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Re=response=応答、感応=物事に触れて心が動くこと。小田和正さんの大好きな曲からいただきました。

『蛮幽鬼』 大千秋楽(2) 

2009-11-29 | 観る、聴く

ラストステージの観劇で強く印象に残ったシーン、続きです。

浮名、空麿たちが次々殺されていくのを目の当たりにした直後の土門。
「俺は・・復讐を果たした。俺は復讐を果たしたんだ・・」
そう自分に言い聞かせるようにして、へたり込んだ土門の目には涙。
自ら手を下すことなくあっけなく、しかし思いもかけぬ凄惨さをもって
幕切れを迎えた己の復讐の結末に、悔しさだとか虚しさだとか悲しみだとか
感じる以前に、茫然自失といった表情でした。
そんな土門に駆け寄り、彼を励まし奮い立たせようと懸命な仲間たち、
ペナン、ガラン、ロクロクの姿に涙が出ました。
しかし彼らの声は土門の耳に届いたのか届かなかったのか、、
「いいや、まだだ!俺はまだ調部の仇をとっていないっ!」と彼らを振り切り
立ち上がった土門には、どこか正気を失ったような感じを受けました。
以前は、そこに正気を取り戻した感じを得た記憶があるのですが。
このとき、土門のなかの何かが狂い始めたのかなと感じました。
そのときから土門の運命がほんとうの悲劇に向かって動き始めてしまった
ということでしょうか。

土門VS蔵人・刀衣の戦い。
3人とも、この日このときの気魄には凄まじいものを感じました。
「弱い、弱すぎる!」とかつての親友であり武人頭の蔵人を嘲るように
嗤う土門がほんとうに恐ろしく見えました。
そして三つ巴の戦い。かっこいいをはるかに通り越して怖いっ!!
刀衣の太一クン。その舞うように流麗な剣さばきに、いつのまにか本格派の
力強さが伴うようになったのを感じました。
それに合わせる上川さんもますます速さと重さを上げているように見受けました。
ここまで積み上げてきた信頼関係の賜物なんでしょうね。
芝居とは思えないほどの闘志のぶつかり合いでした。怖~~!!
結果、「強い!」と漏らした刀衣の驚きが真に迫って聴こえました。
いやはや、ふたりとも怪我がなくて済み、ほんとうによかったと思います(涙)
上川さん、『TRUTH2005』の大楽以来ですね~、あれほどの殺意は。
ほんとうに斬ってしまうんじゃないかとビビりましたよぉ・・。

「調部を殺したのはおまえか?」
「なぜ黙っていた?」
少しずつ真実が見えてきた土門が、サジに問う。
このときの表情があまりに哀しそうだったことに少なからず驚きました。
この事実を受け入れることは、彼にとって怒りよりも哀しみなのだ、と。
しかしそんな彼をさらに弄ぶかのようにサジが答える。
「君が聞かなかったから。」
認めたくなかった真実を突きつけられただけでなく、
同士として抱いてきた信頼を根本から否定された土門。
かつて「俺を裏切る奴は誰であろうと地獄の底へ突き落としてやる!」と
サジの前でいきり立っていた土門。
あらためて思う。しかし、怒りより哀しみなんだと。

土門の傷から毒を吸い出す美古都。
突然全身に痙攣を起こし倒れた土門。すがりつく美古都。
美古都の懐剣に塗られていた毒が原因、その毒を塗ったのが惜春だと
わかるやいなや、蔵人、サジ、刀衣がやりとりをしている後ろで、
美古都が急いで土門の手の傷から毒を吸い出してやっているのに気づき、驚き!
これ、最初からそうでしたっけ!?全然気づいてなかった~~(汗)
言葉にされなくともこんなふうに伝わってくるふたりの間の変わらぬ愛が、
切ないけれど嬉しく思えます(涙)

刀衣VSサジ。
刀衣の太一くん、殺陣とともに芝居もぐんと良くなっていて驚きました。
まだまだ若くやわらかいだけに、まわりから受ける刺激にひときわ大きく
影響されるのでしょうか。
ラストステージに懸ける先輩たちのただならぬ気魄に負けぬ渾身の芝居。
サジから美古都を命を懸けて守ろうとする気概、そうすることへの誇り。
そして、同じ狼蘭族の血が流れる者として、狼蘭の悪魔をその手で
葬り去りたいという思いもあったかもしれません。
サジの斬撃を受けて倒れるも、刀をついてよろよろと立ち上がり、
ふらふらとしながらもサジに気もちだけで立ち向かっていく刀衣の姿には、
太一くんがほんとうに刀衣になれた瞬間であったことを感じました。

動揺するサジ。
堺くんも早い段階からラストステージモードでこってりと芝居している
様子がうかがえましたが、終盤は特に、激しく感情に突き動かされた芝居が
印象的でした。
「わかりたくもないっ!」
他人のために死んでゆく喜び。「おまえには一生わからないだろうよ」と
刀衣に断言されたサジが、激しく感情をあらわにして叫びました。
以前こんなに激しかったっけ・・と思うほどの心の底からの叫びでした。
狼蘭族に生まれた性として、おそらく主のためなら任務遂行ののち
自ら命を落すことも悪しとしない気概は、かつてサジにもあったと思います。
ただそれを手酷く裏切られた彼にとっては、かつての自分や刀衣の純粋さが
たまらなく苦しいのでしょう。
初めて感情をあらわにしたサジは、ここから少しずつ冷静さを失って
いくようでした。隠していた(隠せていた)心が悲鳴を上げ始めたようにも
思えます。

サジvs土門。
冷静さを失いつつあるサジの前に、再び土門が現れます。
それまでのサジは、誰と戦うときでも、相手の心を読み必ず心理的優位に立ち、
挙句弄ぶように倒してきました。
しかしここに来て、甦ってきた土門はそのこと自体がすでにサジの想定外。
どんなに斬られても立ち上がってくる。手を心を読まれている。焦るサジ。
「だったら!!」
「ばかなっ!!」
感情を剥き出しにし、狂ったようにやたら滅法剣を振り回して、土門に
斬りかかっていく姿は、それまでの冷徹な殺人マシーンのようなサジとは
まるで別人のようです。この日のサジはほんとうにめちゃくちゃという
感じで、それがほんとうに哀れでした。
それまでの芝居は土門の痛みや苦しみに心が痛みましたが、このあたりから
サジに見え隠れする心が痛々しくてたまりませんでした。

この日のサジと土門の戦いは、まさに「死闘」というべき激しさ。
斬っては倒れ、倒れては立ち上がりまた斬る、倒れる・・
ふたりとも、戦う性のみによって突き動かされているかのようでした。
やがて倒れた土門を包み込むようにドライアイスの霧が流れてきて、
背景は監獄島に変わっていきます。
突っ伏した土門の、見開いた目だけが宙を仰ぎそれに気づきます。
「ここはまだ監獄島じゃないか・・」

土門が幻に見たのは、己の逃れられない宿命。
復讐だけが生きる意味だった。
しかし、その先には喜びも解放もなかった。
もう二度と戻れない。
かといって、もうどこへも行くことはできない。
そして、それはサジも同じであること。

それでもこのときの土門は決して絶望的には見えませんでした。
むしろそれを受け入れることで枷を外されたような安堵感を感じている
ようにさえ思えました。
サジは違う。
彼はずっと以前からそんなことはわかっていたように思います。
でも彼はそれを受け入れなかった。
受け入れようが入れまいが、逃れられないのだとわかっていても。
惑う心を笑顔で封印し、復讐ゲームに興じた。
もしかしたらどこかに行けるのかもしれない、愚かな夢もほんの少し抱きつつ。
でもゲームは突然ぶち壊された。
そして、再び突きつけられる己の逃れられぬ宿命。
「言うなっ!!」
土門を拒む怒声が、この日はひときわ哀しく聴こえた気がします。

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2 コメント

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メッ! (ムンパリ)
2009-12-10 00:01:41
新感線の舞台は前回見逃していたシーンや台詞の伏線に、
リピートしているうちに気づくことが多いですよね。
深いです~♪
美古都が毒を吸い出しているのは、やはりマイ初日(15日)
には見逃していて、21日に土門に集中して見たときに初めて
気づきました。これは大阪だけなの?
美古都の土門への愛情がうかがえるシーンですね。
でも、この場面は刀衣とサジの見せ場ですからねー、メッ!(笑)
あの美しい殺陣のほうを見なきゃいけませんねぇ。
あえて美古都と土門のほうを見ているのは反則、ってか
贅沢な見方でしたね♪
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きゃ、ごめんなさいっ! (しろう)
2009-12-13 16:16:52
ムンパリさま♪
>あえて美古都と土門のほうを見ているのは・・
そうなんですよね~(笑)
他のシーンでも土門のほうを観ていたりすると、
「観るとこ、違うだろっ」と自分でツッコミたくなるんですが(笑)そこは
「複数回観てるから今回だけは勘弁ね~」ということで、
大楽の日は、もうエゴイスティックガン見デー(笑)

美古都が毒を吸い出しているシーン、
過去2回ではまっとうに(笑)サジや刀衣のやりとりに釘付けになっていたので、
後ろにいる美古都と土門のことは、正直眼中になかったです。
大楽の日は、複数回観た余裕?ちょっと後ろにも目をやったら、
「あら、びっくり!」だったわけなので、もともとこうだったのか、
変更点なのか、まったくわかりませ~ん。

東京で初めて観たとき、土門が刀衣にトドメをさされた(かに見られた)時より、
刀衣がサジに斬られたときのほうが、美古都のショックの受け方が
大きく見えたのがちょいと不満だったので、これで安心した次第です(笑)
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