ちえぞー、増殖する

　デイサービスの職員の一人が、急な体調不良にて長期休暇に入った。当然、人手不足の危機に直面する。で、この春介護福祉士の免許を無事に取得した我が母上に、急遽ヘルプを依頼した。週に一回、利用者さん達の話相手をメインに快く了承してくれた。
　で、本日はその初日だった訳だ。

　何がやりにくいって、私が一番やりにくい！　依頼をしたのは確かに私だけど、顔を上げれば自分の母親が座っている状況で仕事をするというのは、どうもやりにくいものである。だいたい、自分が仕事をしている場所を身内に見られるというのは誰でも嫌だろう。普段の自分とは違う自分がそこにはいる。その自分は「ちえぞー」であっても「ちえぞー」ではない。なんだか妙に照れくさい。それも、通常では考えられないようなテンションで、歌って踊ってお笑い芸人と化しているのだから、この姿を母親に見られるというのは……。
　それに加えて、職場なので自分の母だからと言って「お母さん！」とは呼べない。己の母を苗字で呼ぶという、この居心地の悪さと来たら！　だいたい、ほんの八年ほど前には自分もその苗字だったのだから、自分を自分で呼んでいるみたいな気までしてきた。
　ついでに、駄目ダシもしなくてはならない。自分の母親に駄目ダシをするのは結構勇気がいるものだ。子供の頃からの刷り込みで「親に反抗するなかれ」精神が根強い私にとっては、物凄いエネルギーを要する作業だった。実習生相手よりも言葉を選んでしまう。

　そんな私の気苦労はともかく、同僚達からは「さすが親子！　そっくりやねぇ。」と感心された。　特に喋り方がそっくりなんだそうだ。確かに声はそっくりである。目をつぶって聴いていたら、ちえぞーが増殖したようなものだろう。
　私が増殖……。想像したら我ながら恐ろしい図である。こんなウカレポンチが二人もいる職場って、とんでもない場所だ。

　無事に初日は大きなトラブルもなく過ぎたが、当面は週一回、母が同僚である。いつまで続くのだろう（汗）。
　わああああ、Ｙちゃん、早く治って帰ってきてくれ～！！！！