貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

岩石進化論

2023-04-09 21:43:22 | 岩石生成論

「なんで石集めなんかしてるの?」
と石民はしばしば尋ねられる。
まあいろいろな答え方があるでしょう。答えないというのも含めて。

こういう答えもありかなと。
「地球の岩石も進化しているのである。われらが集めている美稀石はその最進化形である。それを生物の最進化形である人間が愛でるというのは、最進化形同士の出会いという奇跡なのである。」

そう、「岩石・鉱物も進化する」。
それをこれから辿ってみる。おおむね現在の主流説に乗っている。そこから生まれた「構図」(妄想?)が果たして正しいかどうかは、知らない。
ちなみに進化したものが価値があるというわけではない。大樹の頂上の枝穂が幹より偉いということはない。

晶洞の中に水が作った繊細な石、エレメエファイト。



①始まり――マグマ・オーシャンと橄欖岩

太古の地球は、星雲ガスの凝縮、隕石・彗星・微惑星の衝突によって、「マグマの球体」であった。
大気はあったけれど酸素はまだない。大気中の水は雨となって降ったがすぐに蒸発してしまい、地表は「マグマの海」であった。
次第に重い元素が中心に凝縮し始めるが、まだ「核」もできていなかった。
やがて美しい石を生み出す諸元素はマグマの中に溶け込んでいた。
それがやや冷えていき、マントルの「橄欖岩」が形成される。橄欖石と輝石。

美しい緑の宝石ペリドットは橄欖石がひょんな具合で地上に露出したもの。



②海洋地殻の形成――玄武岩のステージ

やがて「マグマ球」は冷え始め、表面に「殻」ができた。コマチアイトあるいは玄武岩。さらに冷えると雨が蒸発しなくなり、地球は「海」に覆われた。原始「海洋地殻」の誕生である。
この時にただ「殻」ができ、冷えるに従ってどんどん厚くなる、という形にはならなかった。恐らく殻の偏りなどによって、亀裂、沈み込みが起こった。
沈み込む殻に引っ張られるようにして新たな亀裂が生まれ、マグマ(溶解橄欖岩)が噴き出して新たな地殻が造られる。これによって「海洋地殻の循環」が生まれた。
また海洋では生物が繁殖し、生物性堆積岩が作られた。さらに大気にもたらされた酸素によって海水の鉄分が酸化沈殿し大規模鉄鉱脈が形成された。

粗粒玄武岩のプレセリ・ブルーストーン。ストーンヘンジの石。



③「陸」の形成――安山岩・角閃石のステージ

沈み込んだ地殻とそれに含まれていた水によって、「安山岩マグマ」が形成された。そしてこれが地表に噴き出して、「陸の元」が作られた。
はっきりしたプロセスはわかっていないが、この「陸の元」が大きくなって、「大陸地殻」が形成された。「島」が徐々に集まったという説があるが、突然の大変動があって一挙にできた可能性もある。人間は、特に地質学は、変化が徐々に蓄積されるという「斉一説 uniformitarianism」を取りがちだが、生物進化プロセスは突然大変化が起こることを示唆している。大陸地殻も突然できたのかもしれない。25億年前には大規模な大陸地殻の増殖があったとされている。
この「大陸地殻」はそれ以前の地殻とは全く異なるもの。軽い。だから浮く。沈み込まない。つまり溜まる一方。(ただし大陸衝突によって沈み込むことはあるらしい。)
こうして「陸地」が生まれ、その上で地上生命が大繁殖を遂げた。人類を含む地上生命は言うまでもなく大陸地殻の支えによって生まれたのである。
このプロセスの中ですでに花崗岩が生まれている可能性もあるが、そのあたりは不明。
安山岩の中で広く見られるのが角閃石で、膨大な種類があり、有力な造岩鉱物になっている。
また玄武岩が変成した緑色片岩・緑泥岩もステージ的にはこの部類に属し、これも有力な造岩鉱物になっている。

高マグネシウム安山岩、サヌカイト。



④「プレートテクトニクス」の発生――花崗岩と変成岩のステージ

大きく形成された大陸地殻の下に循環移動する海洋地殻が斜めに沈み込んでいくという、現在形の「プレート沈み込み」現象が生まれる。
水を大量に含んだ海洋地殻は大陸地殻深部安山岩の溶融温度を下げ、花崗岩マグマを作り出す。ここには海洋地殻の上に堆積した物質・元素も含まれる。
この花崗岩マグマは高粘性ゆえにゆっくりと上昇する。その過程で周囲の岩石から元素を吸収したり、それらを混合したりしつつ、鉱物の大きな結晶を作り出す。「ペグマタイト」の美石はこうして作られる。
またプレートテクトニクスによる大陸衝突域や沈み込み帯(変動帯)では低温高圧変成岩が作られる。特に沈み込み帯では海洋性・地上性の堆積岩から様々な元素が供給され、多彩な変成岩が形成される。たとえば翡翠は玄武岩→低温高圧加水変成→曹長石→低温高圧脱水変成ででき、そこに多様な元素が加わってあの多彩な色が生まれる。

球顆流紋岩。花崗岩マグマの流出物。



⑤熱水の活動――「水成鉱物」のステージ

花崗岩マグマは冷却していくプロセスで大量に含んでいた水を吐き出す。
この熱水が様々な場所で新たな岩石・鉱物を産み出す。これを「水成鉱物」と呼ぶことにする。
熱水が石灰岩などの堆積岩にぶつかると「スカルン」が形成され、多様な鉱物が作られる。また亀裂・空洞に入り込んで冷却すると「晶洞」や「熱水鉱脈」が作られる。多くの金属鉱床がこれによって作られ、また美しい純粋鉱物の結晶が生まれる。ペグマタイトの中心部も同じ。
これが現在時点での最進化形。
つまり現人類が鉱物資源として利用するものや、鑑賞石として愛玩するものは、多くが熱水によって作られた「水成鉱物」である。

緑水晶。



⑥次の進化?

さて、この進化の先はどうなるのか。
そんなことはわからない。
最進化鉱物と最進化生物が出会ってできた人工鉱物、半導体とかセラミックスとかが次の最進化形鉱物になるかもしれない。それらを利用した情報知能新人類が生まれるかもしれない。
現人類は人工知能に駆逐されるかもしれない。美稀石はコンクリートとアスファルトの下に埋もれるかもしれない。
それとも予期せぬ大変動――シリカ・マグマや水素のキンバーライト級大爆発とか?――が起こって、地表は一変するかもしれない。
地球科学者の中には「地表の水はやがてマントルに回収され生命世界は終わる」と説く人もいる。
進化とは創造が絶え間なく続いていくことである。それがどこへ向かっているかを人は知ることができない。
一つの創造の大樹は潰え、またあらたな芽が芽生える。地球や太陽系という大樹もまた。


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