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「ミリオネア」での平井理央アナを見て思った「マークシート教育」の弊害

2006年07月07日 | えとせとら

(ムンクの「叫び」と「ムンクの叫び」、どちらで理解しているかが表現者には大きな問題だ)

昨夜は夕食後、特にやることもなかったので、珍しく家族と一緒に「クイズミリオネア」を見ていた。みのもんたさんが土・日の司会を務めていた「プロ野球ニュース」のADを務めていたのは、もう25年以上前のことになるが、当時はみのさん自身もフリーになったばかりで大変な時期だったにもかかわらず、私のような末端のアルバイトにまでずいぶんと気を遣っていただいたものだ。

さて、昨夜は経費節約のため、というわけではないのだろうが、フジテレビのれっきとした社員を使っての(何人かのOGも混ざっていたが)「アナウンサー大会」。まあ若いアナウンサーが頓珍漢な回答をするのは民放では「お約束」のようなものだから、別に目くじらも立てることはなく、ただ昔は家が比較的近所で、一緒に深夜帰宅のタクシーに同乗させてもらったことも何度かある福井謙二アナウンサー(アナウンス室次長)は、なかなかご苦労が絶えないのだろうな、とご同情申し上げるばかりだった(まあ、これも「お約束」なんでしょうけど)。

しかし、それでも元来が重箱の隅をつつくのが大好きな?私なので、気になることはあった。それはいま週刊誌をにぎわせている平井理央アナウンサー(しかし、単なる社内恋愛を大げさに記事にされたり、挙句の果ては放送禁止用語の形容詞まで表紙の見出しにつけられて、「有名税」にしても、ちょっとひどすぎますな、あの報道は。まあ別に悪いことをしたわけでもないので、本人は堂々としていましたけどね)が回答者の席に座ったときである。それは「名画『叫び』の作者は誰?」という四択の問題に対する彼女のコメントだった。
「たぶん、ムンク(四択は①ピカソ②モネ③ダリ④ムンク)だと思うんですけど……。でもよく『ムンクの叫び』って聞いたりするので、それを含めた名称が絵の題名かもしれないし…」
平井という人はおそらく、それほど頭の悪い人ではないと思うし、ニュース原稿も訓練すればきちんと読みこなせるだけの話の能力も社会常識を身につけていることは、普段担当している番組などを見ていてもわかる。ただ、このコメントを聞いていると、やはり彼女は「マークシート秀才」の一人なのだなと痛感させられた。

実は私が大学に入学した翌年から、いわゆる「共通一次入試(現在のセンター試験)」が始まり、そのときから入試の回答はマークシート方式が一般的になった。私の世代もそのモルモット?として、回答の一部がマークシートになっていた。
マークシート方式というのは、要するに言葉を「記号化」する作業である。つまり国語でも英語でも社会科でも、入試のため必要な知識は、頭の中で「A=1」というような記号に変換して解答用紙に書き込まなければならないわけだ。
美術鑑賞の手始めというのは、やはり実際に描かれた絵、あるいはその写真などを目にして興味を抱いたり感動を覚えたりして、その作者のプロフィールにまで想像をめぐらせたり、実際に別の資料などでそれを調べたりすることだと私は思っている。たとえばゴッホの「ひまわり」という作品について、「作者・ゴッホ=作品・ひまわり」という記号だけが頭の中に存在していて、実際の絵のイメージがない、作者に関する最低限の知識がないということでは、義務教育の段階から行なっている美術教育の意義がわからなくなる。しかし、「大学・一流企業・官庁に入るための受験教育」が幅を利かせ、それに合格するため「マークシート方式入試でいかにいい点数を取って合格するか」が最優先されている現在の教育環境では、そうした「ありえない」ことが世の中で通用してしまっているのである。

恐ろしいのは、そうした記号化された知識のみを詰め込んだ人間が、「記号化」というテクニックのみに長けて、その反動として物事を深く思索したり想像力をめぐらせる能力、そして人間としてもっとも大切な知的好奇心(これがなかったら人間として生まれた意味がない)などが欠如したまま、一流大学、そして一流の企業・官庁などに合格し、やがて社会の中枢を占めることである。実際、そうした傾向はかなり顕著に現れており、(世代的にはマークシート世代前だと思うが)村上某などはその典型ではないかと思う。つまり「情操」というファクターが人格から相当欠落しているのである。

平井アナが「金儲けはいけないことですか?」と逆切れして開き直る「怪物」と同類だとは決して思わないが、アナウンサーという職業は俳優や歌手と同じ「表現者」としての側面も持っているのだから、今後は「マークシート秀才」から脱却する努力をして欲しいし、周囲もそのための道筋を作ってあげてほしいものである。偉そうな物言いに聞こえるかもしれないが、私がフジテレビ社内の人間で、もし福井アナと同じアナウンス部上司の立場だったら、番組収録語彼女を呼んで「受験秀才の知識だけではアナウンサーとしてやっていけないし、人間的にも成長できないぞ。もっと普段から知的好奇心を持って生活をしたらどうか」とアドバイスぐらい送ることだろう。
実際、頭の中にある知識が、ムンクの「叫び」と「ムンクの叫び」のどちらであるかによって、表現力には格段の差が生まれると私は考えているのだが。



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7 コメント

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アナウンサー (giants-55)
2006-07-08 01:49:12
この番組は見ていないのですが、「マークシート教育の弊害」というのは確かに在ると思います。情操というファクターが人格から、そして知的好奇心が脳から欠落していると思わざるを得ない人が、哀しいかな増えて来ている気が自分もします。全部が全部では無いのでしょうが、概してこういったタイプの人には、他者との間合いが取れない、コミュニケーション能力が欠如しているという、一方的に自己主張はすれども言葉のキャッチボールが出来ない人が少なくないかと。



アナウンサーって、本来は仰る様に「表現者」だと思います。でも今は、単なる「情報伝達人」になってしまっているケースが多いですね。原稿の字面を目で追い、それを単に口から発するだけではロボットでも出来ます。



書き込んで戴いた件ですが、競馬好きの友人はラムタラが種牡馬になった当初から”血の濃さ”を懸念していました。自分は記事でも書いた様に、そういった情報は全く無知な為、「そうかなあ。」と受け流していたのですが・・・。



残念ながら彼の予感は的中したという事になります。でも、仰る様にイギリスに於ける可能性が開かれた訳ですから、何とか素晴らしい馬を輩出して貰いたいものです。



「プッシュボタン監督」、その様な言葉が在るとは知りませんでしたので勉強になりました。原監督がこのプッシュボタン監督に当該するのではないかというのは、自分も全く同感です。そこそこ整備されたチーム状況(第一次政権の1年目)ではきっちりと成果を出すものの、一旦それが崩れてしまうと(第一次政権2年目及び今季)、打つ手も無く茫然自失状態になってしまう。自分には記事でも書きました様に、「外科手術が必要なのに、自然治癒を待っているだけ。」という風にしか見えないのも、その辺が原因なのでしょうね。



個人的には、ジャイアンツの外様監督に反対ではないんです。外国人監督で在ろうが、アマチュアの世界から人材を求めようが、それでジャイアンツというチームが魅力的で強いチームに変わってくれるならばウエルカム。唯、星野氏だけは絶対に反対ですが(苦笑)。



原監督に必要なのは自身が変わって行く(過去の名将の物真似をするだけでは無く、それに自身の頭で考えた何かを肉付けして行く。柔軟な思考を持つ等。)事もそうですが、彼自身が整備されたチームで在ればきちんと成果を出せる監督で在る事を考え合わせると、チーム作りがきちんと出来る参謀を付ける必要が在るのではないかと。V9時代の牧野コーチ、ライオンズ黄金期の森コーチの様に、そういった知恵袋を置く事で、原監督の苦手分野を補えるだろうし、それにチームが軌道に乗れば(チーム作りが出来れば)、そこからは彼の得意分野だと思いますし。



私見で言えば栗山英樹氏、そしてこれは絶対に実現不可能でしょうが元PL学園監督の中村順司氏辺りにそういった役割をして戴けると良いなあと思っております。



後、ジャイアンツの組織自体も変わらないと駄目ですね。「今季の不振は、東京ドームの人工芝のせい。」なんて言ってるオーナーの下では、チーム改革は進まないでしょう。(人工芝には自分も反対ですが、だからと言って全ての責任を人工芝におっ被せるかの様な発言は如何なものかと。)
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あまりにも穿った見方です。 (ADELANTE)
2006-07-08 02:34:02
今回の上田さんのエントリーは、あまりにも穿った見方だとおもいました。



彼女は大学で美術を専攻していたのでしょうか。彼女は法学部の出身ですよね。彼女が美術に詳しいと自己宣伝していないかぎり、言い過ぎです。



表現者であっても、彼女は神ではないのです。

#ムンクの「叫び」なのか、「ムンクの叫び」なのかは、誰でも知っている常識ではないはずです。(アナウンサーとして知っていて欲しいことではあるかもしれませんが)



「フェリーニのローマ」などという映画もありましたよね。英語で言えば、「Rome according to Ferrini」です。
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Unknown (Yosh)
2006-07-08 03:12:11
 私の感想は、穿ったというよりも先に「結論ありき」だなというものでした。ですので、批判的な見解を持っているという点では ADELANTE さんと同じですが、批判の趣旨は違います。



 まず、「マークシート教育」というキャッチフレーズに違和感を覚えます。まず、細かいことを言うようですが、「マークシートは記述式よりも思考力を要求しない」というのは間違いです。運転免許ならともかく、大学入試センター試験などのようなある程度洗練されたものについて当てはまる見解ではありません(一例ですが、ある現代国語の参考書には「記述問題が出たらラッキーと思え」というようなことが書いてあります。マークシートの問題は実は難しいのです)。



 また、「マークシートの解答は1つだが、記述は多様な答えがある」というのも間違いです。テストはほぼ全ての問題で答えは1つであり、逆にそうでない問題は悪問です。



 もしも想像力の欠落や記号化と引っかけて論じるなら、せめて白か黒かのみで論じられる大学受験中心主義そのものと合わせた方が筋が通ると思います。ただしこの場合、戦後以降なら世代は関係ないですけどね。あと、いわゆる難しい大学ほど小手先のテクニックが通用せず、思考力を要求する傾向が強いというもあります(たとえば灯台の英語の問題は、「書いてある文章は易しいのに、なぜか問題が難しい」とよく評されます。英語の実力以上のものを測っているからです)。



 今回の記事は、上田さんが普段からよく記事に書かれている「想像力の欠落」という問題に強く関連しているように感じました。ただ、上田さんがその話をなさっているとき、その批判対象は若い世代のみでしょうか? 違いますよね。中年層や高年層を想定されている場合もありますよね。



 普段から良識的な記事ばかりを拝見していますので、今回の記事がミスリードを狙ったものではないとは思います。その良識を信じて言うなら



1) キャッチフレーズ(今回の「マークシート教育」のようなインパクトのある表現)は諸刃の剣で、人を騙す道具に簡単になってしまう。下手をすると自分自身を騙してしまう。

2) 最初に結論ありきだと、その結論にそぐった事実しか目に入らなくなる。



という点に気をつけられると良いのではないかと感じました。
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判断の難しいところですが (Ryo Ueda)
2006-07-08 14:32:21
貴重なご忠告、ありがたく受け止めております。ご指摘のとおりの部分も少なからずあると反省もしておりますが、その上でいくつかの点については改めてご説明したいと思います。



>Yoshさんのご指摘に対して

「結論先にありき」というのは、私が日ごろもっとも避けていることですので、ご指摘いただいたことは心に留めておかなければなりません。老若男女に限らず情操の欠如というのは共通した傾向として日本社会にあるのも確かですが、犯罪報道などを見ていると、どうしても30代後半以下の世代の「短絡思考」「良心の不在」はかなり目立ちます。

戦争や暴力に対する考え方でも、戦争経験の有無、あるいは周囲に経験者がいるのが普通だった私の世代と違うことは認めますが、あまりにも好戦的、暴力肯定的な考え方が若い世代に蔓延しているのは事実です。根本的には個人の資質の問題なのですが、パーセンテージがあまりにも高いと私は思うのです。受験至上教育の結果であることは事実でしょう。マークシートに関しては、思考を求める設問があるとしても、やはり回答を文字でなく記号で書くわけですから、そのことが私は気になるわけです。まあ、マークのつぶし方でも分かるのでしょうが、文字ほどその人間の人格・人間性を反映しているわけではありませんから。



>ADELANTEさんのご指摘に対して

「彼女は大学で美術を専攻していたのでしょうか。彼女は法学部の出身ですよね。彼女が美術に詳しいと自己宣伝していないかぎり、言い過ぎです」とのご意見ですが、私はこれについては「表現者」「クリエイター」の立場から、完全に同意できない部分があります。

美術専攻、美大出身ではないのだからというご指摘に対しては、改めてエントリーを読んでいただきたいのですが、日本では義務教育の段階で9年間美術教育を行なっており、学術的な知識も中学の段階で教えられます。ただ音楽も含めて情操のための教育を行なっていても、現実には受験最優先の教育が幅を利かせている以上、効果がないのではないかということを言いたかったわけです。ムンクの「叫び」については、私は義務教育課程での美術教育が本来の目的を達成していれば、決してカルト的な知識ではないと思います。そもそも最近はCMや芸人のギャグにまで使われることもあるのですから。

また、アナウンサーという表現者としての仕事をしている以上、芸術に対するセンスも磨いておくべきではないのかと私は言いたかったわけです。「~専攻ではないのだから」というアリバイの仕方については、私は少なくとも(自分を含めた)不特定多数の第三者に情報を発信することを職業としている人間には通用しない言い訳だと思っています。アナウンサー、新聞記者、雑誌編集者と言った職業は、たとえ自分の専門分野ではないジャンルに関しても、高度ではないにせよ一定以上のレベルで「もの知り」であることが必要だと考えていますし、それは新聞を毎日精読し、ニュースに関心を払っていれば、それなりに身につくと思います。しかし、実際にはどうもかつての私の職場(出版社)がそうでしたが、メディアに勤務していながら、そういう心構えにかける人間が、現在30代後半から下の世代に非常に多かったのは、残念ながら事実です。テレビのニュースで毎日のようにテロップミスが起こる(かつて、すべて手書きの時代には考えられないことでした)のも、アナウンサーの原稿読みのミスが多いのも、そうしたことが起因しているのではないか、これは決して穿った見方ではなく、私の経験上からも憂慮すべき傾向として存在しているのは事実なのです。

正直なところ、NHKや民放キー局のアナウンサーは間違いなく花形職業ですし、採用も「狭き門」です。しかし、その狭い門をくぐったのが「あれかよ」と言いたくなってしまう人材があまりにも多いのは、私に限らず誰もが思うことではないでしょうか。私はそういうところに、テレビ局の人事担当者が「いったい何を基準に専門職を採用しているんだ?」と大いなる疑問を抱いてしまうのです。



まあ、今回は普段ほとんど見ないプライムタイムの地上波放送をたまたま目にしたがために、ついつい口を衝いてしまったテーマでしたね。ただ、最後に強調しておきたいのは、(ひたすら私の文章能力がないためではあるのですが)私は「マークシート秀才の弊害」という結論先にありきで今回のエントリーをしたのではないということです。あくまでも結論は自分なりに検証した末に、最後に導き出したものであるということはご理解下さい。異論・反論はこれからも大いに歓迎いたします。本当にありがとうございました。
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しつこいようですが (ADELANTE)
2006-07-09 01:42:16
> ムンクの「叫び」と「ムンクの叫び」、どちらで理解しているかが

> 表現者には大きな問題だ



しつこいようですが、私はそうはおもいません。(彼女が文章でそう言ったのなら問題ですが、あくまで番組のなかの、一瞬、でしょう)



ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」の本の原題が、「Dracula」なのか「Bram Stoker's Dracula」なのか、ご存知でしょうか。

#本の原題は、「Dracula」であって、「Bram Stoker's Dracula」ではありません。(ただし、フランシス・コッポラの映画の題名は「Bram Stoker's Dracula」でした)



ところが、私はフランシス・コッポラの映画がロードショーされる以前からずっと、英米文学科の学生だったのに、「Bram Stoker's Dracula」だと思い込んでいたのです。

#だから、平井理央さんのことを何も言えないのです。(ここに私の主張の原点があります)



ピカソの「ゲルニカ」もそうですが、ある芸術家の代表作は、作家と作品が強い絆で結ばれています。

#ムンクの「叫び」も同じです。



私は、この件はマークシートの問題となんのかかわりはないと考えています。<芸術家の代表作は、作家と作品が強い絆で結ばれているから>こそ、彼女からそういう発言がおもわずでてしまったのだと私は感じています。



また、マークシートの問題も必要以上にネガティブに考えてらっしゃいませんか。私は問題はマークシートなのではなくて、暗記教育が問題なのだとおもっています。

#センター試験だけでなく、TOEICもマークシートですよ。でも、TOEICは暗記教育でそれなりのいい点がとれる試験なのでしょうか。それは違うとおもっています。
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危機感 (Ryo Ueda)
2006-07-09 15:46:59
いろいろと貴重なご意見ありがとうございます。

ただ、今回のことに限らず、自身の「無知」に対して「無恥」な人間が社会全般を見回してあまりにも多いのは否定できない現象です。今回のエントリーは、そうした傾向がたまたまアナウンサーという花形職業についている若い世代の人たちにかなり顕著に現れていると私が感じ、「危機感」としてお伝えしたものだとご理解下さい。

このテーマに関する論議は、いったんピリオドを打たせて下さい。よろしくお願いいたします。
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Re: 危機感 (ADELANTE)
2006-07-09 17:38:41
> 危機感



承知しております。また、上田さんのそうした意識にたいして大きな共感を持っています。



> 自身の「無知」に対して「無恥」な人間



私もそのひとりとして、自戒したいと考えています。



ただ、私は若い世代より、現在社会を動かしている人達のほうの<自身の「無知」に対して「無恥」>を深く憂慮しています。



これからも、異論反論をおそれずどんど提言をされてください。
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