、なぜか現実的過ぎたり、時代の指向に合わせようと、変にモダンだったりする。現実的でありながら、ちょっとだけ品格や夢というフレイバーをふりかけた浴衣がいい。
この季節、店頭には夏の商品はないので、日本橋の「ちく仙」という浴衣の問屋さんに行く。
以前はその場で在庫の中から選ぶことが出来たが、最近は売れない商品は草加あたりにある倉庫に入れられてしまう。 趣旨を話して、草加まで出向いてもらい、何種類かの柄を出してきていただく。そのなかからさらに選んで、クライアントや代理店のOKをもらう。すばやくこのセレモニーを通過させた反物が、撮影用の衣装となる。茶羽織は、神田や馬喰町の洋服の生地屋をまわって、 いい色のそれらしい生地を探してつくる。こうして、和服でも、和服用の素材にとらわれないで探すこともある。
撮影の世界では、優秀な和服専門のスタイリストが何人もいらして、共同作業をすることも多い。
私は必ず江木さんというかたに相談して、仕立てや着付けをしていただく。去年、巨大居酒屋という設定の時は、いっしょに浅草や日本橋を歩き、和に関するいろんなお店や問屋さんを訪ね歩いた。
名物のおばあちゃんが営むとんかつ屋で昼ごはんを食べ、おばあちゃんの昔話を聞いたりと、おもしろい一日だった。
今回の浴衣は伝統的な浜千鳥の柄。私は伝統柄で、キュートなものが好き。 たとえば、雨につばめ(矢沢永吉さんのボスのとき)とか、ひょうたんがつながっているもの(山崎努さんと豊川悦司さんビールのとき)など。

お天気は下り坂のはずだったのに、薄日もさして理想的な条件で撮影がすすんだ。衣装がえで洋服の方も順調で、1泊2日のロケは無事終了。今回、ゾクっとくる旅愁より(紅葉や木々もまだ緑だったし)、和やかに終わったこと、風邪がなおってしまったことがよかったかな、と思う。