湯気の立つコーヒーカップを口元に持っていき、細く尖らせた口で湯気をかき消し、冷ましつつ啜っているオムー。
オムー『・・フーフー・・・ズズ・・・=ω=.』
おいしそうにコーヒーを啜りながら、左手首の腕時計を確認すると、トーナメント第二試合までの合間時間が経つ針を示している。
オムー『・・・お!クルスそろそろ時間じゃないかぉ=ω=.?』
アメル『そろそろだね(・w・´)』
りん『相手はトカマク様ね』
エビちゅ『できるだけ怪我して勝ってくだちゃいね( ̄ω ̄ )』
クルス『どういう意味だw』
屈伸運動をしつつ体を温めているクルスは、エビちゅの痛烈な応援に噴出しながらも問うている。
エビちゅ『クルちゅに体力残してもらっちゃ、エビちゅが優勝できまちぇんからね( ̄ω ̄ )』
準備運動をしているクルスの周りを囲む一行からりんは席をはずし、精神統一を続けているトカマクへ歩み寄ろうと立ちあがった。
トカマクの様子を伺いながらりんは近くまで行くと、僅かな呼吸が聞こえてくる。
トカマク『・・・フー・・・・ハァー・・・・フー・・』
りん『・・・・・・。』
戦いのはじまりと同時にトップの力が出せるようにと額に汗を滲ませているクルスとは対称的に、トカマクはじっと椅子の上で静かに精神を研ぎ澄ませていると、連絡通路から次の試合開始を知らせにスタッフらしき男が姿を現した。
『第二試合の出場者の方~!ご入場くださいっ!』
クルス『おしっ(゜Д゜)いってくるかな』
クルスは鞘を腰当てに挿し、勢いよく立ち上がり、連絡通路へ歩いていく。
アメル『応援してるね(・w・´)』
オムー『頑張るんだぉ=ω=.』
エビちゅ『ボロボロになって帰ってきてくだちゃいね( ̄ω ̄ )』
クルス『エビちゅうるせーw』
一行はクルスを見送り、控え室に残るトカマクに目をやれば、依然目を閉じたまま静かに深呼吸をしており、それを読みとってか、トカマクへの応援の掛け声は差し控え沈黙が守られている。
控え室にはクルスがいたときとは違った張り詰めた空気、ビー玉のような粒子になった重い空気が敷き詰められ、トカマクの気組みのある闘気で飽和されていく控え室。
トカマク『・・・フー・・・・・ハー・・・・・フー・・・』
アメル『・・・・・(・w・´;)』
オムー『・・・=ω=.』
エビちゅ『・・・( ̄ω ̄ )』
hanana『・・・・^0^;;;』
りん『・・・・・。』
りんはトカマクへの配慮から、皆に先に観覧席にいくよう無言で頷くと、一同は案を持して静かに観覧席へ戻っていくのだった。
りん『トカマク様・・そろそろお時間のようです・・』
トカマク『・・ありがとう・・』
大きく息を吐き、目を閉じながらゆっくりと立ち上がるトカマクの横で決するように発し始めるりん。
りん『トカマク様・・クルスは・・』
トカマク『えぇ、わかってるわ・・』
りんが一人控え室に残っていたのは言うまでもない。
これからの戦いの安否の不安が拭いきれなかったからだ。
伝説の獅子の中でもクルスは最強の一角を占めている一人。そしてその戦いの勝利への執念や無慈悲さは誰しも知っている。勝つためには手段を選ばず、例え味方とあれど迷わず剣を振り抜ける士。
りんはトカマクのその覚悟に気づいていた。
トカマク『・・・全力を出し切ってこそ礼儀というもの。』
りん『・・はぃ・・・』
声にならない声でトカマクへ応答するりん。
トカマク『それはお互いどうなっても仕方のないこと。それを覚悟に戦場へ、戦いの場へいくのがファイターよ。』
りん『トカマク様!!・・・無礼であることは承知なのですが・・言わせて下さい!!・・・き・・棄権されてはいかがで・・しょう・・か・・』
師団隊長でもあり、りんの直属の上司でもあるトカマク。
しかし目に見えた戦いにりんは我慢できずにいた。
言いながら遠慮がちに語尾が弱くなっている。
トカマク『ありがとう^^』
りん『・・・・・。』
緊迫した空気の中、トカマクは自然な微笑みでりんを優しく見つめた。
トカマク『りん、今だからこそ言えるわ^^私にもしものことがあったら・・・・あなたが次期リーダーになるのよ』
りん『ぇ・・?』
論点からずれた回答がりんの声を上擦らせている。
トカマク『いつだってそうよ。戦士は国家に命を捧げ、戦いの場にて死にゆくことが本望。この武術大会に限ったことではないの。私にもしものことがあったら、りん、あなたが師団の指揮を執るのよ。』
りん『そんな!私はそんな力もありませんし、トカマク様にもしものことなど考えられません!』
何十年と戦場で戦い抜いてきた最大の友であるトカマクのブレイドソード。
年季の入った柄とは対称的に、手入れがされているのか、刀身は驚くほど輝いている。トカマクはその友を抜き出し一瞬見つめると、また鞘にゆっくりと戻し話を続けた。
ジャラッ・・・・チャン・・・
トカマク『アメルと私の救出の際のあなた指揮・・・すばらしかったわ・・・全師団はあなたを信頼していた・・・。』
りん『・・・・。』
トカマク『軍兵士の宿命は国家を守り、民を守り、王様をお守りすることよ。私たちは違う世界で祝杯をあげることが使命なのよ』
口を詰まらせたりんの目の前を横切り、連絡通路へ向かうトカマク。
トカマク『嬉しいわ^^我が師団の剣で、我が部隊の部下の剣で逝けるなら・・』
りん『・・・・・・。』
連絡通路は部屋からも出口からも光は入ってこない暗い通路。
トカマクはりんへ最後のタスキを渡すようにオクタゴンのリングへ向かっていく。
トカマク『あなたもそのうちわかるわ^^』
りん『・・・・・。』
修羅としての血を持つ伝説の獅子の強さ。今の世に必要なのはあの絶対的な強さである。その獅子を動かし、正しい道に導き国を、世界を正しき道へ変えていく使命を持つべきであるファンブルグ軍師団長。その言葉は重く、りんは真に受け止めている。
トカマクが暗い通路に入り込み見えなくなる頃、思い出したかのように通路へ向き姿勢を正すりん。誰が見ているでもないその部屋でトカマクの背中に敬礼を続けた。
通路奥からは既にリングインしたクルスへの歓声が小さく控え室に響いてきている。
『ワァァァァァァァァァ』
『クルス選手の入場だぁぁぁああぁぁ』
『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』
アナウンスの声と歓声。その通路暗闇に消えていくトカマク。
次世代を担う者へ零敗を捧げるかのごとく、決心と覚悟の気を放つ背中をりんへ向け、戦いの場へ向かっていく。
『ワァァァァァァァァァ』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオ』
りん『・・トカマク様・・・。』