乃木坂46の11thシングル『命は美しい』が、発売初週で50万297枚を売り上げ、3月30日付オリコン週間シングルランキングで1位に初登場、これにより2ndシングル『おいでシャンプー』から10作連続通算10回目のシングル首位を記録した。同時にオリコンによれば、デビューから3年1ヶ月での10作目の首位獲得は、SKE48の4年8ヶ月、AKB48の5年9ヶ月を抜いて、女性グループ史上最速記録となった。
もちろん、往々にしてこうした記録にはいくつかの留保がつく。「女性グループ」のあり方も時代によって一様ではないし、近年に限っても乃木坂46の順調なステップアップは大前提として、それに先立つAKB48のブレイクやセールス方法の確立を抜きにしては語れないだろう。とはいえ、乃木坂46というグループそのものが、ここにきて加速度的に勢いを増していることは間違いない。2014年にリリースした3枚のシングルもまた、いずれも50万枚を超えるセールスを記録しているが、今作の『命は美しい』はその50万枚突破を、これまでの最速となる発売初週で果たした。セールス的にも知名度的にも躍進の年になった昨年にもまして、2015年序盤の乃木坂46は好調さを保持している。
乃木坂46のこのような記録が話題になる時、それはとりわけAKB48との対比で注目される。乃木坂46が「AKB48の公式ライバル」という肩書きを持っているためである。当初、AKB48のシャドーキャビネットとして構想され、2012年2月にシングル『ぐるぐるカーテン』でデビューした乃木坂46は、その活動において48グループとの関わりを制限し、一線を画すことでその独自性を保とうとしてきた。そうした独自路線は、AKB48の関連グループであることの優位点を発揮しにくくなることにもつながる。AKB48の各姉妹グループは、AKB48とのメンバーの往還をはじめとした関わりを強めることでその存在を周知し、それぞれのグループに全国区のメンバーを誕生させる施策をとってきた。しかし「公式ライバル」である乃木坂46はそうした流れとは一歩距離を置き、自身の色を模索することの方に重点を置いた。それは48系の姉妹グループに比べて内向きの組織になってしまうリスクがついて回ることでもあったし、結成からしばらくの間はそのウィークポイントも指摘されがちだった。
しかし、数年間の独自路線が奏功し、目に見えてオリジナルのブランディングを築くようになったのがこの一年だったといえるだろう。ファンがMIXを打つことを前提としない曲作りは決して48グループとの足並みを揃えるものではなかったが、いつしか乃木坂46を代表するようになった鍵盤の旋律と四つ打ちを特徴としたミドルテンポの楽曲は、他の48グループの代表曲にも肩を並べ、あるいは凌駕する存在感を持つようになった。また、特に初期楽曲に関して「ダンスよりも舞踏」という言葉で表された特有の振付も認知度が高まり、そのパフォーマンスは48グループとは明確に異なる特徴を見せている。さらに、シングルリリースごとの個人PVなど映像作品やCDジャケット等のアートワークも次第に注目され、グラフィックデザインの専門誌「MdN」2015年4月号で一大特集が組まれたことも記憶に新しい。
他方で、メンバーの個人活動の打ち出し方もまた、好循環に入っている。その代表的存在は白石麻衣だろう。雑誌「Ray」の専属モデルとしての顔も定着している白石だが、「Ray」専属となったのはおよそ2年前の2013年3月、またレギュラーでモデルに起用されている「LARME」に至ってはその初登場は創刊の2012年9月、乃木坂46としてはまだシングルを3枚リリースしたのみの時期である。グループの知名度がさほど先行していない段階から長期にわたってファッション誌モデルとしての地歩を着実に築いたことで、48系のアイドルファンの外にもリーチする人気を得る足がかりとなった。白石が先駆となって敷いた道に続くように、今年に入って齋藤飛鳥の「CUTiE」専属、橋本奈々未と松村沙友理の「CanCam」専属、そして西野七瀬の「non-no」専属が発表された。ここでも特に齋藤の起用にみられるように、選抜常連であるか等よりも雑誌との相性を重視した人選が垣間見え、乃木坂46とファッション誌との親和性をさらに高めるものになりそうだ。
述べてきたような数年がかりの乃木坂46独自の模索ひとつひとつがここにきて大きな武器になり、いわば外向きのブランディングとして結実したことが、現在のセールス好調にもつながる飛躍の主要因といえるだろう。AKB48に寄り添って走るよりも、48グループとは独立した色合いを前面に出すことで、「公式ライバル」としてのオリジナリティを見つけつつあるということかもしれない。
さらに忘れてならないのは、既存のファンに向けての納得度、いわば内向けの環境もまた整ってきたのがこの一年だった。誰がセンターをとってもおかしくない選抜常連メンバーの充実度に加え、昨年の乃木坂46をパフォーマンス面で引っ張ったアンダーメンバーの活躍によって、選抜/アンダーは拮抗し、簡単に上下や優劣で語ることが難しいほどに競合する二者になった。乃木坂46を見続けてきたファンにとっても、グループ内のダイナミズムはかつてより緊張感のあるものになっているはずだ。外に向けてのブランディング確立と内側の充実、その両輪が結成以来もっともうまく噛み合っているのが、現在の乃木坂46である。
かつてない勢いで飛躍している乃木坂46は今年、昨年にもまして次々とプロジェクトを打っていく。4月には昨年大好評だったアンダーライブの新シーズン、6月には先日オーディションでキャストが決定したばかりの舞台『じょしらく』上演、そして秋に恒例の「16人のプリンシパル」と続く。もちろん、今年も大会場でのライブ開催が予想されるし、2月のバースデーライブで発表された新プロジェクトの1期生募集も動き出す。セールスの飛躍的な上昇も追い風に、乃木坂46がさらに注目度を高める年になりそうだ。