持統天皇というと天武天皇を支えた女帝、息子の草壁皇子のために謀略を巡らした女帝などのイメージが世の中で一般的であるが、私は成育史や、その後の歴史の展開を考えると大事な女帝への視点を欠いているように思う。
祖母が指揮した白村江の戦いで3万人以上の日本軍の壊滅。戦後の父の治世での混乱と内戦(壬申の乱で夫と父側の勢力が戦う)。さらに親族の生き残りをかけた殺し合い・・・祖父の倉山田石川麻呂が身内に殺害される(父の天智天皇という説や大伯父の孝徳天皇という説)、甥の大津皇子を殺害したりする。その他、過去を振り返っても蘇我氏や天皇家に関係する争いは数知れずである。
このような絶望的とも言える時代や成育史の中で、何故強く生き抜くことができたのか?生き甲斐の心理学の理論を援用するとアイデンティティの統合や忠誠心に何か画期があったと考えられる。それは何だろうか、そんなことを、今までも考えていたが、昨日は「持統天皇と藤原不比等 日本古代史を規定した盟約」(土橋寛著 中公新書 1994年)を拝読して唸ってしまった。持統天皇は天武天皇の皇親政治の路線から日本的律令政治、そして皇位継承の方法を健全化するのに大きな働きをしたように思う。それには藤原不比等の協力というか盟約があったのはないか。身近で安全?な親族と手を組むこともなく、当時としては得体のしれない藤原不比等と協力関係を結ぶ。私はその後の時代の流れを考えると、素人ながら土橋説のように持統天皇と不比等の間に固い盟約があったように感じてならない。
そして、持統天皇は草壁皇子を溺愛するのでもなく、天智天皇を憎悪するのでもなく、天武天皇に依存するのでもなく、藤原不比等の言いなりになるでもなく、一流のバランス感覚で生き抜いてきたのだと思う。
生き抜くというのは、他者が替わりに担ってくれるものではない。当たり前だが一人で感じ、考え、祈り、行動するものだろう。今の世の中でも同じことだと思う。
時代 4/10
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森 裕行 | |
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