3月30日の国立競技場コンサートが荒天により中止。AKB48始まって以来の残念でした。セレモニーが予定されていた大島優子はもちろんですが、長いリハーサルをしながらも舞台に立つことができなかったメンバーたちには、本当に、この景色を見せてあげたかったと思います。だけど、私は全メンバーを集めた前で、「気持ちを切り替えよう」と伝えました。どんなに悔しくて、残念でも、次の目標に向けて立ち止まっているわけにはいきません。「気持ちを切り替える」。それは自分にも言い聞かせています。
この1年、AKB48を支えてきたメンバーが何人も卒業しました。秋元才加(さやか)、板野友美、篠田麻里子……。そして、大島優子卒業の日が近づいています。
私は9年目。送るたびに、送られる側になるときはどんな気持ちになるのだろうって、ふと考えますが、「卒業します!」と卒業宣言する姿が想像できません。号泣してしまって、言葉にならないような気がします。いつか言う日は来るのかもしれないけど……。
一方で、これからAKB48で育つ女の子たちもいます。感じるのは親心。自分の若い頃と重ね合わせてしまいます。できないことがあって悩んでいる姿を目にすると、「がんばっていれば、いつか笑える日が来るよ」と、見守っています
今、AKB48に在籍する女の子たちにとって、特に若いメンバーの環境は、私たちの頃よりも厳しい。違うのはスタートライン。私たちの時は、踊れない、歌えない、MCができない、と何もできないところから、少しずつ成長し、ファンの方たちに応援していただくことができました。毎日のように劇場公演をすることに必死で、どうすれば選抜に入れるのか、どうすればセンターになれるのか、という悩みもありませんでした。
新しい世代のメンバーたちは、(前田)敦子になりたい、(大島)優子になりたい、センターになりたい、と大きな目標を抱いています。グループが大きくなり、歌やダンスが最初からできる子がたくさんいます。選抜に入るにも競争があります。その分、「すごい」と思います。今、私が中学生だったら、AKB48に入りたい、という気持ちにならなかったかもしれません。
若い世代と上の世代は環境も違うし、考え方にも距離があるようにも見えます。だから不安や悩みを聞いてあげたいと思っています。
私の考えとしては、まずは先輩のほうから寄り添ってあげることが大事。新入社員が先輩にいきなり「ご飯に行きましょう」とは誘えない……ですよね。だから「おはよう」とか「元気?」と声をかけ、親しみをもってもらえるように振る舞っています。10代半ばの後輩たちには、「恐れずに行動しよう」と言ってます。とにかく、実践して、失敗をしても、また実践。そして前に進もう、と。
逆に後輩と接することで気づかされることもあります。たとえば、ひたむきでがむしゃらな姿勢。自分が経験を積んで、物事の考え方がある分、逆に、こんな考え方ややり方もあるのか、と。
一方で、若い世代には、もっと大人に興味をもって欲しい。自分自身、子どもの頃は家族以外の大人や学校の先生以外の大人と接する機会もありませんでした。でも、中学生でAKB48に入って「大人っておもしろい」と感じました。経験が豊かで知識はたくさんあるし、自分の知らない人生を経験していますから。いつの間にか、時間があると、スタッフルームに足を運ぶようになりました。大人の人たちと話せる時間は貴重です。
「おもしろい大人」の代表格は、AKB48初期からのスタイリストで、AKB48グループ総支配人になった茅野しのぶ。まだ私たちが中学生くらいの頃、現場に遅刻してしのぶが大泣きしたことがありました。「みんな遅いんで、死んじゃったかと思ったよ」。本気で心配してくれた姿を見て、私、前田敦子、峯岸みなみ、板野友美で号泣したことがあります。何でも話せて、見守ってくれる大人です。
秋元康さんに出会えたことは、人生で得をした、という気分です。少し上から目線な言い方で失礼だとは思いますが、「発想力がすごい。さすが、(AKB48グループの)総合プロデューサーだ」って。「嫌われる勇気をもちなさい」というアドバイスは今も、座右の銘のひとつとして、背負い続けています。今の総監督の立場では、人に言うことがイヤでも、言わないと正解になりません。総監督就任から1年8カ月。人間的にもタフになりました。
思えば、メンバーだけではなく、スタッフの大人の人たちも戦友です。2度のレコード大賞、5大ドームツアーを実現しましたが、新たな目標をもって、若いメンバーたちと、未知なるその景色を見たいです。
■番記者から
おかげさまでAKB的人生論は2年目を迎えました。その初回は、連載1回目にも登場いただいたAKB48グループ総監督のたかみなことインタビューをしてみて、「大人」と感じたが、1年が経過して、老成の域にも達しているかのように思えてしまった。
「何だって、どんと来い、ですよ」「失うものはありませんから」とキレのある言葉が次々と出てきた。これは後輩たちも刺激を受けるはずだ。
総監督として、若手との交流にも積極的。最近も親友の峯岸みなみを介して、チーム4の小嶋真子や西野美姫と一緒に食事をしたという。「無邪気な彼女たちに触れて、あったかい気持ちになりました」と、指導というよりも癒やされたようだ。
この半年で、リーダーとして学んだことがある。「人にまかせること」。それまでは人にまかせるよりも、自分でしたほうが早い、と感じて行動していたそうだが、気持ちが変わった。そのきっかけを与えたのは、昨年夏、卒業した篠田麻里子からチームAキャプテンを引き継いだ横山由依という。「由依はチームのみんなを幸せにしたいと願っていますが、私はキャプテン経験者として、その難しさがわかっています。どこかで非情にならないといけませんから。だけど、由依は一生懸命にがんばりました」。たかみなは同じチームA。近くに総監督がいると、やりにくいかろうと、みずからは何も言わず、自分で答えを出そうとする由依を見守った。そして、結果もついてきたという。「チーム全員の幸せ度が上がったと思います」。なるほどー。大島涼花らチームAの若手がなにかと「横山さん、横山さん」となついている理由がわかった。次週はそのチームAの高橋朱里。横山由依ら頼もしい先輩とのエピソードを語ります。
たかみなちゃんのてのひらに、くっきりとせんがみえる。
たかみな、いい手相してるよ。