いろいろ舞い上がってもたもたしているうちに、
とうとう千秋楽も終わっちゃっいました。
楽日感想ではありません。
1週間前のものだけど、やっぱり書き残しておきたいので。
『御いのち』
御園座 6月15日(日)12:00 2階7列中央
ただ命があることの尊さ、
その命を生きて輝かせることの大切さ、そして
その命はかたちをなくしても生き続けるという信念。
踊りを通しその身を以って咲が伝えてきたこと、
信吾にはもちろん、わたしの心にも深く刻まれました。
また、己のあり方も考えさせられました。
「武士に己はない」と、信吾は父に言いました。
「踊りにはそれがある。踊りは己を表すことだ。」と。
でも、ひとはどの道であれ、
選んだ道で己を持ち続けることが「生きる」ということだと、
信吾の父の生きざまを見て思いました。
父は、父なりの義や生きざまを以って、
武士として己を生きたのだと思いました。
若旦那の治兵衛や内弟子のお袖には、
ひとを思う気もちのやさしさや温かさを感じました。
彼らは、打算や私情に走らず、
そのひとにとって何がいちばん良いことなのかを
考えてあげられるひとたちでした。
「愛するっていうのは、そのひとが幸せでいられるように、
自分にできることをしてあげるってことなんだよ」
いい台詞でした。
信吾には、思慮に浅く覚悟の甘いところが度々見受けられました。
そのたび咲や父の厳しさに打たれることで、その心も少しずつ
成長していったことでしょう。
そしてこのさき、
己を生きることに誇りと志を持ってその命を全うした
咲と父を思うとき、信吾のなかにしっかりとふたりの命が
生き続けていることに気づくのでしょう。
視覚的にもとても美しい舞台でした。
特に雪道の別れとラストの花の宴は、もういちど観たいくらいです。
雪道では、出奔した息子を自分の手で斬るつもりで
やってきた父と信吾が対峙する重要なシーン。
冷たい雪が静かに落ちては消えてゆくように、
裸でぶつかり合った父子の確執が解けていくようでした。
そして、しんしんと降り続く真っ白な雪のなかで、
信吾と咲の心がぎごちない距離で寄り添うのが、
とても印象的でした。
咲が夢見た舞台、信吾とふたりで舞う花の宴。
満開の桜の大木と衣装を纏ったふたりの、
あまりに美しく幻想的な光景は忘れられません。
美しさのなかにぴんと張り詰めた空気を感じるのは、
この一瞬一瞬にすべてをかける咲の放つ気なのかもしれません。
それをみごとに受け止めつつ、どこまでも師匠を追い続ける
信吾の瞳には、切ないほど健気なものを感じました。
咲の命が、踊りの心(真髄)として信吾のなかに生き続けるさまを、
大好きな歌舞伎舞踊「二人椀久」の印象的な場になぞらえている
ことに、胸がいっぱいになりました。
心洗われるような、背筋が伸びるようなお芝居でした。
良いものを観られて、本当に嬉しく思いました。