蛍光 ⑥ハックマナイトは変なやつ

ＵＶライトなんか買うかよと思っていたのを改心して買った。で、なしくずしで、有名な蛍光鉱物ハックマナイトを買ってしまった。小さいものなのでそれほど高くはなかった。
サイトの写真では薄紫がきれいだったので、別に蛍光させんでもきれいだろ、と。（うそつけ）
ハックマナイトは正式鉱物名ではなく、ソーダライト（方ソーダ石、Na4Al3(SiO4)3Cl）の一種（mindat には Na8Al6Si6O24(Cl3,S) という化学式で出ている）。与党立体派（テクトケイ酸塩）の「準長石」。ケイ酸塩の格好をしているけどハロゲン化塩のようでもある。つか、これカイヤナイトプラス食塩じゃね？　カイヤナイトを塩漬けするとソーダライトになる？（んなわけない）

で、宅急便が届いて、開けてみたら、は？
やけに白っぽい。

あれ、こんな石だったかしらと思いつつ、いそいそと（やっぱりｗ）ＵＶライトを当ててみた。
きれいにオレンジに輝く。毒々しさもそれほどではない。うむ。有名なだけのことはある。ただし色は写真には撮れない。

で、ライトを消したら、また、は？
濃い紫になっちょる。（君はどこ出身なのかな？）　光っているのではなく石の色が変わっている。

ああ、そう言えばと思い出した。ハックマナイトは紫外線を当てた後も、かなりの時間発光を続けるのだっけ。「テネブレッセンス」というらしい。
え？　これ光ってるのか？　いやあ、光ってはいないぜ。真っ暗な中で見たら何も見えないもん。

またまた難題。
蛍光については前に書きましたけど、要するに、
「（主に）紫外線を吸収して電子が励起状態になり（外側軌道に移り）、それが戻る時にエネルギーを放出する。それが可視光となって光る」
とされています。――しかしこれどうやって確認したのかな。不思議。
ですから、紫外線の照射をやめれば、すぐに石は元に戻る。時たまゼロコンマ数秒ほど遅れる石もありますけれど。
で、こいつは戻ったのか戻っていないのか。この濃い紫色は何なのか。
「半励起状態」などというのがあるのか。あまりにお調子者で、電子が二つ外の軌道に飛び出してしまい、一つだけ戻るのか。

調べてみると、蛍光だけではなく、光一般によって色が変わるというものは、有機化学関係でけっこうあって、利用した製品も作られている。レイバンのサングラス（紫外線で黒くなる）なんかは代表的ですね。これを「フォトクロミズム」という。
ちなみに温度によって色が変わるのは「サーモクロミズム」、電気を帯びて変わるものを「エレクトロクロミズム」と言う。（いいよそんなんどうでも）
で、何でそんなことが起こるかというのも研究されていて、どうも分子を構成しているベンゼン核の「腕」が切れたり繋がったりするらしい。おお、ベンゼン核なんて、何十年ぶりに見た言葉だ。（一応知ってるんだ）けど、なぜそれで色が変わるのかまではわからない。

それは有機の話。無機の鉱物ではどうなるのか。
ハックマナイトの場合、微量に混入している硫黄がこのフォトクロミズムを起こすというのが一応定説になっている。
その硫黄が他の分子と結びついている「腕」を切ったり繋いだりするのか。
紫外線のエネルギーを蓄えて、ある程度まではそれを続けるけれど、だんだんエネルギーが枯渇してきて、元の構造に戻る。は？　そんなことがあるのでしょうか。

つまるところ、ハックマナイトの「テネブレッセンス」を推理すると、
①紫外線を照射し終わった後も、電子が「極低レベルの励起状態」を長時間続ける（光は発していないけれどそれによって反射光の色を変える）のか
②微量混入した硫黄が他の分子との結合構造を一定時間変えるのか
それとも別の仕組みがあるのか
――よくわかりません。

どちらにしてもすっきりと納得できない変な話で、ハックマナイトは変な石です。
こんな石は他にあるのかな……と思っていたら、ひょんなことから「ツクツパイト」という石があることを知った。
このツクツクボウシ（違う）、グリーンランド特産の石で、ベリリウムを含むソーダライトとのこと。ハックマナイトの紫が赤になったような姿で、同じように紫外線照射後、色が持続するらしい。兄弟分のようなものかな。奇妙な名前は現地語の「Tugtup＝トナカイ」岬という地名から来ているとのこと。こちら参照。ただしバイトではない。日本語で表記するなら「トゥグトゥップ石」あたりが妥当ではないかしら。えらく高い石なので貧石枠外。

ハックマナイトは蛍光が美しいというだけでなく、謎を投げ掛けてくるという点で、とても貴重な石です。

付記：どうもこれは「燐光」に入るらしい。しかし光ってはいないような。
こちら参照。励起状態に二種類あるらしい。（2021･11･14）