それはある日突然はじまるのです。
「甘くて歯が痛くなりそう」
オリーブに連載されていて高校生のときに読んだ山田詠美さんの小説、
『放課後の音符(キイノート)』のなかに出てきた特に思い出もなにもない台詞を、
その香りのはじまりに毎回心のなかでつぶやく。
朝はなんの香りもしなかったのに、夜、仕事からの帰り道に突然香ってくるのです。
それは桜よりもひっそりとしていて、桜よりも儚くて、桜よりも甘い、小さな蜜柑色の花の香り。
唐突に香り、雨上がりのひとときむせかえるように強烈になり、
それはすぐに消え、あっという間に忘れられてしまう。
金もくせいの匂いがする
甘くて歯が痛くなりそう
秋には恋に落ちないって決めていたけどもう先に歯が痛い
金もくせいを食べたの?
金もくせいも食べたの
だから 歯の痛みにはキス
甘くて歯が痛くなりそう。