ビワイチ、2日目の午後。昼食後に国道303号線で小さいがきついピークをこえ、県道557号線におれて琵琶湖の北端の大浦にむかうと、リヤ・タイヤから、ゴットン、ゴットンと嫌な振動がでだした。チューブラー・タイヤはリムに接着剤でとめてある。それが賤ケ岳のくだりではずれたのだろうとおもって点検すると、やはりタイヤがずれてしまっていた。
タイヤが進行方向にずれて、エア・バルブがひっぱられて歪みがでたのだ。さっそくタイヤをリムにはりなおそうとしたが、接着剤が古くてきいていない。しかも接着につかうリム・セメントをわすれてきてしまった。修理をすることはできず、このままゆくほかない。このあとはずっとゴットン、ゴットンとやりながら走ることになった。
湖北ではお祭りをやっていた。神輿がでて、裸の男たちがかつぎ、羽織袴の世話人たちがついている。良いものを見させてもらった。
湖北は人も車もすくなく、風景もすばらしい。
湖水の透明度もたかく、清々しかった。ただアップダウンがありきつくもあった。
マキノサニービーチにやってきた。高校2年のときに、能登半島から京都をまわったサイクリングの際にキャンプした地である。そのころは施設はほとんどなく、湖沿いに野営場があるだけだった。今は建物がたっていて受付があり、その先は宿泊者でないと入れないし、トイレを使用するのも料金100円と書かれている。
45年前は柵などなくて、夜になると近隣の方がフルートの練習にきていた。家では思うままに吹けないからだが、湖岸には自由に出入りができたのだ。
今は芝生がはられてテントとタープがならび、キャンプ場もいくつもある。当時をなつかしむよすがはのこっていなかった。それはそうだ45年も前のことだから。
今津浜でトイレによった。ここでは鯉釣りをしている人たちがいる。釣れるのかなとおもっていると、ファンファーレがなりだした。当たりを知らせる警報音で魚がかかったのだ。ひとりがリールを巻いて魚をひきよせはじめ、友人がたも網をかまえてとりこみをたすけようとしていると、友人の竿からもファンファーレがなりだした。友人はたも網をおいて自分の竿にはしってゆく。
鯉はちかづいてきた。私はたも網をとって加勢しようかとおもったが、ゆきづりの人間がやるのはどうだろうかとおもってやめた。魚は3メートルまでよってきたが、そこで針をはずして逃げてしまった。釣り人は足元までよってきた魚をどうとりこむのか迷ったのだ。一瞬糸がゆるんだ隙に、鯉はもがいてにげた。たも網をかまえていたら、そこに鯉をまっすぐに引きいれて、とれただろうとおもわれる。釣り人は、70センチくらいの小物だ、といって悔しそうな素振りはみせない。朝はもっと大物がかかったのだそうだ。
時速15キロのペースをまもってゆく。若いサイクリストのグループと抜きつつかれつしてすすむ。彼らのほうが全然速いが、一度休むと人数がおおいし、女性もいるから長くなるのである。私は休憩せずにノロノロ走行をつづけるので、彼らとおなじペースになった。またお祭りに遭遇して、祭り行列に遠慮する若者を尻目に先行する。
14時半に高島でやすむ。17時の時点で琵琶湖大橋の東岸の堅田まで何キロのこっているか、どのくらい疲れているかで、今日の走行を切り上げるか決めることにする。わずかな距離ならば無理をしてでもビワイチを完走するが、力がぬけるほどのこっていたら、輪行して堅田に行き、ピエリにもどって、明日つづきをすることにした。あと2時間半でどこまでゆけるかだ。今日はどんな結末をむかえるのだろうとかんがえて走りだすと、白髭神社18キロ、琵琶湖大橋36キロの看板がでている。2時間半あれば36キロは十分にはしれる。今日のうちにビワイチは完走できるだろう。力がわいてきた。
若者たちよりも速くノロノロ走行の私が白髭神社についた。
神社にたちよる余裕はもうない。
あと18キロで琵琶湖大橋である。
白髭神社から先がきつかった。ルートは湖沿いから湖西線の横をゆくようになり、いつまで走っても琵琶湖大橋がみえてこない。体力を消耗してしまい、バテバテですすんだ。
ノロノロ走行でねばっていると、堅田4キロの看板があった。もう少しだ。ファミリーマートによって力水をとる。
堅田から琵琶湖大橋をわたり、16時55分にピエリ守山にもどってきた。走行距離は125キロ。ビワイチを完走したのだ。車のとなりにはマウンテン・バイクのグループがいた。かるく挨拶をして、リヤ・タイヤをはずしてゴットンの部分を修正していると、変速機のダブル・レバーがカッコいいですね、カンパですか、と声をかけられた。50くらいの方だ。そうです、40年前の自転車なんですよ、20代のころから乗ってます、とまた話したが、私のオールド・レーサーは50以上の人にうけるみたいだ。若者は古いものはわからんよね。彼らのマウンテン・バイクはEバイクのようだった。
この日は琵琶湖大橋をわたり、雄琴温泉の『スパリゾート雄琴あがりゃんせ』にいった。数年前に家内と利用してよいイメージがのこっていたスーパー銭湯だ。
あがりゃんせの料金は1850円とお高いが、琵琶湖のみえる展望風呂や、リラックス・チェアなどの施設が充実している。
館内で着る服も料金にはいっているのでソファやマッサージ・チェアでくつろぐことができる。
ただ時間がなくてゆっくりできないのが残念だった。
演劇もやっていてこれも無料だ。
あがりゃんせは朝から晩までたのしめる施設だった。
滋賀県にはちゃんぽん亭というチェーン店がたくさんあるので、利用したいとおもっていた。しかしあまり腹がすかないので、コープで買い物をして道の駅『びわ湖大橋米プラザ』にゆく。ピエリ守山と琵琶湖大橋をはさんだ対岸に位置している道の駅だ。カツオの刺身にローストビーフ、それに三輪そうめんで一杯である。
カツオの刺身がうまい。ローストビーフもいい。そして三輪そうめんである。
関東人の私には三輪そうめんがめずらしい。出汁も具も関西風でよかった。2024シーズン16日目の車中泊。ビワイチはきついところもあるが爽快だった。気持ちよく走れるから、癖になりそう。